04話:巡航統制艦イナミネ。戦闘の様相
【艦艇駐留所】
ヒロトが艦艇駐留所に戻ると、艦はちょうど補給物資の積み込みが終わったところだった。
艦の補給ハッチがゆっくりと閉じていく・
まだたった90日しか経っていないのに、基地の居心地の悪さが逆に「家に戻ってきた」ような感覚を覚えさせていた。
ふと沸いた妙な感傷に浸りながら、ヒロトは改めて乗艦を眺める。
―王立宇宙軍マールⅢ級巡航統制艦、艦名:マール17,233号。
艦名は単にマールⅢ級の中で17,233番目に竣工したから17,233号。なのだが、乗員たちの投票で「イナミネ」に改名されていた。
ユーリシアを出航2日目にして、「味気ない」と言われ、艦名投票が行われ、その結果が「イナミネ」だった。
それ以来、乗員たちの間で「イナッち」や「イナ子」など、さらにめいめい勝手な愛称で呼んだりしている。
そのイナミネは全長1200m、全幅100m、見た目は巨大な円筒のようだ。
知ってはいたが、実際、初めて見たときは「こんな巨大な艦を指揮するのか…」と驚き、緊張した。
だが、今ではすっかり慣れてしまって、「大きさの割に居住区狭くない?」と愚痴ることも増えた。
艦自体は巨大ではあるが、そのほとんどは主砲と推進器が占めているのだ。
艦影は遠くから見るとペンのように見える。そのため、艦名投票では次点が「ペンちゃん」だった。
もし採用されていたら「ペンちゃん、攻撃開始!」などど言うのだろうか?うーん、どうにもしまらない…
ヒロトの視線がイナミネの先端部の方にに向く。先端部には主砲の発射口が並んでいる。
主砲は、質量弾とビームの2段式になっている。
以前はビームだけだったが、シールドのビーム減衰効果が次第に高まり、打ち破れなくなってきた。
そこで、現在は質量弾を使ってシールドを突破し、その後、ビームで艦体を直撃する2段式に切り替えられている。
この攻撃方式の事情により、現在の艦隊戦の様相が形作られた。
質量弾とビームはシールドを突破するため、同じ軌道を描かなければならない。
しかし、質量弾は亜光速で着弾までに時間がかかる。その間に艦が動いてしまうと、ビームの軌道が逸れてしまい、シールドを通過できない。
つまり、発射から弾着まで艦は動けない。
なので、交戦時は敵味方ともに止まる、撃つ、動く。の繰り返しで行われる。
質量弾は観測が容易で”遅い”ため、長距離では回避に専念すればほぼ当たらない。
しかし、回避のために動くとなると、今度は自分の砲撃が有効にならない。
「動くか?撃つか?」この選択が常に問われる中で、艦隊戦は進んでいく。
大規模な艦隊戦になると、回避されても近傍艦の弾が命中するよう、艦列を並べ、砲弾のシャワーを浴びせるように撃つのが定石となる。
最も、シールドさえなければ、動きながらでもビームを偏光して致命傷を与えることができる。
艦の後方の推進器周辺にはシールドが張れないので、後ろに回り込みさえすれば、一方的に敵を撃破できる。
ただ、そんなことは常識なので、敵が後ろに回り込むのを指をくわえて見ているバカはいないわけで…。
ところが、ソレント沖会戦ではヴァレントの艦隊がユーリシア艦隊の後ろをとったことで、
記録的な大敗を喫する羽目になった。
この時はヴァレント側が1艦隊を丸々おとりとし、壊滅させられている間にユーリシア艦隊の後方に回り込んだという、非情極まりない戦術を取ったのだ。
まあ、ソレント沖海戦は本当に稀な事例だ。基本は機動しながらも、最後にはお互いに艦列を並べあって正面から撃ち合い、削りあうのが一般的だ。
そんな消耗戦するのに全艦が有人とあっては、物的損耗もさることながら人的損耗も馬鹿にならない。
そこで、現在では通常、有人艦1隻に11隻の無人艦が付き従い、有人艦の統制を受けて行動する。
そして、これが艦編成の最小単位となっている。
艦隊戦時はこの無人艦が前衛に出て、有人艦の盾となりつつ攻撃することで、人的な損耗を防いでいる。
ただ、横に回られたり、そうでなくてもある程度の角度差ができてしまうと有人艦への射線が通るため、損耗が0というわけにはいかない。
結局のところ、このあたりの攻防の戦術はいたちごっこという訳だ。
当然、イナミネにも従属する無人艦が11隻いる。無人艦は従列艦という艦種で、全長はイナミネの半分ほどの580m。これは質量弾の加速性を犠牲にして、資源を節約した結果だ。
また、居住区画などが不要なため、全幅、全高も90mと一回り小さい。
各艦は、ただ「1番艦」から「11番艦」までの番号で呼ばれる。皆、自分が乗ってないので無人艦への感情移入はないようだ。
ヒロトがあたりを見渡しても、無人艦は一隻も見えない。既に補給を終え、基地の周辺で待機中のようだ。
突然、背中に衝撃が走った。
振り返ると、オイゲンが満面の笑みを浮かべて立っていた。
感傷に耽っていたヒロトの背中をオイゲンが蹴り飛ばしたのだ。
「痛てて…容赦ないな…!」
「なーに妄想してんだよ、変態!」
痛みに顔をしかめながら背中をさするヒロトに、オイゲンがニヤニヤしながら言葉を浴びせる。
「お前、絶対アレだろ? イナミネをケツの穴に突っ込んだらどうなるだろ?とか、いつもみたいに考えてたんだろ?すげーな?レベル高すぎてついてけねぇよ!」
「いや、いつも思うけどさ、どこからそういう発想出てくるわけ?」
ヒロトは呆れ顔で答える。
「はぁ? 俺たちが考えることって、結局『穴に突っ込むか?』か『穴に突っ込まれるか?』しかねぇだろ? 俺たち、思春期だぜ、思春期!」
「お前なあ……」呆れた顔で呟くヒロトの腹に向けて、オイゲンがぐっと拳を突き出す。
「まぁ、俺はお前と違って、穴に突っ込みたいワケ!せいぜい、ヴァレントの穴に突っ込みまくってやるから! じゃーな!」
オイゲンが両手をヒラヒラと振りながら、乗艦のほうへ軽い足取りで去っていく。
多分、オイゲンは立ち尽くしている俺のことを気遣って励ましてくれんだ。
無神経なようで、アレで人のこと見てるんだよな…
俺も少しは見習わないと…と、思いながらヒロトはイナミネに向かって歩き出した。




