02話:即校。突き付けられた現実
【教官】
勢いよく開いた扉から、ドタドタと足音を響かせて一人の男が入ってきた。
そのまま教壇に立つと、彼はぱんと手を叩いた。
「よっし、皆おはよう! そして初めまして!」
軽い。
あまりにも軽い。
ヒロトが最初に抱いた印象はそれだった。
軍服こそ着ているが、さっきのタキ中将とは対照的だ。
動きは柔らかく、厳めしさの欠片もない。
「俺の名前はリード。見ての通り軍人だ。階級は中尉。で、現在彼女募集中だ。……が、お前らじゃちょっと足りねえな」
リード中尉は胸の大きさを手で示してニヤリと笑った。
――全員、無反応。
それでも彼はまったく気にした様子がない。
「ま、なんだ。タキ中将の話は聞いたよな? うんざりしただろ。
あの人はあの人で色々あるんだ。気にしなくていい。
……ま、何を言おうとお前らを戦場に送り出してる時点で、俺らも含めてクソだけどな」
これにも反応は薄い。
ただ、先ほどまでの重苦しい空気が少しだけ緩んだように感じられた。
気のせいかもしれないが、それでもヒロトは肩の力がほんの少しだけ抜けた気がした。
(タキ中将みたいな軍人ばかりじゃないんだな……)
そんな感想が自然と浮かぶ。
「さて、授業を始めるぞ!」
手を叩いて、リードは空気を切り替えた。
「俺が主任教官だ。つまりお前らの担任ってわけな。
時間がねえから、この学校の基礎説明は後で情報環で見とけ。
自己紹介も適当に済ませとけよ」
軽い口調だが、内容は重い。
ヒロトは無意識に背筋を正していた。
「ここでは、“情報環では得られない体験”を中心にやっていく。
知識は情報環で頭に突っ込める。だが前線じゃ知識だけじゃ死ぬ。だからここに集められてるわけだ」
その言葉に、教室の空気が再び引き締まる。
「そしてもう一つ大事なことがある」
リードの声が少しだけ低くなった。
【突き付けられた現実】
「この部屋は艦艇指揮官の養成を行うクラスだ。
つまりお前らは、厳正なる抽選の結果――前線で艦艇を率いる役割につくことになった」
ざわっ、と空気が揺れる。
当然だ。つい数日前まで一般学生だった少年たちが、いきなり「艦艇指揮官」などと告げられれば。
「ただ、抽選とはいったが……本当にくじ引きして決めたわけじゃねえぞ。
提出された情報環のプロファイル――つまりお前らの性格・成績・反応速度、色々だな。それをまとめて適性を判断している」
(適性……? そんなの、いつの間に)
ヒロトは眉をひそめた。
情報環に登録された個人データは、軍にすべて送られている。それは知っていたが――。
「それから、ここは学校っぽいが学校じゃねえ。軍だ。
この時点でお前らは王立宇宙軍・教育編成集団・第20201教育隊の隊員だ。
俺は上官。命令違反には罰則があるから気をつけろよ?」
(……決まってるんだな、全部)
ヒロトは胸の奥が冷えるのを感じた。
期待していた。
ほんの少しだけ。
「戦場じゃなくて、星系内の事務仕事に回されるかも」と。
「まだ逃げ道があるんじゃないか」と。
しかし今、すべてが確定した。
――前線の艦艇指揮官。
――逃げ道なし。
(……ああ、やっぱり死んだな)
おちゃらけた態度のリード中尉でさえ、言っていることは現実を突きつけてくる。
それが余計に重かった。
「じゃあ、さっそく最初の授業を始めるぞ!
全員、起立! 俺についてこい!」
リードが勢いよく振り返ると、全員がもぞもぞと立ち上がった。
ヒロトもその一人だ。
だが、足は少し震えていた。
不安しかなかった。




