【第二十二話】悪女
リヒトは道中ある疑問に囚われていた。剣聖と呼ばれ、賢者とも呼ばれる、冒険者としては最高峰の技術を身に着けた。それもこれも、このひっかかりにしつこい性格だと自分でもわかっている。
戦闘での油断、それは小さな変化に気づかないこと。現状を正しいモノと思い込む人間の性から逃れなければ、俯瞰で状況を把握できなければ、冒険者として失格だ。あっという間に命を落とす。この世で蘇生魔法を詠唱できるのは自分自身だけだから、なおのこと。自分が死ねば、誰も自分を蘇生できない。だからこそ、リヒトは常に慎重なのだ。
ライオットが気になることを言っていたのだ。リザードマンに転移したバルスを名乗っていた魔王ゾルグ、彼はバルスのパーティーメンバーは三人だと言っていたらしいということだ。
勇者バルス、ルイ、ガルこの三名。リヒトは自身がパーティーに含まれていないことに違和感を持った。手負いのルイ、ガルの手当てに持てる力を注いで回復にあたっていたバルス。唯一戦えるのはリヒトだけだった。そして、最終的に魔王ゾルグを倒したのはリヒトだ。
魔王ゾルグが、あのリザードマンの表立った人格だったことは確定している。魔王ゾルグの口から
「パーティーは三人だった」と言うなんて考えられない。リヒトの疑問は深まる。
オーギュスター公国に向かう道中、ライオットに聞いた。ほとんど尋問に近かった。
ルイの屋敷で、ルイ自身がが剣聖リヒトの存在を明かしたそうだ。パーティーは実は四人と。
リヒトはもう一度頭の中を整理した。リザードマン=魔王ゾルグであるが、ここでは一旦リザードマンと呼ぶ。
ジェムの屋敷で、ライオットからリザードマンに魂の移管を行った。このときは「パーティは三人」とリザードマンは言った。
その後、ルイに会ったときには、ルイが「パーティーは四人、四人目は剣聖リヒト」と言った。リザードマンは頷いたらしい。
この辻褄の合わなさ。リザードマンが魔王ゾルグなら、パーティーは三人とは絶対言わない。そして、ルイに四人目の存在を知らされた時、詳細にリヒトのことを賢者であるとか、魔王を倒したのはリヒトであるとか、そのリザードマンは言ったらしい。
そうか、そうだったのか。リヒトはある結論に達した。セイレンが魔王ゾルグの魂をライオットに降ろした。だが、それ自体が「ウソ」だとすると?
セイレンが降ろした魂は「勇者バルスを装った魔王ゾルグ」ではない。
あぁ、複雑だ。さらに魔王ゾルグを偽装した、別人。その人物は、勇者バルスのパーティーを三人と思っていた。バルスのパーティーの詳細を知る人物は少ない。なにせ、自分は魔王ゾルグを倒したあと、精霊との盟約により一度塵になったのだから。
リヒトは自身の存在を知っている人物を考えてみた。
●勇者バルス・テイト(パーティーのリーダー)
●ルイ・ドゥマゲッティ(パーティーメンバー)
●ガル・ハン(パーティーメンバー)
●メイ・スン(バルスの妻、オーギュスター王の娘)
●オーギュスター・スン(オーギュスター公国の王、バルスの義父)
それ以外はいないはずだ。
考えろ、考えろ、考えろ。ここにバルスを殺した人物や理由、そして今から王の間で起こること、すべてがつながるはずだ。
リヒトは持てるすべての可能性を考えた。
そうだ、ひとり、ひとりいた!
剣聖リヒトが魔王ゾルグを単独で倒したと聞いた可能性のある人物、その詳細は直接聞けないものの、耳をそばだてて聞いていた人物。そう、勇者バルスのあとに亡くなった、あの人。
オーギュスター王の妻、グレイ・スン。
バルスの義理の母でもある。悪女と呼ばれたあの人物のことを、すっかり忘れていた。
リヒトは王の間、メイ王女が座っている玉座を見て思い出した。その玉座には、グレイ王妃が座っていた。そうだった。
王の間で、ライオットが先陣を切って、オーギュスター王に事の詳細を説明し始めた。バルスの魂がコアにあるはずのリザードマンは、まだ眠ったままだった。




