05話:仲間を背負って。諦めからの静かな決意
【イナミネ通路】
イナミネの指揮所へ向かう通路――その上を滑る搬送フロートの上で、ヒロトはまた、つい物思いに沈んでいた。
薄々気づいてはいたが、自分はどうにも考え事に意識を持っていかれがちだ。他人よりも、頭の中でいろいろこねくり回して、ぼーっとしてしまう癖がある。
もともとは人付き合いが苦手ってほどでもなく、どちらかと言えばそれなりに闊達な性格だったと思う。
……両親が戦死するまでは。
あれ以来、人と話さなくなった時期があって、その頃からだ。気がつけば考え込む癖が根付いてしまった。
さっきだって、オイゲンに励まされたくらいだ。傍から見れば「どんより落ち込んでるヤツ」に見えたんだろう。
勝手に分艦隊指揮官になんて任命されてしまった――けど、十二隻を束ねる指揮官なんだから、せめて皆の前では元気な顔を見せないと。
【イナミネ指揮所】
そんなことを考えているうちに、ヒロトはイナミネの指揮所に到着した。室内に入った途端、全員の視線が一斉にこちらを向く。
……うん、揃ってる。
と、そのとき、ちょうど情報環が出撃命令を受信した。
タイミングよく届くもんだな。いや、これ監視されてる?
いやいや……まあ補給完了のタイミングってだけか。
ヒロトは気持ちを切り替え、できるだけ明るく声を張った。
「皆、傾注! 準備でき次第、速やかに出撃だってさ! いやー、なんか俺らめっちゃ期待されてるみたい!」
同時に指揮所の壁面へ、司令官からの命令文と配置情報を情報環に投影させる。
「というわけで、注目。これが命令文と配置情報ね」
映し出された内容を見たイナミネ艦長、カイテル少尉がぱっと明るい声を上げる。
「おーっ! これは……いい感じに活躍できそうですね!」
「だよね! うんうん、いい感じ!」
――が、その空気を切り裂くように、操艦長のセラフィス准尉が冷え冷えとした声を投げた。
「ヒロト少尉。この配置情報、第3艦隊主力の配置が見えません」
「ん? んー…えーっと?そうだなー、ないなー。なんでだろう?」
「ヒロト少尉! その寒い芝居やめて、ちゃんと説明してください!」
「え、あ……はい。なお、第3艦隊主力はこの基地で待機。必要に応じて支援……だって……」
観念して、ヒロトは隠していた情報をすべて投影した。
次の瞬間、セラフィスの顔がみるみる赤く染まっていく。
……うわ、やっぱり怒るよね。だから削ったのに……。
「ありえません! なぜ着任早々の部隊だけで戦うんですか!? 本来ここで第3艦隊と合流して再編成してから出撃するはずでしょう!? どうして――!」
「いやあ、なんでだろうね……ほんと……」
そのとき、隅からひょいと声が飛ぶ。
「即校隊だからでしょ?」
武器長のハーラン准尉だ。
ちょ、ハーランさん!? NGワードを軽率に出すなって……!
「はあっ!? 即校隊だからって何!? そんな理由で片付くわけないでしょう!? 合理的じゃない! ありえない! 馬鹿じゃないの!」
「まあまあ……一旦、落ち着こう?ね?」
「さっきの会議でヒロト少尉は何も言わなかったんですか!? これじゃ死ねって言われてるようなもんですよ!? それでいいんですか!? 分艦隊指揮官として、それでいいんですかっ!?」
うぉぉ……まあ、気持ちはわかる。わかるけど……!
「命令だからでしょ?」
ハーラン。マジで黙って……!
「命令だからって! じゃあ今ここでヒロト少尉が『死ね』って命令したら死ぬんですか!? 死なないでしょ!? それと同じでしょ!」
「いや、命令ならしょうが――」
「正気!? だったら今ここで私が! 殺してあげるわよ!」
セラフィスが右腕をぐるんぐるん回しながら、じりじりとハーランへ迫る。
「そこまで! 二人とも、もうやめろ!」
アルマーク准尉――警戒長が低く通る声で制止した。
おお……アルマーク准尉……!
「ヒロト少尉が困ってるだろ。落ち着け。同じ艦のクルーだろ?それに、ここで喧嘩なんて、それこそ非合理的だぞ」
ああ、この凛とした声……癒やされる……。ここまでの航海中、この声に何度救われたことか。
「ふん!」
セラフィスはぷりぷり怒りながらも、しぶしぶ席へ戻る。
ハーランも肩をすくめ、「やれやれ」と呟いて、それ以上の挑発はやめた。
よかった……けど、胃が痛い……。
「ありがとう、アルマーク准尉」
アルマークは爽やかにウィンクを返す。……爽やかだ。
ヒロトは息を吐き、気持ちを整えた。
ここは、きちんと説明しなければならない。
「まあ、セラフィス准尉が怒るのは当然だよ。艦隊主任参謀は“時間を稼いで戦力が整うのを待つ”って言ってた。これは、この戦場だけ見れば、正しいのかもしれない」
「でも、俺は間違ってると思う」
ヒロトの声は静かだった。
「ヴァレント側は一旦引いたけど、本国にはまだ大艦隊がある。それが戻ってきたら、ユーリシアは終わりだ。だから持久戦じゃなく、短期決戦で叩いて、早く国力を回復させるべきだと思う」
「じゃあ、なんで――」
セラフィスが口を開こうとするのを手で制し、話を続ける。
「会議でも、説明が終わった瞬間に司令も参謀も、さっさと引き上げた。正直、司令部は即校隊なんて時間稼ぎのコマで、期待してるのは正規の大人たちの増援なんだと思う。そういう考えの人たちに文句を言っても、無駄だよ」
「で、どうするかだけど――」
一呼吸置いて、ヒロトは言った。
「まず、ハーラン准尉の言うとおり、これは命令だ。だから、やらなきゃいけない」
「でも無駄死というのもダメ。これはセラフィス准尉の言う通り。
……そして、このまま敵増援が来て“はい、時間切れ”ってなるのもダメだ」
ヒロトはまっすぐ皆を見た。
「だからまずは戦う。戦って、司令達が俺たちへの見方を変えるくらい圧倒的に勝つ。
そのうえで、作戦方針の変更を具申するしかない」
そうだ…なんとかしなきゃいけない…自分が…。




