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05:やらかした預言者

 ヒロインのヘレーネは薬屋の娘だった。

 事故に遇いそうになったところをカルロスに助けられ、その時に特別な力を持っていることが発覚して屋敷に招かれる。

 そこで待っていたのは、苦難続きの子供時代を乗り越えて逞しく成長した男主人公だ。

 しかし、彼には限られた人間しか知られていない、能力の代償を抱えていた。能力を使うたびに副作用があり、報復の魔女の手下と戦うたびに体は蝕まれていった。

 カルロスは友を助けるために魔女の館まで訪れ、助言の通りヘレーネを連れてきたのだ。

 不思議なことに彼女には癒しの力があり、男主人公の副作用を浄化してみせた。長年の苦痛から解放された男主人公はヘレーネに感謝し、その後も顔を合わせている内に二人の距離は近づいていき、恋に発展していく……という話だった。

 物語も後半に差し掛かり、我が子の恋を応援するような人が増えに増えまくったということは覚えている。

 だが、肝心のヒロインがいなくなったということは、男主人公は将来の奥さんを失っただけではなく、副作用の浄化もしてもらえず、待っているのはバッドエンドな結末だけ──。


「──そういうわけなので、貴女が「預言者」となって彼らを導いてください」

「お断りします」

「決断早い……っ! な、なぜですか!? 今、花屋の娘なんですよね? 預言者と名乗れば貴族である彼らと仲良くなれますよ!」

「結構です」

「お金だってたくさんもらえるかも!」

「興味ありません」

「良い暮らしだって期待できますし」

「今の暮らしで十分です」

「……枯れるの早いですよ?」


 余計なお世話である。

 花屋の娘は2枚目のクッキーを頬張り、紅茶を飲んでホッと息をついた。亜空間なら何時間過ぎても約束の5分後には戻れるはずだ。


「それに預言者って何ですか? 私、予知とかできませんが」

「で、でも水晶玉には「やらかした預言者」と「花屋の娘」の文字が浮かんできて」

「……やらかした預言者」

「それに、これだけ魔女の館で堂々とお茶ができるのは、よほど図太……特別な力を持った方でなければ説明がつきません!」

「意味の分からない存在扱いされるより、図太い花屋の娘のほうがマシです」

「確かに図太いとは思いましたけど!」


 思ったんかい。

 堂々と白状する魔女に冷めた目を向けると、慌ててクッキーを1枚差し出してきた。クッキーに罪はないので、ありがたく頂戴する。


「なんとかなりませんか……? 魔女にも制約があって、これ以上首を突っ込むことができないんですよ」

「それで私に丸投げする気ですか? 巻き込まれたら死んでしまうかもしれないんですよ? 人によっては命より名誉や使命を大切にされているかもしれませんが、私は違います! 命ダイジ! 夢のようなセカンドライフ! 名無しのエキストラ万歳!」


 花屋の娘、魂の叫び。

 心の奥底から絞り出した本音をぶちまけると、魔女はドン引きしていた。図太い娘から、頭のおかしい娘にされるのは避けておきたい。

 花屋の娘はこほんと咳払いすると、椅子から立ち上がった。


「とにかく、私は名無しのエキストラなので、預言者なんてものは知りません」

「ちょっ、待ってください! 私、今度こそ閣下に殺されちゃいますよぉ!」

「偉大な魔女様は死にません」

「え、預言者様の目にはそのように映っているんですか!?」


 ポンコツな魔女にしか見えないことは秘密にしておこう。

 しかし、泣きながら足にすがりついてくる魔女に、少しばかり良心が痛んだ。彼女も物語では、数行しか出てこない脇役。リンゴのせいで命を奪われては可哀想だ。


「はぁ、分かりました。カルロス(仮)さんには私から伝えておきます」

「あ、あ、ありがとうございます!」

「なので、移動の魔法スクロールください」

「へ?」


 よこせ、とばかりに手を差し出すと魔女は全力で後ろに下がった。

 魔法スクロールとは、魔女の間では必須アイテムだ。巻物に行動発生の魔法陣を描き、それを破くことで移動や攻撃などが可能になる。原作では報復の魔女が自慢するように使いまくっていた。


「なん、で……スクロールのこと……」

「やだなぁ、私を預言者だって言ったのゾフィーちゃんですよぉ? そのぐらい分かって当たり前じゃないですかぁ。水晶を使える魔女なら、魔法スクロールに魔法陣を描けることも知ってますよぉ。もしかしたら、魔女の寿命だって分かっちゃうかもしれないですねぇ。どうしますー?」

「ひいぃぃぃぃ!」


 壁際まで追い詰めた魔女を、さらに恐怖のどん底に突き落とす。

 魔女も永遠に生きられるわけではない。彼女たちの死の大半は、他人に奪われたものだ。とくにその昔、迫害を受けてきた魔女は火あぶりにされて命を落とした。


「ま、魔女を脅すなんて……!」

「脅すなんて人聞きの悪いー。こっちは対価を要求してるだけですけどぉ。おやおやぁ? ゾフィーちゃんに死相が──」 

「きゃあああああっ! わ、分かりました! 移動スクロールはお渡しします! だから、もう帰ってください!」

「ええ、そうします~。スクロールのお代は外にいるカルロス(仮)さんに請求してもいいですよ~」

「できるわけないでしょおおおっ」


 魔法スクロールのそのお値段、なんと金貨100枚。(=だいたい100万円ぐらい)

 泣きながら渡してくる魔女から魔法スクロールを受け取り、花屋の娘は笑顔で「それじゃ、お仕事がんばってください!」と言って、亜空間から戻るのと同時に外へ出た。

 魔女の館から出ると、苛立った様子でカルロス(仮)が待っていた。

 5分も待てない男だったとは。時間が過ぎていたら、暗幕だけ張られた魔女の館は跡形もなく吹き飛ばされていただろう。


「終わったか、娘」

「お待たせしました、カルロス(仮)さん」

「カッコ、カリ……? またおかしなことを。それより魔女からは何と?」

「あー……なんか人違いだったみたいです」

「なんだと?」


 へらりと笑って人違いだったことを伝えると、カルロス(仮)はわずかに目を開いた。澄ました態度の男が、驚きの表情を浮かべるのはなかなか良いものだ。もやもやした気分がスッとする。


「そういうことなので、私はこれで。うちの子たちが心配なので」

「待て、娘。お前は独り身だろ」

「結婚適齢期なのに、恋人すらいなくてすみませんね! 店の花が心配なんです! そういうことなので、約束は守ってくださいね!」


 一切手のかからない子たちだけど。

 店が心配だと言うと、カルロス(仮)は一瞬ためらう。その辺の気遣いはできる男らしい。

 その隙に居住区と「花屋まで」と言ってから、魔女からもらった魔法スクロールを破いた。すると、足元に青い光を放つ魔法陣が現れる。カルロス(仮)が止めようと手を伸ばしてきたが、眩い光が広がって誰も目を開けていられなかった。

 そして一瞬の浮遊感の後、目を開けばあっという間に花屋の目に立っていた。最初から馬車に乗らず、これで良かったではないか。

 ──なんて思ったのが、間違いだった。

 魔法スクロールの移動は魔力もない平凡な人間が使うと、時空を縮めた際に生じる揺れがダイレクトに伝わってきた。自分の足元だけ地震が起きている気分だ。馬車酔いの比ではない。


「う、ぷ……お、おれろろろろろろろろろろろ……っっっ」


 花屋の娘は近くにあった木バケツに向かって、盛大に嘔吐した。さらに、自分の吐き出したものの臭いにやられて、しばらくバケツから顔が上げられなかった。

 ……教訓になった。

 魔法スクロールでの移動は、二度としない。

ランチ中、失礼しました。

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