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Dear 狂愛  作者: みの
13/30

12話 ホスト教師!回避できない!テスト返却!?

 私は昨日、重大なことを忘れていた。


「藤宮先生の呼び出しを、ころっと忘れて帰ってしまうなんて! 私の馬鹿!」


 学校に来て、教室の席に着いてから思い出したのだ。素早く時間割を確認すると、今日は藤宮先生の数学はなかった。安心して息をついた。できるだけ、怒らせないように作戦をたてなくちゃならないわ!


 素直に謝ったところで許してくれるかしら?――――

『藤宮先生! ごめんなさい! うっかり忘れて帰っちゃいました!』

『そうなのか、じゃあしょうがねぇな!』

『そうですよね!』

『はははは』『ふふふふ』


 こんなことになるわけ絶対ない!むしろ――


『藤宮先生! ごめんなさい! うっかり忘れて帰っちゃいました……』

『お前は、よほど、俺様の罰が受けたいようなだな?あ゛ぁ?』

『お許しを! お代官様!』

『俺様は教師だ! 今度という今度は許さねぇぞ!――』

『あれ、藤宮先生? 何処に行くんですか?』

『お前の、この壮絶に悪い点数のテストを、掲示板へ貼ってくる』

『そんな待って! あぁ! 行っちゃった。藤宮――』


 勢いあまって声がでる。


「――先生の鬼! 悪魔! ドS!」


「ほぉ~、誰がだ?」


「そりゃあ、藤宮先生に決まって……!」


 目の前には、笑顔を浮かべた藤宮先生がいた。どうしてここに!? 私は、ビシリと氷のように固まる。


「お前、強制連行!」


「いやあぁぁぁぁ!」


 必死の抵抗もむなしく。藤宮先生にずるずる引きずられ、連行された。どこかの部屋に入ってすぐに、煙草の臭いが鼻につく。キョロキョロと見回すと、灰皿に煙草の吸殻が山のように盛られ、プリントや教科書が、うず高く積まれた部屋であることがわかる。


「藤宮先生ここはどこですか?」


「見りゃあ、分かるだろう。数学準備室だ」


 どこが!? どうやっても、ただの汚い部屋にしか見えない!


「ほ、他の先生は?」


「なんか知らねぇけど、“この部屋は耐えられない”とかで違う場所にいるぞ」


 この俺様教師のことだ、他の数学教師の掃除を促す再三の注意を無視して、この自分だけの城を作り上げたのだろう。他の先生達の苦労が目に浮かび、同情していると、藤宮先生に話しかけられる。


「で? 連れて来られた理由わけは分かってんだろうな?」


「せ、せ、先生! 私は授業がありますので、失礼します!」


 身を翻し、扉に向かって歩く。扉に手をかけて、力をこめる。


 ガチャ、ガチャ、ガチャ!…………開かないですって!?


 後ろから、藤宮先生が無言で近づく足音がする。振り返って、後ずさりすると、すぐに背中が扉にあたる。扉と先生に挟まれた。左右にさり気なく動こうとした瞬間に、先生の両手にガードされ、身動きが取れなくなる。先生は、私の耳に、顔を近づけてくる。


「俺様がお前を、簡単に逃がすと思ったのか? よく分かってないようだから教えるが、今は放課後だ。誰も来ないぞ」


 ひいぃぃぃぃ! ヤられる! お父さん、お母さん、先に逝く娘を許して!


「殺すなら、痛くしないで! 一瞬でお願いします!」


「…………ばぁか、何を勘違いしてるか知らねぇがな。俺様がこれからするのは説教だ」


「へ?」


 思ってもいなかった言葉に、キョトンとして間抜けな声を出してしまう。意外に普通なので安心した。そんな私に言葉を続ける藤宮先生。


「死んだほうがましだと思うほど後悔させてやる」


 普通じゃなかった!?


「長くなるからな、俺様は座る。お前も、そこのソファーに座れ」


 逃げられないなら、諦めるしかないわね。ソファに座ろうと指定された所に行く……ソファーが見当たらない! 見渡しても、あるのは書類や教科書などの本の山だけ。


「藤宮先生。ソファーって何処に?」


「あ゛ぁ? 書類退かせば、そこら辺にあんだろ」


 探すと茶色の革張りソファーがあった。自分が座る分だけ書類を退かし、周りの教科書などが崩れないように、慎重に座った。


「おい、最初に、この前のテストを返すぞ」


 返された5枚のテストは、悪くない点数だった。苦手な英語も29点であった。0点は免れた。それなら、怒られるのは遅刻のことかと、身構える。


「そのテストを見て、思うことはあるか?」


「そこそこの点数だと思います」


「点数はな。他には?」


 先生が言いたいことが分からない。首を傾げながら藤宮先生に聞く。


「問題があるようには見えませんけど」


 藤宮先生は大げさに溜息をついて、煙草を吸い出す。


「名前だ。な・ま・え!」


「何も問題ないじゃないですか!」


「この阿呆が! 名前の欄に“れんじょうじ=Torauuma=トワ”ってなんだよ!まず、お前は小学生じゃないんだから苗字くらい漢字で書け!」


 しょうがないでしょ! あのテストの時は、この世界に来て2日目だ。簾穣寺れんじょうじなんて難しい漢字が書けなかった。そこは多めに見て欲しい。

 藤宮先生のほうを向くと眉間に皴をよせて、3本目の煙草に火をつけている。


「他にもあるぞ。この英字の部分は、ローマ字だな!」


「はい、そうです」


「そうか、じゃあ、お前の名前を言ってみろ!」


簾穣寺れんじょうじ=トゥルーマ=トワです」


「そのテストにはトラウウマって書いてあんだろうが!」


 ぐっ! 私は英語が昔から苦手だった。ローマ字ですら、できなかった私が、努力の末、この名前を書いたが、“トゥ”と伸ばす文字が分からなかった。苦肉の策で、これを書いたのだから、むしろ褒めて欲しい。


「お前は自分の名前すら書けねぇのか!」


「すいません……」


 私は、“佐藤さとう 永久とわ”だとか、違う世界から来たなんて言えるわけがない。言ったら、頭がおかしいと思われるだろう。

 本当の自分を知っている人がいないなんて、つらい。私がしっかりしないと、佐藤永久じぶんが消えてしまうような気がする。悲しさで涙が、滲んでくる。


「おい、泣くな。罰として、自分の名前を1000回を書いたら許してやる」


 鬼! 悪魔! ホスト! と心の中で唱えながら、名前を書いた。その間は、藤宮先生の説教は続いていた。

 その後、手の感覚がなくなったころに、終わった。窓の外を見ると、日が沈んで、真っ暗だ。


「それじゃあ、藤宮先生。帰ります」


「おい、待て」


「まだ何か、あるんですか?」


「お前を送る」


 どうせ、暗闇暗殺ルートだろう。誰が行くか!


「いりません。遠慮します!」


「お前に拒否権はない、黙って着いて来い。」


 数学準備室に連れてこられた時のように、引きずられて行く。連れてこられた場所は、職員用の駐車場だった。夜遅いせいか、1台の車しか残っていない。


「このド派手な赤いスポーツカーは藤宮先生のですか?」


「おう、カッコいいだろ! 今日は特別に乗せてやる。嬉しいだろ?」


 嬉しくないです。なんて、口が裂けても言えない。


 ド派手な車に乗せられた。家には自転車で10分しかかからないのだ。我慢よ、私! 我慢してれば、すぐに到着するだろう。車がゆっくり動きだす。


「おい、簾穣寺。家に行くのは、コンビニによってからでもいいか?」


「私に拒否権はないんでしょう?」


 そう言うと、藤宮先生は運転のため前を向いたままだったが、楽しそうに口角を上げて言う。


「可愛くない奴だな」


 うっ! 今の藤宮先生は半端なく色気があって、思わず見惚れてしまった。


 コンビニに着いて、藤宮先生が買い物をしている間、私は車で待っていた。先生は、数分も経たずに戻ってくる。コンビニ袋の中に目がいく。中にはサキイカとビールが2本しか、入っていない。


 ホストな見かけだから、シャンパンとか飲んでそうなのに。身体に悪そうな生活してそうな所は、そのままだが、予想以上に「親父くさい……」ボソッと声を出す。その声が聞こえたのか、藤宮先生は――――


「大人なんだよ。お・と・な」


 私だって、藤宮先生と同じ年だからわかる。これは、駄目な大人だ。


「藤宮先生、夕飯はそれですか?」


「別に腹が減ってねぇから、いいんだよ。文句あるか?」


「それで身体を壊さないなら、いいんじゃないですか」


 私が本当の女子高生だった頃なら、注意の1つや2つしていただろうが、大人になって自分も似たような生活をしていた。人様にどうこう言うことはできない。それに藤宮先生は、他人に干渉されて、怒るような思春期は終わっただろうが、いい気はしないと思う。大人になれば、全て自己責任だ。


「藤宮先生のしたいようにすればいいと思います」


 藤宮先生は私の家に着くまで、無言のまま運転をしていた。沈黙が支配した世界は、ひどく気まずく、息がしずらかった。家の近くに着くと、車を止めてくれた。先生にお礼を言って別れた。

 


 鳥居をくぐると、明かりの点いた家が見える。夜のボロ神社と木造の日本家屋は、昼と雰囲気が違い、不気味さが10倍はあがっている。そこに、ちょうど良く風が吹いて木の葉が、ザワザワいう音もしてくる。


 人がいる? お、お化けじゃないよね!? 


 逆光でよく分からないが、家の外で人が立っているのが見える。近づいてみると綾君が立っていたことが分かった。


 夜は気温が下がって寒いというのに、私を待っていてくれたんだろうか?


「ただいま」


「お帰り、姉貴」


「外で待っていてくれたの?」


「別にっ、姉貴を待ってたわけじゃねえ!…………あんまり、心配させんなよ」


 綾君は目をそらして、慌てていた。ツンデレな綾君のことだ、最初の言葉は、逆の意味で聞けばいい。これは絶対に待ってくれていた。でも、シスコンな綾君は夜遅くなったら、心配で学校に迎えに来ると思っていた。


 期待していたのに…………そう思って気付く。私は何を、期待したんだろう?


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