10話 日常!どうでもいい?下着の話!?
今回は恋愛要素が皆無のトワ達の家の日常です。皆が下着についての話をしています。皆が暴走しています。危なくないと思いますが、不快だと思う方は、注意して下さい。
今の生活に慣れ始めた、ある休日のこと。
3時はおやつの時間よね! 私は、台所からコンビニの菓子パンを入手して、機嫌よく鼻歌を歌いながら、部屋に戻るため、きしむ廊下を歩いていた。その途中で、廊下にある黒電話が、鳴る音がしたので、受話器をとる。
「もしもし?」
「――もしもし、トワさんですか?」
「はい、そうですけど。どちら様ですか?」
「――今日の、パンツは何色?ハア、ハア、」
キタッ!?変態さんからの電話が。まあ、こういう電話は珍しくない。
私はトリップしてきてから、美少女というものなってしまった。そのため、後ろから知らない人が付いてきたり、迷惑電話が、かかってきたりすることは体験した。美少女は罪ね!なんて最初はアイドル気分で楽しんでいたが、何度もあると、飽きたので電話対応のほとんどは、綾君やノリトさんがしてくれていた。
対応としては、綾君は電話に、ぶち切れ、怒鳴った後に受話器を、乱暴な動作で戻していた。ノリトさんは、笑顔で、呪文?みたいな言葉を話し、電話の相手に精神攻撃らしきものをしていた。そのおかげで、ずいぶんな数の迷惑電話が減った。
今日はうっかり電話をとってしまったので、対応する。
今日の私は、機嫌が良いから、ちょっとは相手してあげますか! さっきから同じ言葉を繰り返す変態さんに意識を戻す。
「――ハア、ハア、今日の……パンツ……何色?」
「今日は確か、ピンクで豹柄よ」
「――ハア、ハア、か、形は?」
「うーんと、なんていうのかしら?」
ボクサー?と答えていると、綾君が鬼の形相で、私の前に走ってきた。そんなに走ったら、床抜けるよ。この家は神社共々、ボロいんだから!
「姉貴! 誰と話してんだ?」
「えーっと、変態さん?」
「おい、すぐに切れよ!普通に対応してんじゃねーよ、馬鹿!」
綾君に受話器を奪い取られ、説教を受けた。姉貴がそんな対応しているから、迷惑電話がなくならないとか――それは初耳だわ。あの電話を受けると、なんというか。なんというか。
血が騒ぐのよね!……あ、断じて興奮するとかじゃないから! 美少年、美青年を見ると思わず、ハア、ハアしちゃうような同属の血が騒いじゃうのよね。私が、29歳まで捕まらなかったのは、ひとえに、ゲームのキャラ達にしか心を奪われなかった。そのため、ストーカー行為をする手段がなかったというだけだ。
今だって、トリップした乙女ゲームがDearじゃなかったら、毎日のように美少年、美青年を追い回すのに!
「聞いてんのか、姉貴!」
「うぇ! ごめんなさい……何の話だったけ?」
「変態と何を話してたんだよ?」
「今日のパンツについて聞かれたから、ピンクの豹柄ボクサーって答えただけよ。」
「姉貴、そんなパンツ持ってたか?」
洗濯ついでに、姉のパンツをチェックしているなんて、流石シスコン弟ね!
「私は持ってないわ。綾君のだよ?」
「俺のかよっ!それを変態に話すって本気でありえねーし!」
だって、誰のパンツとは言ってなかったんだよ!と心の中で反論する。これを言ったら最後、ものすごく、怒られるに決まっている。29年間の生活で反論したら、倍返しにされるということを学んだのだ。とくに狡猾な姉には、度々、罠にはめられていた過去が大きく、私を我慢強い子に成長させた。
綾君の説教を右から左に流していると、ノリトさんが近づいてきた。
「綾くん、何かおもしろ……不思議な話をしていますね?」
普通に素が出ましたよね!? 面白い話って言いかけていたし! この腹黒! イケメン!
私が心の中で、ノリトさんを罵倒していると、話が進んでいく。
「そんな電話があったんですか。トワちゃん怖かったでしょうね。大丈夫ですか?」
別に……なんて言えないよ! 言ったら変なフラグ立ちそうだから! 私が無言でいると、怖がっていると思ったのか、綾君が話を変える。
「そういえば、ノリ兄の洗濯もしてるけど、パンツとか見たことねえな」
「え?ちゃんと毎日出していますけど?」
ノリトさんは、そう言って廊下の窓から見える洗濯物を見る。視線の先には、快晴の下に気持ちよさそうに風に揺れる、白く長い布?……
ふんどし、ですって!? 今時、萌え業界にも、そんなに需要のないものを履かないで!
綾君は気付かないようで、やっぱりないじゃんと、ノリトさんを不思議そうに見ていた。硬直した私に気付いたノリトさんは笑顔で話しかけてくる。
「トワちゃんはわかったようですね?」
聞かないで! セクハラよ!? と思いつつ、自然とノリトさんの下半身に目がいってしまう。ノリトさんは、何を勘違いしたのか、してないのか話を続ける。
「そんなに僕が気になりなすか?」
「気になってないわよ!ふんどしに興味があっただけよ!」
「「「……………」」」
しまった! 本音が出てしまったわ!
3人に沈黙が広がる。その後、最初に口を開いた強者はノリトさんだった。
「そんなに興味があるのでしたら、僕の……見ますか?」
もう何も言うまい。魂が口から完全に出た私は、遠い目で外を見る。洗濯物が気持ちよさそうに揺れているところが、再び、目に入る。その横で、綾君がふんどしをすれば……という不穏な言葉は聞こえてないことにしよう。
その数日後から一時期の間に、洗濯物からボクサーパンツが消え、干してあるふんどしの数が増えたことなんて、家事を一切しない私は知らなかった。
読んで下さった方、ありがとうございます。