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Dear 狂愛  作者: みの
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14話 百合と私とお墓参り?

 花束をノリトさんに渡される。その花は、清潔感に溢れた白い百合の花だった。


「妹と同じ名前の花です。あの子は、その花を一番、好んでいました」


「そうなんですか……綺麗ですね」


 ノリトさんは昔を思い出しているのか、優しく微笑んでいる。その姿は、朝の光に溶けていきそうで儚く、百合のように綺麗だった。


 私は、百合さんのことを何も知らないことになっている。だから、今の彼にかける言葉がない。もし、私が言葉をかけたとしても、何も変わらない気がする。こういうデリケートな問題は、この歳になっても、対応ができない。無言で百合の花を、見つめていると、ノリトさんは、いつもの笑顔に戻り、何を考えているのか、分からなかった。


 近づいて来るわりに、自分の心には踏み込ませないって感じよね――


「それではお願いしますね」


「……はい、任せて下さい」


 バスを2回乗り換え、3時間半経った頃に、百合さんが眠っているお墓のあるお寺に着いた。お寺は、私の家にあるボロ神社よりは、ましだが寂びれていて静かだった。ふと、ノリトさんの言葉を思い出す。

 ――――最近、ここの神社が人気なのが気に入らないらしくて……


 お寺に人気を求める坊主とは、どんな人なのかしら?


 ゲームでは、声優も絵すらもないモブキャラクターだった人よね。考え事をしていると、坊主らしき、お年寄りがいたので話しかける。


「すいません、お坊さんですよね? 蒼井家のお墓ってどこにありますか?」


「なんじゃぁ? 別嬪のお嬢さんは、……あのボロ神社の色男の恋人かのう?」


 まじまじと観察されるような視線にイラッとする。しかし、お墓の場所を聞くまでは、顔に出すわけにもいかない。


「……ただの知り合いです」


「どうだかのう、あの色男は人を惑わせる物の怪のような奴じゃ! わしの寺の檀家さんが、何人消えたか。わしの寿命が50年は縮んだんじゃ!」


 今、お迎えが来ても大往生じゃないですか! おじいさん! なにちゃっかり、自分の寿命延ばしているんですか!?



「あのハゲ! 自分で探したほうが、絶対に早かったわ!」


 愚痴に付き合うこと2時間後、やっと場所を教えてもらい早足で移動する。そこは、お寺の一番遠い所だった。お寺の中心には立派な墓が並んでいたが、離れるごとに質素なものが増えていく。目的の場所が見え、歩く速度を落とす。……人? ブロンドの髪、スーツを着た男の人がしゃがんで手を合わせているのが見えた。


「……藤宮先生?」


 その言葉が聞こえたのか、男の人は振り返って私を見て、一瞬だけ目を見開き驚いていたようだった。やはり、男の人は藤宮先生だった。


「簾穣寺か? こんな所で何してんだよ」


 何って、ここに来たらお墓参りしかないと思うんですけど……


「蒼井 百合さんのお墓参りに……」


「百合の? 知り合いなのか?」


「ノリトさん……百合さんのお兄さんに頼まれたんです」


「っ、則斗さんが? 今、あの人はどこにいるんだ!?」


 藤宮先生に両肩を摑まれ、強く揺さぶられる。手に持っていた花束が、がさがさと一緒に揺さぶられ、花弁が2~3枚散った。


「ぐっ、藤宮先生! 落ち着いて下さい!」


「あ……簾穣寺……悪いな、取り乱しちまって」


 私の言葉に、我を取り戻した先生は、手を離して、バツが悪そうに顔を下に背けた。私は、花束を抱えなおし、百合さんが眠るお墓を見る。小さなお墓には、先生が先に備えた、白い百合の花があった。

 私もノリトさんから預かった、花を供えて、手を合わせる。


「先生は、百合さんとお知り合いなんですか?」


 藤宮先生は、じっと百合さんの眠るお墓を見た後に、煙草を取り出して火をつける。少し間があいて、話し出す。


「百合は…………俺の婚約者だった」


「……そうなんですか」


 空気が、重い。私は、どうしたらいいの?



「……そういえば、藤宮先生はノリトさんの居場所を、知らないんですか?」


「則斗さんは、百合の葬式後に、連絡がつかなくなった……住んでいた家も売り払って、ずっと行方がわからない」


「ノリトさんは私の家にいますよ」


「は?」


 キョトンとして、私が何を言っているのか分からないという顔をした藤宮先生。もう1度同じ言葉を繰り返すと、やっと理解してくれたように、そうか、と言って目を伏せた。


「……おい、連穣寺。もう日が暮れてきたから送る」


「へ? 別に1人でも帰れますよ」


「黙ってついて来い」



 藤宮先生に引っ張られ、赤いド派手なスポーツカーに乗せられる。先生は、私の家に着くまで始終無言で運転していた。家の近くまで来ると、車が止まり、先生が車の扉を開けてくれる。


「藤宮先生って、普段は乱暴なのに、変なところで紳士ですよね」


「そういうことは黙っているのが、いい女だぞ」


 少しの間視線を交わし、2人で同時に笑った。藤宮先生は、今まで見たこともない顔で、子供のように素直に笑っていた。気まずい雰囲気がなくなる。


 こういう切換えが早い所は、大人よね……


「それじゃあ、俺は行くから」


「藤宮先生は、ノリトさんに会わないんですか?」


「俺は、今はまだ、則斗さんには会えねぇ。もう少し……心の整理がついたら来る。則斗さんはすぐにいなくなったりしないだろ?」


「多分、そうだと思いますけど」


 その言葉を聞いた先生は頷いて、帰っていった。車を見送った私は、鳥居をくぐる。このボロい神社にも、もう慣れた。


そんなに時間は経ってないはずなのにね――――?


ふと視線を感じた方向に目をやると、ノリトさんがほうきを持って立っていた。


「ノリトさん、ただいま」


 ノリトさんは私の方へ無言で近づいてくる。


 うわっ! いきなり、抱きしめられた。ほうきが転がる音が響く。


「お帰りなさい、トワちゃん」


「の、ノリトさん?」


 どうして? わけが分からない。混乱して動けない私を、抱きしめる力が、強くなる。


「今日は妹の所へ行ってもらえて、助かりました。ありがとうございます」


 それだけ言うと、ノリトさんは、ほうきを置いてきます、と言い、笑って離れる。


「っ!」


 その顔を見て、鳥肌が立つ。恐怖で、逃げたい気持ちが強くなる。ノリトさんの笑顔は、目だけは笑っていなかった。


 背を向けて歩くノリトさんの姿が見えなくなるまで、目が離せなかった。


 ノリトさんはあんなに冷たい瞳で笑う人じゃなかったのに……




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