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【勇者殺しの真相は?】いつも長さのわからない「R」を求めよ  作者: 常に移動する点P


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【第二十六話】王家

「勇者!バルス・テイトさま、この惨状はあなたの仕業ですか?」

 セイレンの言葉が王の間に響く。決して安らかとは言えない表情で息絶えた側近、近衛兵たちから無念さがセイレンには見えて取れた。


 玉座の背後にある「獅子王たち」とよばれる過去の勇者たちの群像画には、勇ましく戦いに挑む姿が描かれていた。


 だがこの絵は創作だ。勇者は一時代に一人、息絶えれば、次の勇者が誕生するまで待つ。おおよそ十年。転生ではなく、神からの「廻り」のあったもの。

「私は、勇者ではありません。元勇者というのが適切なんだろうね。あなたは、セイレン・スタインウェイ、リヒトの姪か。どおりで」

 バルスは言いかけた言葉を飲み込んだ。


「あなたの目的は何ですか?」

 セイレンが半歩、前へ進む。そのまなざしは、バルスからひと時も逸らしていない。

「私の評価は、さまざまですよね。魔王ゾルグから世界を救った英雄という声。一方、魔物たちを容赦なく殺し続けた、無慈悲な殺戮者」

 セイレンは頷いた。

「そこで死んだフリしているライオット・ウェルと同じくハーフエルフではありますが、私はなぜかダークエルフと。厳密にはダーク・ハーフエルフですね」

 自嘲気味にバルスは続けた。

「石化魔法なら私、耐性を持っています。ライオット、起き上がりなさい」


 ライオットは閉じた目を開け、重力の番の詠唱をやめた。

「バレていたんですね」

 ライオットはバツが悪そうに言った。

「こんなに殺して、あなたはそれでも元勇者なのですか?」

 セイレンはバルスとの間を詰めている。バルスはセイレンの足もとを確認した。

「落ち着きなさい。蘇生魔法の継承は、セイレン、あなたに移行したようですね」

 バルスがリヒトの荷物の中に、蘇生魔法の魔導書がないのを確認して言った。


「ええ、私が持っています」

「まず、オーギュスター王とメイ王女以外は蘇生させてはいけません。まず先に近衛兵と大臣、その次にリヒトを蘇生しなさい」

 バルスの言葉を信じるも信じないも、叔父リヒトを蘇生させられる?それならと、セイレンは蘇生魔法を連続して唱えた。

 みなぎる魔力は尽きることなく、連続で五人、最後のひとりリヒトで六人目を蘇生させた。セイレンは自分の強大な魔力に驚きを隠せなかった。


 近衛兵、大臣たちは蘇生痛と呼ばれる痛みで起き上がれない。リヒトはすくっと目を覚ました。

「バルス!これはいったいどういうわけだ」

 リヒトは蘇生痛などものともせず、狼狽の大剣を抜いて一歩手前まで間合いを瞬時に詰めた。

「まぁまぁ、リヒト。剣をしまって」

 バルスは静かに今回の顛末について話し始めた。


「私たちのパーティーが魔王ゾルグを倒したとき、厳密にはリヒトの手柄ですが。再び人間たちに平和の舵取りを任せることになりました。ほどなく、戦争も始まり、私はルイとの婚約を破棄し、オーギュスター家に婿入りすることにしました」

「それは、ワシも知っておる」

「アーガマ地方の四つの国、パワーバランス上は、オーギュスター公国とアシュフォード王国の二強対立。アシュフォード王国から付け狙われている私としては、オーギュスター公国に就くのは自然」


 バルスが勇者にも関わらず、名家に婿入りし、王座を狙っているという自身の噂を払拭する話をしはじめた。

「狙いは?」

 リヒトが言った。バルスに要点を話させるためだ。

「そう、狙いはオーギュスター公国の滅亡。と言っては過激ですが、オーギュスター王と私の元妻メイ王女の抹殺です。ね、ライオット」

 バルスが突然ライオットに声をかけた。棒のようにただ立っているライオットはまさか? バルスを見つめるも言葉を発しない。

「第五次エルフ調査団の副団長がライオットなら、団長は?そう、私です」


 バルスは、グレイ王妃から第五次エルフ調査団・団長に任命された。建付けは、オーギュスター王からの勅命。団長不在ということにして、実質副団長のライオットに権限を委譲されていた。調査団の目的は「魔王ゾルグの復活」。それは、グレイ王妃の歪んだ世界平和のカタチであった。


 魔王ゾルグが倒され、魔物が弱体化した途端に四国は争いを始める。人間とはいかに愚かなモノか、母国サグ・ヴェーヌ共和国への憎しみの高まりとともに、平和を好まない人間の本質にグレイ王妃は絶望していた。


 だからこそ、再び魔王ゾルグの復活なのだと。魔物がまた力をつければ、世界の対立軸は人間対魔物に戻る。人間対人間の構造からの脱出にはこれしかないというのがグレイ王妃の考えだったのだ。


 バルスはその考えに葛藤したものの、一時は受け入れようとした。全権を預けらえていたライオットはそんな影の団長バルスの葛藤をよそに、忠実に魔王ゾルグの復活を勅命として受け取った。グレイ王妃経由オーギュスター王の勅命書として、拝領していたのだ。


 一方、バルスはかつての盟友、ルイ、ガル、ガルの妻ジェム、息子のゴードたちに第五次エルフ調査団の勅命を聞かせた。だれもが、魔王ゾルグの復活に反対した。


 ここで厄介になるのはリヒトが所有する蘇生魔法の存在。グレイ王妃を暗殺するのは容易だが、蘇生魔法で生き返らせられれば、事態は複雑化する。


 そこで、バルスは一芝居打ったということだった。

 スラスラと立て板に水のごとく、バルスは今回の顛末について話し始めていた。あの、せっかちなリヒトでさえその話に聴き入っている。それもそうだった、リヒトはバルスと同じ勇者のパーティーメンバーだったのに蚊帳の外だったからだ。敵を欺くには味方から、という戦闘十か条をセイレンは思い出していた。


「つまり、グレイ王妃を時間差の死の誘惑で殺害。必中効果を高めるために、バルス自らの命も生贄に」

 セイレンは蘇生痛で苦しむ近衛兵たちに回復魔法をかけながら言った。

「そうです。まずはグレイ王妃を葬る必要があった。ですが、そこのライオットの身体にセイレンあなたが降霊の儀でグレイ王妃を降ろした」

「それは僕が無理を言ったんです。グレイ王妃に第五次エルフ調査団について聴きたいこともありましたから」


 結局、グレイ王妃は妄言・虚言を繰り返し、自身をバルスと名乗ったり、魔王ゾルグと名の名乗ったりと、混乱を極めさせた。


「グレイ王妃は最後自身の正体を明かしつつも、ライオットに魔王ゾルグの復活を念押しで託したかったんだろうな」

「それで、どうして念入りに昏睡のフリまでした死の誘惑を長時間詠唱して、こんなに殺害をしたんだ?」


 リヒトの質問は、リヒト自身が確信を得るためにしているのだと、セイレンはわかった。

「オーギュスター王とそのメイ王女の関心毎はアーガマ地方の統一。それゆえに、隣国三国を滅ぼすつもりだった。それなら、魔王ゾルグを復活させた方がいいかと考えた、だが」

「だが?」

 ライオットが訊いた。


「魔王ゾルグを復活させても、倒すことは容易だ。だが、それって人類に対する共通敵を作るためだけだろ。俺たちパーティーが命をかけて戦ったのはやっぱり魔物を殲滅して、魔王を倒すってことだから」

「魔物にも命があるんじゃ」

 ライオットは言った。


「いや、魔物は狡猾だよ。君の姉だって、そういう意味ではその最上クラスにいるようなものだ」

「だから殲滅してもいいと?」

「そうだよ。魔物は、人を食う。だけどね、人は魔物を食わない。それに、魔物は人の命を弄ぶ。それが理由じゃ足りないかい?」

 バルスの言葉に、ライオットは押し黙った。


 蘇生痛で苦しんでいた近衛兵や側近たちがゆっくりと立ち始めた。バルスに攻撃を仕掛けるのでは? とセイレンはどちらにつけばいいのか思案していた。

「大丈夫、この作戦は直前に彼らには伝えている。ここにいた頃からの仲間だ。オーギュスター家に虐げらえてきた人たちだ」


 近衛兵、側近たちは片膝をつき、バルスに礼をした。

「ということはなにか?この作戦を知らなかったのは、ワシとセイレン、ライオットだけか?」

「そうなりますね、すみません。リヒト。あなたの蘇生魔法は全てを台無しにしてしまいますから」

「だから、私にもあんな呪因を」

「あれは、ライオットのもう一人の人格だな。たしか、ライオット・ブレイド。蘇生魔法の後継者が来ると、リヒトに何かあった時にパワーバランスが崩れるからな」

 バルスは軽く言い流した。


「まぁ、この場にオーギュスター王とメイ王女、リヒトを揃えることが大切だったからな。一度で、全員を殺すには、それが今回の目的だ。リヒトの蘇生魔法は、後継者のセイレンに移行させたかったからね」

 バルスがそういうと、リヒトが苦々しい顔でポツリと言った。

「まぁ、老兵が持つ魔法でもないしな」


 グレイ王妃、オーギュスター王とメイ王女、オーギュスター家を滅ぼし、魔王ゾルグを復活も阻止。失ったのは自らの肉体、というバルスは作戦の完遂に晴れ晴れとした表情で喜んでいた。


「でも、このオーギュスター公国はどうなるの?王家が滅びたってことでしょ」

「それは、この国の国民たちが決めればいいことだ」

 バルスの考えはこのオーギュスター公国に民主主義を取り入れることでもあった。

「バルス、あなたの身体はどうするのよ?」

「これはなぁ、リザードマンとして生きていくのもいいんだが、ある考えがある」



 バルスは自身に死の誘惑をかけて、自死を遂げた。生贄に今度は自死、女神の祝福も福音も失われた。



 セイレンに、バルスの肉体にバルスの魂を戻して蘇生するように頼んでいた。そして、空っぽになったリザードマンの肉体にはあの男の魂で蘇生させることとしたのだ。


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