06話:戦闘準備。死の匂い漂うユーリシア星系外縁部
【アステロイドベルト帯】
ユーリシア星系外縁部――アステロイドベルト帯。
かつてここには惑星があったらしい。だが、はるか昔、何らかの要因で崩壊し、今では小さな岩塊が無数に散らばっているのみだ。
「小さな」といっても星としての話であり、イナミネから見ればどれも山のように巨大だ。
ヒロトたち、新たに配属された面々は命令に従い、このアステロイド帯へ展開した。
すでに先に配置されていた部隊が損耗し、彼らはその穴埋めとして送り込まれた形だ。
守備隊は、第3艦隊から派遣されたライオネル大尉が全体の指揮を執っていた。
とはいえ配置はあくまで後方で、艦数もごくわずか。どう見ても「形式上の指揮」であり、危険を冒す気はさらさらない様子がありありと見えた。
配置に向かう途中、交代する損傷艦とすれ違った。
ひどい有様だった。
それを目の当たりにした瞬間、指揮所の誰もが息を呑んだ。
ヒロトは表情こそ取り繕っていたが、足がわずかに震えていた。
ここでは、一つ判断を誤ればこうなる。いや――まだ彼らは幸運だ。生きて後方へ下がれているのだから。
死の気配。
宇宙空間で「匂い」など伝わるはずもないのに、ヒロトは確かにそれを嗅ぎ取っていた。
怖い――。
だが、怖いまま目をつぶっていれば、死ぬのは自分たちだ。自分も、クルーも。
ヒロトは「ちょっと休憩」と自然を装い、指揮所を抜けてシャワー室へ向かった。
勢いよく湯を浴びながら叫ぶと、不思議と落ち着いてくる。
ついでに少量のアルコールを煽ったが、その程度で持ち直せたのは、リード教官のおかげだ。
即校時代、リード教官に呼び止められ、容赦なく戦争の現実ってやつを見せつけられたことがある。
あの時は吐いてしまったが――今回はそこまでではない。
あの人は、こうなる未来を見越してあえて“慣らし”てくれていたのだろう。
指揮所へ戻ると、カイテル少尉が「ちょっとアルコール臭いです」と小声で指摘してきた。
だがそれ以上は何も言わない。普段なら「不謹慎です!」と怒鳴るセラフィス准尉でさえ、何も言わなかった。
察して何も言わないクルーたちに感謝しつつ、ヒロトは改めて「どう勝つか」を考え始めた。
【発見】
結局、配置についてから三日間は何も起こらなかった。
当初ガチガチだったクルー達の緊張も、緩み始めた――そのときだった。
「センサーに反応!識別不明、数およそ200!連邦軍駐留地点から直進で接近中!ヒロト少尉、恐らく敵です!」
いつもは凛とした声のアルマーク准尉が、わずかに上ずった声で叫ぶ。
「警戒長、念のため確認だけど。自然物――彗星群の可能性は? あと、相対距離と速度は?」
ヒロトは落ち着いた声で返した。
「っ……は、はい! 失礼しました!
この数と整然とした動きから、自然物の可能性はありません。相対距離3.2光秒。速度は毎時0.2光秒で接近中!」
「なるほど。となると、戦闘距離まではまだ時間がかかるね。――わかった。全艦に戦闘配置を発令」
「え……あ、はい! 全艦戦闘配置!」
カイテル艦長は一瞬戸惑いながらも、イナミネ艦内に指示を出す。
「警戒長、敵の動きに変化があったらすぐ報告を。このままだと……戦闘距離まで10時間ってところかな。
それと、艦長、30分たったら一度通常配置に戻して」
「承知しました」
小声で「そういうことか……」と呟きつつだが、今度のカイテル艦長の声は淀みなかった。
その後、追加の報告が入り、敵の総数は1,000隻へ増加。
こちらは300隻ほどなので、三倍の戦力を投じてきたことになる。
守備隊を叩くには十分だが、第3艦隊主力と戦える規模ではない。
――強行偵察、あるいは嫌がらせだ。
過去の戦歴を参照すると、似た規模の襲来が何度も繰り返されていた。
敵勢力は総数20,000隻とこちらを上回っているが、後方の内戦もあって決戦は避けたいらしい。
その結果、守備に就いている即校隊との小競り合いが繰り返されていた。
小競り合いと言っても、戦闘経験の乏しい即校隊は、毎回大きな損害を出していた。
隊列を乱すことが多く、味方射撃に巻き込まれ、突出して袋叩きにされ、
中には内部反乱で自爆……という艦まであった。
そんな中、過去に一度逆撃を加えようと、第3艦隊主力が動き、アステロイドベルト帯から出たこともあったが、敵主力もでてきて、まともにぶつかる形となり、第3艦隊主力にもかなりの損害が出ている。
以来、第3艦隊首脳部は数的不利での決戦を忌避し、増援の即校隊に迎撃を任せている。
――1,000隻か。よかった。
想定内だ。
ヒロトは作戦説明のためブリーフィングルームへと向かった。




