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ep20. 祭り前

「まだ準備期間なのにこんなに?」


 国門に繋がる大通りから少し逸れたもう一つの大通りでは、準備期間にも関わらず様々な出店が並んでいた。

 祭りを回る経験が無いカペラのテンションが上がる。


「あまり大胆にはしゃがないでくださいよ?」

「子供じゃないんだから心配しなくて結構」


 すると後方からクワルナの声がした。


「お二人は仲がとってもよろしいんですね」

「ええそれはもちろん」

「付き合いは凄く長いからねぇ。と言ってもカノープスも長い方だよね?」

「そ、そんな…僕が出会った時には既にお二人には親交がありましたから」

「ホントにあんたとは長いんだね」

「そうですね。ここまで長いとそれはもう愛ですよね。今すぐに結婚しましょう」


 そう言ってアリスはカペラの体を後ろからガッっと抱きしめる。


「やめろ!離せ!頭に胸を乗せるな!」


 カペラはジタバタと藻掻いている。その様子を見ていたカノープスはじゃれ合っている二人の後方にある看板の文字が目に入る。

 アイスクリームだ。


「皆さん。あそこのアイスクリームを食べませんか?」


 その提案に一番最初に乗ったのはクワルナだった。


「賛成です。お二人もどうですか」

「私は賛成だよ。アリスもアイス食べて頭冷やせ」




                  ◆




「あ~美味しかった~」

「アイスクリームは今まで何度も食べてきましたが、ここまで美味なものは初めてです」

「濃厚なバニラアイスに癖のない蜂蜜、みずみずしい果物が本当に……また食べに行きたいわ」


 同感だ。

 依頼を全て遂行したら、皆でまた食べに来よう。と、浸っているとアリスが呟く。


「美味しかったですが、先に昼食を取るべきでしたね」


 確かに───────!

 甘味につられて忘れていた。普通流れ的に昼食を食べた後にデザートを食べるだろう。

 それを聞いたカノープスはアリスに頭を下げる。


「すみません…時間を考慮できていませんでした」

「別に謝らなくても大丈夫ですよ。これから食べに行きましょう」

「あ、ありがとうございます…」


 そんなやり取りをしていた中、クワルナは既にどこで昼食を食べるか目星をつけていたようだ。


「あそこでお昼にしませんか?」




                  ◆




 順序は逆だったが、良いお昼を過ごすことができた。満腹の腹を携え、消化させるために様々な場所を回った。

 ただ、どこか違和感が漂う。でも何が違和感なのかは判明できず。


「そろそろどこかで休憩しない?」


 そうカペラが皆に問いかけた。

 休憩したいのは皆賛成である。が、どこで休憩するか悩んでいる。近くに宿も無ければ、広場も無い。

 頭と足を動かしているとあるものが見えてくる。ボート乗り場だ。既に使用している人がおり、手前に残っているボートは二台のみ。

 ボードに二人乗り。二人一組と分かれる必要があるが、ゆっくりできるならそれで十分だろう。

「せっかくだし、あれに乗ろうよ」




                  ◆




 カペラとアリス、カノープスとクワルナに分かれて、優雅な船旅に出た。

 どこに行くわけでもない。この船は、スリーストンの周りを一周するだけ。するだけと言っても、一時間は余裕で越える。休憩にはもってこいかもしれない。


 風が奏でる自然の合唱。

 耳が安らぐ。

 船が進んで風を浴びる。

 体が安らぐ。


 すると隣から、

「アウリガ様」

 と、アリスがこちらに話しかけてきた。


「どうしたの?」

「心配することでは無いかもしれませんが…あのお二人、アルラとボレアス、少し遅くないですか?」

「確かに。スリーストン(ここ)に到着してから結構経つよね?何かあったのかな?」

「もし何か問題が起こってスリーストンに到着していない場合、下神協会の者がこちらに連絡してくると思うのですが、何か連絡とかは来てますか?」

「ううん。全く来てないよ?というか、神星界で石蔵が壊されたから色々手こずっているんじゃないかな?」


 アリスは首を横に振る。


「いいえ。壊された石蔵の破片掃除や周辺の処理だけでしたので、そこまで苦戦することはないかと…実際、私が抜け出してこっそり人界へ行こうとした時にはもう八割ほど終わっていましたし」


 抜け出してきたんかい!どうりで一人だけ到着が早いわけだ。


「とはいえ、連絡は来てないから大丈夫だと思う。もしかしたらもう着いてて、私達を探しているかもね」

「もしそうなら申し訳ないですね。許してもらえるよう、何かお土産でも買っておいた方がいいかもしれませんね」



                  ◇



 揺れるボートの上。

 せせらぐ音は気持ちの良い。

 隣に座るクワルナを見る。


「───────────」


 どこか遠く、何かを抱えているような表情、どこか寂しい雰囲気が漂っている。

 これは確定情報ではないが、この船旅がつまらないから、というわけではないと思っている。

 積み重なった何かが、彼女を支配している。

 何故そう思うのか。自分がそうだからだ。こういった落ち着いた環境にいる時、その積み重なったものが頭を過ぎっていく。思い出しているわけでは決してない。施錠が甘くなり、隙間風が入ってくるよう。それを防ぐ術がない故に、その風が止むまで浴び続けるしかない。

 だがこの空気間にも限度ってものがある。

 流石に居ても立っても居られず、とうとう口火を切った。


「クワルナさん、何か考え事ですか?」


 話しかけられるとは思っていなかったのか、呼ばれた彼女は体をピクリとさせ、こちらに視線を向ける。


「あ、すみません。あまりにも心地よかったので、無心になっていたんです」


 わかる。これは嘘なのだと。僕自身もよくやってしまう。心配されたら「大丈夫です」と。決して大丈夫でないと理解していても口は先にこれを言ってしまう。

 月に叢雲。

 微笑みは朧。

 どんなに冷静を装ったとて長続きはしない。


「あなたもでしたか。僕も先ほどまで無心で…」

「このせせらぎとそよ風があれば、こうなっちゃいますよね──────」




                  ◆




 しばらくしてボードは着き、良い休息を迎えることができた。

 カペラは大きく背伸びをする。その横でカノープスが問いかける。


「少し日が傾いてきましたね。これからどうします?」


 問から10秒程度、アリスが何かを見つける。


「あそこに展望台がありますね。行ってみませんか?」

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