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ep25. サラウンドオーバー2

 黒はゆらりと揺れ、勢いよくこちらに向かって来る。


「──────!」


 ボレアスは遅れること無く剣で防ぐ。ガキィンと金属音が鳴り響き、一瞬辺りを火花が照らす。


「反応速度は悪ないみたいやね」


 短剣を滑らせて一歩下がる。だが、それを逃さんとアルラが大剣を振るう。されど同じく煙となって斬撃を逃れる。


「無駄かてなんべん言うたらわかるん?あんたらに勝ち目あらへんのやさかい大人しゅう死んどけや」


 腕を天に、その後勢いよく短剣が振り下ろされる。アルラは大剣を上に構え、防御態勢を取る。


 ──────取っていた。

 目前に見えた景色は異常であった。振り下ろされた短剣は、構えていた大剣をすり抜け、アルラの体を斬ったのだ。


「ぐ──────っ!」


 致命傷ではない。が、


「…うおおぉ!」


 出ている血に目もくれず、大剣をヘルベルトに向けて振り下ろす。けれど、見ていた光景は少し違和感だった。

 彼は避けたのだ。先ほどまで体を煙として攻撃を受け流していた彼が。大剣の二撃目。それは先ほどのように煙と化して受け流す。


 なるほど、わかったぞ奴の攻略法が──────!


「アルラ!」


 長年の付き合いのためか、その一言で全てを察する。ボレアスは端から現状を把握していた。

 俺はそれを今受けた。考えていることは一緒のはず。磨かれたとて石は石のまま、塗着サラウンド塗着サラウンドのままなのだ。

 以前、ボレアスから聞いたことを思い出す。

 塗着サラウンドは、全体に纏う行為と一部分に纏う行為は両立できない。両立しようとしても一部分から全体に行き渡る時間は、初めから全体に纏う時間より長い。攻撃力は落ちるが、ある程度攻防を一体化できる全身纏いの方が体力の消費も時間も無駄にならない。

 つまり、ヘルベルトのすり抜ける斬撃は短剣に意識を集中させなければ打てない技。術色ヴィヴィオンと一体化できるとは言え、個人の限界ではなく術そのものの限界は突破できないようだ。

 守りに走っていれば絶対に殺せぬ相手。だが攻めに入れば必ず隙が生じる。ヘルベルトもアウリガ様を討つためには俺達二人を殺らねばならない。

 攻撃と防御の隙間を、逃さない──────!


「ハ────────!」


 アルラが声を上げながら、両の手に握る大剣を振りかざした。

 もちろん攻撃はすり抜ける。煙を睨む。


「こっわ。ちょっと睨まんといてや。おしっこちびったらどないすんの」


 隙と見たか、舌を動かしたヘルベルトは短剣をアルラ目掛けて突き刺そうとする。刹那、


「──────────!」


 無呼吸。体全体に力を入れる。

 ボレアスはそこに一撃を入れようとする。けれど、それも虚しく煙を裂くのみ。だが意味がないわけではない。

 必ず─────────


「ほんまにしつこいわ。ちゃっちゃと死ねや」


 迫り来る短剣はボレアスの左肩を標的としている。

 先刻承知。

 ボレアスは剣でそれを受けようとする。もちろん、アレが来ることも知っている。いや、来てくれなければ困る。


「!─────────」


 来た。

 青白い剣を刃の形をした黒い煙がすり抜けてきた。煙は止まらず、ボレアスの左肩へと吸い込まれてゆく。


「ガ───……!」


 ドスっと重い音を立て、短剣はそこに刺さる。

 瞬刻、闇を裂く稲妻のように、雲を払う暴風のように。疾風迅雷。大剣使いとは思えないほどの速度で間合いに入ってきた。

 アルラの肉体の限度。これを続ければ必ずと言っていいほど足を負傷させ動けなくなる。故に一点集中。ここしかないとばかりに突っ込んできた。大剣に赤い罅は無い。解憶アンロックは解除している。


「うおおぉおぉおおおおっ!」


 底から咆哮。ここで殺すと伝わってくる。轟音と共に迫る大剣。だが突如、耳に残る高音が聞こえ、目の前に閃光が現れた。


「アホか。短小一本で来るわけないやろ───────」


 アルラの一撃は、いきなり姿を見せたもう一つの短剣によって防がれていた。


「惜しかったなぁ。ただ一つの観点に囚われ過ぎや。せやからこれを想定できひんでそないなビックリした顔するんやで」


 ボレアスの肩から短剣が抜かれ、大剣を抑えているもう一つの短剣に重ね、アルラを後方へ飛ばす。

 傷口を抑える。まさかヘルベルトが持つそれは短剣ではなく双剣の片割れだった。茂みから投げて奇襲を仕掛けてくる奴だと思い込み、暗殺武器しか持ち合わせていないと思っていた。

 認めたくは無いが、一つの観点に囚われていた。

 ヘルベルトは双剣の柄を回す。するとシュッと音を立てて双剣の柄が伸びる。片手剣の柄よりも少々長い。これで彼の攻撃範囲が拡大された。


「普段喧嘩してる奴と息を合わせなあかんのしんどいわな。空気読んで、邪魔くさない?調和使うたら?ああ、片方(ダイヤ)やさかい意味あらへんか」


 回る舌を斬りたいという思考が走る。けれど体すら斬れない現状、その舌を止める方法は無い。


「仮にダイヤやなかったかて喧嘩ばっかりしてるさかいお手手の合わせ方もわからへんやろ。せやから俺が今から見したるわ。繋ぐ強さいうの」


 駆け出す。

 狙いはアルラ。同時にボレアスもそっちに駆け出した。死なば諸共か、アルラも大剣を振るう。攻撃はすり抜けるかと思いきや、攻撃は大剣に防がれる。だが─────


「ぐっ……」


 もう片方の手に握られた短剣が、アルラの腹の中央を刺した。


「アルラ─────!」


 そして彼は察したのだろう。刺された傷を気にも留めずにこちらに叫ぶ。


「来るな!」


 瞬間、ヘルベルトはアルラを刺した方とは逆の手に握られていた短剣の柄頭を、刺してある短剣の柄頭に合わせる。

 まるで手を重ねるように、柄頭が一つとなり、それは双剣ではなく両剣として、


「もう遅いで、二人そろうて死に腐れや」


 アルラの腹を中央から左へ、肉塊の拘束から自由になった刃はもの凄い勢いで半周し、ボレアスの胸を横に斬った。


「が、ぁ───────……」


 神二人は地面に倒れ込む。屍食鬼グールは両剣をグルグルと回し、刃に着いた血液を払う。

 どちらも重症。神の回復速度は人間より若干速いが、直前に負った傷ならば、人間とそう大差ない。


「う、ぅ……」

「…あ─────…」

「クハハ、声も出せへんみたいやな。ほらあんたら出てこいや」


 すると茂みの奥から赤い屍食鬼グールが二体出てきた。その屍食鬼グールは地面に倒れ込んでいる神二人の髪の毛を掴み、立膝を強要される。


 何をする気だ。アウリガ様についての情報を聞き出すつもりか?…いや、そのような素振りは見受けられない。まさか──────


「しっかり支えとけや。今から二人同時に首を刎ねたる──────」


 両剣をぐっと後ろに、力を込めている。辺りに気配はない。ここまでなのか、僕達は。アウリガ様、申し訳ございません──────


「死ねや」

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