01話:当選通知。諦めの初登校
【プロローグ】
星暦497年。
宇宙では今、二つの国家――ヴァレント連邦国とユーリシア王国が、生き残りをかけて戦っていた。
最初はユーリシアが優勢だった。いくつもの会戦に勝利し、国民も「このまま押し切れる」と信じていた。
しかし、戦争は甘くない。
国力に勝るヴァレントが徐々に反撃を始め、戦線は次第に押し戻されていく。
そして運命の“ソレント沖会戦”。
ユーリシアは歴史的な大敗を喫し、二十あった有人惑星のほとんどを失った。
残るは本星のみ――。誰もが敗北を覚悟した。
だが、勝利目前だったヴァレントのほうが、そこで足を滑らせる。
戦後の主導権争いから国内で派閥間の対立が激化し、ついには艦隊の多くを呼び戻して内戦を始めてしまったのだ。
その隙に、ユーリシアはわずかな戦力を再編成。なんとか戦線を立て直すことに成功した。
――ただし、その代償は重い。
国はついに、徴兵年齢の大幅引き下げに踏み切る。
少年たちを、戦場へ送るのだ。
【目覚め】
耳元のアラームが爆発したみたいに鳴り響き、ヒロトは布団の中で飛び起きた。
「……うるさっ」
情報環に軽く触れて音を止める。ぼんやりした視界が徐々に明るくなり、壁に掛けられた深い紺色の軍服が映り込んだ。
「……そっか。今日から、即校か」
気の乗らない声が思わず漏れる。
重い体を起こし、朝の支度をして軍服に袖を通す。
祖母に挨拶して、家を出た。
両親はいない。ソレント沖会戦で戦死した。
この国では、珍しくも何ともない話だ。
家の前に停めてあるフロートに乗ると、情報環が自動運転を開始し、乗り物はふわりと浮き上がった。
運転は全部自動なので、ヒロトはただ空を滑る景色をぼんやり眺めるだけ。
(両親が死んだと聞いたときは、ヴァレントを全員ぶっ殺してやる、とか思ってたんだけどな……)
その決意も、戦況を調べていくうちに溶けてなくなった。
どう考えても、前線に行けば死ぬだけだ。
怒りも、悲しみも、全部どこかへ消えた。
ヒロトは空っぽになったみたいに、気力のない日々を過ごしてきた。
そんな時に飛び込んできた徴兵年齢引き下げのニュース。
そして、17歳の誕生日に届いた「当選」の文字。
(“当選”ね……笑えないな)
【即校】
“即校”。正式名称は「ユーリシア救国義士即成学校」。
名前だけ聞くと立派だが、実態は前線の穴を埋めるための急造育成機関だ。
卒業して前線に行くとほとんどが速攻で戦死することから、若者の間では
「速攻で死ぬ、即校」
という名前で定着している。
即校の卒業生で編成された急造部隊は、「即校隊」と揶揄されている。
フロートが自動で校門前に降り立つと、ヒロトが降りた瞬間、チャージボックスに向かって飛んでいった。
校舎自体は普通の高校とほとんど変わらない。徴用されたもので、新築でもなんでもない。
ただ一つ違うのは――
タタタタタッ!!
遠くから聞こえる、乾いた連続音。
大昔の火薬銃の音らしい。
宇宙艦の建造に資源を全部突っ込んだ結果、ビーム兵器が足りず、本当に火薬銃を使うしかなくなったという話だ。
(まあ、敵の防護服にはほとんど効かないって聞いたけど……。音だけは派手だよな)
そんなことを考えながら校舎に入り、情報環の矢印に従って階段を上がる。表示された行先は「201号室」。
【201号室】
教室にはすでに大勢の少年たちが座っていた。
ヒロトの知っている顔は、ほとんどいない。
情報環に席が示され、ヒロトは指定された席へと歩いていく。腰を下ろした瞬間――
視界いっぱいに、中年軍人の顔が投影された。
「ヒロト君! ユーリシア救国義士即成学校への入学、おめでとう!」
やたら声がでかい。
「私は王国宇宙軍、教育編成集団司令官のタキ中将である!」
(……いや、別に入学したかったわけじゃないんですが)
ヒロトの心のツッコミを無視して、タキ中将はさらに声を張り上げる。
「君も知っている通り、我が王国は現在、ほんの少しだけ劣勢に立たされている! だが心配は無用だ! 我らがユーリシア陛下が見守る限り、蛮族ヴァレントに敗北などあり得ない!!」
顔を真っ赤にし、青筋まで浮かべながらの熱弁。
ヒロトの胸のあたりが、どんどん冷えていく。
「今日から君も王国宇宙軍の一員だ! 最新鋭の武器も用意してある! 愛国心さえあれば、蛮族など一撃粉砕であるっ!!」
演説が熱くなればなるほど、ヒロトの心は逆方向へ落ちていく。
(……ああ。これは、ダメなやつだ)
ヒロトは指先で軽く弾く仕草をする。
それに反応して、タキ中将の映像は視界の外へと追いやられた。
「はぁ……もう、駄目なんじゃないのか、これ」
ほとんど聞こえない小さな呟き。
だが、その声は――勢いよく扉を開けて入ってきた誰かの騒がしい足音に、あっさり掻き消された。




