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ep24. サラウンドオーバー1

「はぁ、やっとスリーストンに着いた……」

「君が変なことをしていなければとっくに到着し、アウリガ様とアリスと合流できていたはずだ」

「変なことだと!?途中で鳥にぶつかって君の服に引っかかってしまい、着地点がズレてしまっただけだろう!偶然が重なって起きてしまったことだ。僕がわざとやったみたいに言わないでくれ」

「鳥一羽躱せないでよくここまで来れたものだ。感心せざるを得ないな」

「この野郎…覚えておけよ……」


 いつもの通り、アルラとボレアスが口喧嘩をしながら歩いている。二人の居る場所はカペラ達が入ってきた方とは違う、崖になっているところだ。

 アルラは崖の下を覗きながら小言を呟いた。


「着地地点がズレてしまったせいで、スリーストンには着いたが崖の上だ。また回り道をしなければならないな」

「悪かったね。そんなに回り道が嫌なら飛び降りればいいだろ」

「下は川だぞ」

「人界には飛び降りれるのに、川に飛び込むのが怖いのか?」


 さっきのお返しと言わんばかりにアルラをからかった瞬間、少し離れた茂みから短剣が回転しながらこちらに飛んできた。ボレアスは即座に抜剣し、それを打ち返す。


「誰だ!」


 その声に続くように、アルラも大剣を構える。睨む茂みから黒い影がゆらりと出てきた。


「マジか。隙つけた思ったんやけどな。流石アウリガに仕えとった神や」


 ボレアスは一歩下がり、アルラに囁く。


「こいつ、アウリガ様のことを知っているぞ」

「ああ。それに、俺達が神であることも知っている。何者だ」

「それはわからないけど、僕等の敵だってことはよぉくわかる」


 切先を向ける。

 キラリと光る剣を見て、黒衣の男は溜め息交じりに話す。


「怖いなぁ。ちょい挨拶しただけやん。そないに怒ることあらへんやん」

「ふん。挨拶だと言うのなら、せめて自分が何者か明かしたらどうだ?」


 そう言われると、頭を掻きながら、


「あー、既に知ってるもんや思っとったわ。スマンスマン。俺はヘルベルト。赤い屍食鬼グールの集団・星壊衆のリーダーや」


 なんだって!?屍食鬼グール集団のリーダーだと!?

 驚愕しているボレアスとは正反対に、アルラは冷静にヘルベルトに問う。


「何故、その星壊衆のリーダーがこんなところに?」

「あんたらはアウリガのとこに行こうとしてるんやろ?それ防ぐためにわざわざ俺が出向いてやったってわけや」


 俺達がアウリガ様と合流しようとしてるのも知っているのか。おそらくこいつは、俺達を無力化した後、アウリガ様とアリスを攻撃しに行くはずだ。さらには星壊衆のリーダー、他の屍食鬼グールも派遣しているだろう。どれほど強いのかはわからない。だが少なくとも、単独で俺達二人に勝てる手段を持っているのだろう。

 ならば油断は禁物。初めから、枷を外させてもらう────


解憶アンロック!」


 轟雷は咆哮を上げ、赤い稲妻が大剣の身に現れる。


「ボレアス、油断はするなよ」

「油断なんてするわけないだろ!」


 刹那、ボレアスは白を纏って駆け出し、アルラは大剣を後ろに引く。けれどそれを確認出来て尚、ヘルベルトはただ両の腕を広げるだけ。何かあるのは理解しているが、斬ってみなければわからない。迎撃であれば瞬時に判断し、致命傷を避けるよう尽力すると決めている。


 後ろに引かれた大剣が前方の空を斬る。一閃から枝分かれし、数多に広がる稲妻となってヘルベルトを襲う。

 その雷閃は命中し、ヘルベルトの体は上下二つに分かれる。

 だが、断面から溢れ出るのは真っ赤な血ではなく、真っ黒な煙だった。やがてその煙は一つに混ざり、ヘルベルトの体は元に戻った。


 瞬間、ボレアスが冷気を纏った剣を振り下ろす。顔の右半分が斬られるも、先ほどと同様に煙が出て元に戻るだけ。反撃を警戒し、ボレアスは一度後退する。

 黒は笑う。


「ギャハハハ!無駄や。どない強い一撃やとしても俺を斬ることはできんのや」

「まさか……いや」


 アルラは何かに気付いたのか唖然としている。


「何かわかったのか?」

「信じたくは無いが、あれは塗着サラウンドだ」

「なんだって!?でもオニキス塗着サラウンドってあんなにいい加減なものだったか?」

「ええ加減って言わんといてや。これでもちゃんと努力したんやでこっちは。まぁ上限値の決まっとる神様にはわからへんか」

「上限値…?何の話だ?」


 ヘルベルトはゆっくりとこちらに歩み寄りながら、それに答える。


「知らへんの?神はなった瞬間技量の上限が決まる。つまり神がどれだけ鍛錬しようと能力は向上しいひん。向上させるためには信者の声が必要やさかいな。それがなきゃ強なれへん。人間も必ず限界が来てまう。そやけど人間や神でない者はそれに囚われへん。鍛え続けたら続ける分、規格外なものになっていくんや。俺の術色ヴィヴィオンオニキスは、本来目を欺くのに特化しとる。普通やったらオニキス塗着サラウンドなんて闇に紛れるくらいしか使いようがあらへん。そやけど俺はアウリガを殺すために努力した。その結果がこれや。俺の塗着サラウンドで俺自身を術色ヴィヴィオンにする。つまり発動したら俺の体は煙そのものになるっちゅうわけや。頑張ったらあんたの塗着サラウンドも俺みたいに全身を冷気と化して無効化できるかもしれへんな。いや無理か。そもそも纏う量がちゃうもんな」


 確かに僕の技量じゃあ、冷気で攻撃を受け流すことは出来ない。

 どう攻略する───────

 アルラの雷も効かない。僕の纏った斬撃も効かない。

 いや、一つだけ突破口がある。あれは屍食鬼グールの特別な力でも何でもなく塗着サラウンドだとあいつは言った。ならば、塗着サラウンドが完了する前に攻撃すれば傷を負わせることができるかもしれない。

 アルラの方を見る。互いに目が合い頷く。

 僕基準で考えると、塗着サラウンドが完了するのは約2秒。あいつの技量であればそれを超えるほどの速さだろう。だがもし間に合わなくとも、僕にはこのテクニックがある。それが通れば───────!


「はあぁぁ!」


 再びダイヤ術色ヴィヴィオンを体に纏い、ヘルベルトの方へ突進する。体を剣が貫く。だが同じように刺された場所からは煙が立つ。


「無駄やって。ほんまに学ばへんな」

「無駄かどうかはこれからだ───────!」

「!?」


 彩法調和プリズマシンクロ。本来互いに手を重ねて混ぜた色に応じた術色ヴィヴィオンを発動できる。だがボレアスが今行った調和は塗着サラウンド同士で触れ合っている術色ヴィヴィオンを混ぜ合わせた。

 体に纏った術色ヴィヴィオンは消えた。正確には調和した術色ヴィヴィオンを生成する権限はボレアスが持っている状態だがそれを放棄する。


「今だ!」


 声がすると同時に、アルラは再び轟雷を前方に放った。狙いは胸元。低い姿勢で貫いているのでボレアスには当たらない───────

 ゴオオォ!と大きな音が鳴り、眩暈がするような閃光が走った。


 やったか…?


 目前を見上げる。

 そこには、煙で体が修復されているヘルベルトの姿があった。ヘルベルトは小指で耳を穿くりながら呟いた。


「ビックリしたわ。まさかここまでアホやとは思わへんかったわ。どんなカラクリで彩法調和プリズマシンクロできたのかは知らへんけど、無駄に終わったな!」


 言い終わると右足を後ろに引き、勢いをつけてボレアスを蹴り飛ばす。


「ぐっ……!」


 後方に居るアルラの所まで下げられる。


「大丈夫か?」

「ああ。これくらいなんともないさ…」


 彩法調和プリズマシンクロも効かなかった。一体何なら奴に攻撃が通るのだ…。

 ゴクリと喉が鳴り、剣を握り直す。

 ゆらりゆらりと黒い裾を揺らしながらニタニタと近づいて来る。そして、ヘルベルトは懐から短剣を取り出し、刃を舌でなぞりながら、


「今度はこっちから行かしてもらうで。ぶっ殺したるわ」

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