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【勇者殺しの真相は?】いつも長さのわからない「R」を求めよ  作者: 常に移動する点P


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【第十二話】混濁

 ルイ・ドゥマゲッティがバルスを引き留め、ライオット、セイレンも一緒に夕食を馳走になった。メラク牛のステーキ、ポルト茸とブッフェ豚のピッツア、それに焼きたてのパンと。温かい食事は久しぶりだったこともあって、ライオットもセイレンも夢中で食べた。

 半分ほど残してバルスが口を開いた。

「みんな、ギャザリンとかいうアンデッドエルフの話を聴いたのか?」

「はい、ジレン・アシュフォードの命を受けての調査旅団という話も」

 ライオットがフォークを置いて答えた。ルイは指を祈るように指を交差させて組んでいた。

「話が早いな」

「シンプルに言うとだな、僕とルイ、ガルは東の国王の勅命により、魔王討伐の任を賜った。だが、それは表向き」

「表向き?」

 ライオットが自分の耳を疑ったように繰り返して聞いた。


「魔王討伐よりも優先させるべきことは、増えすぎた魔物たちの間引き、ひいては根絶。種丸ごと、根絶やしにしてもよいと王から命ぜられていた」

 ライオットはルイに視線をやった。ルイもライオットを見ていた。不意にも目が合った。

どこか怪しげで儚げで、恐ろしい。底が見えない黒い瞳は、巨大な重力を放っているようだった。

「リザードマンだけでもかなり絶滅させたということですよね?」

「あぁ、そうだね。水路のあたりでスライムを見かけなくなっただろ?あれは僕たちが完全に種まるごと絶滅させた」

「そんなこと…」

 セイレンが口を抑えたが、言葉が漏れ出た。閉めてこぼれ出る制御のきかない蛇口のように。

「スライムを絶滅させればそれを捕食していた貝系のモンスターは用意に根絶できる。自然の摂理だ」

「食物連鎖ですね」

 ライオットの眉間に皺が寄る。不快に吐き捨てた言葉は、セイレンにも容易に伝播した。それは、食事の味がわからなくなるほどだった。


「エサがなくなると、捕食者は絶滅に向かう。そして、餓死を避けるために他の種を食べようと行動する」

 バルスは続けた。そこには後悔や懺悔の気持ちは感じ取れないとライオットは思った。

「僕が直接絶滅させた種は八種。間接的に絶滅したのは、八十種。魔物が弱体化したのは魔王が討伐されたからだけじゃない、単に絶滅して生態系のバランスが崩壊したからだ」

 魔物の生態系の崩壊、魔王による庇護の喪失この二つの理由により魔物たちは弱体化し、一方その絶対数を減らし続けた。その結果、経験値を得るために魔物と戦うこともできず、ライオットのような新米冒険者は技量向上もできなかった。戦死という事態も避けることができはしたが。

「それと、バルスさんの殺害が関係している?」

 ライオットは確信に触れた。ルイが立ち上がり言った。

「バルスが殺害された理由は憶測じゃぁいくつも考えられる。その一つに私もあり得る。婚約破棄されたからな。怨恨だな」

 ルイはテーブルのワイングラスを手に取り一気に喉に流し込んだ。


「他にも、国王の娘と結婚したことで娘の元許婚やら、それに取り入っていたものども、国王直轄の神官たち、ジレン・アシュフォード国王のような周囲の王たち。数え上げればキリがない」

 ルイの言葉には元婚約者バルスへの恨み節のようにも聴こえるが、それだけではなかった。ギャザリンは第四次エルフ調査旅団と言っていた。調査旅団は調査対象を変更しない。つまり第一次から三次までの旅団は何らかの理由で打倒されたと考えるのが妥当だ。


 そこまでして、バルスはマークされていた。東の国・オーギュスター公国の王、オーギュスター・スンはどうして魔物を根絶しようとしたのか。魔物とはいえ、野生の動物にも似ている。特定種を乱獲すれば、生態系が狂う。特に東の国のように、農耕と狩猟で生計を立てている自給自足国家としては、生態系の破壊は致命的だ。

 そういう点では、東の国の国民ということも考えられるな、とライオットは推察した。

「私から訊きたいことがある。セイレンよ」

「はい」

 セイレンは面食らった。

「あなたは、蘇生魔法エイム・リバウムが使えるらしいな。だが不完全な蘇生により、そのライオットの肉体に、ライオット、バルス両名の魂を戻してしまったと」

「はい、詠唱時に名前を間違って」

「話では、ライオット・ウェルと呼び戻すところを、ライオット・テイトと、バルスの苗字を混ぜてしまったらしいな」

「そのとおりです」

「私の知っている限りでは、エイム・リバウムの使用で大切なことは、術者が蘇生対象を思い描くことだな。名を間違うこと自体は問題ないはず。ニックネームでも蘇生はできるからな。それよりも、心の中が大切だ」

「それは、どういうことですか?」

 ライオットは自身が蘇生された際に、バルスの魂も混ざった理由が知りたかった。セイレンは何かを知っているのか、ライオットの中で疑念が産まれた。


「つまり、仕組まれていたということだ」

 バルスは手つかずの夕食を口に運んだ。メルフ牛のステーキは冷えて硬くなっていた。

「でも、あの時僕が死ぬかどうかなんてわからなかったはずだし、蘇生には魔力が必要でしょ。たまたまそこにマニューレーの花があったから魔力補完できて、エイム・リバウムが唱えられたと聞きましたが」

 ライオットはセイレンを横目で確認した。このままどこかに逃げてしまうんじゃないかという妙な胸騒ぎがしていた。

「どうなんだ?セイレン」

 バルスの問いかけにセイレンは黙っている。バルスをライオットの中で蘇生させ、魂の混濁を狙った。だが、何かを悟ったバルスは瀕死のリザードマンの子を救うという理由で、魂を移動させた。セイレンの目的がバルスの魂を何者かの生命体に復活させるのであれば、それがライオットであれリザードマンの子であれどっちでもいいはずだ。


 セイレンは深く息を吸い、呼吸を整えた。

「そうね、勇者バルス・テイト、あなたに恨みを持つものはたくさんいる。だけど、あなたに救われたものもたくさんいる。正義なんてものはコインの表と裏なんだから。どっちも同じもの」

「何が言いたいんだ、セイレン」

 ライオットが不信感を表してセイレンに冷たく言った。いつもの優しい言葉はそこになかった。全員の食事がギャザリンたち給仕によって下げられ、コーヒーが振舞われた。

 ふわっと香ばしいコーヒーの香りが殺伐としたライオットたちを包み込む。

「私はそのギャザリンたちの前に派遣された第三次エルフ調査旅団に所属していた。エルフではないが、エルフとして育てられた」

 ギャザリンが呆然と立ち尽くす。

「ライオットと出会ったのは偶然だが、彼とパーティーを組んだのは私の探知機が彼をバルス・テイトと言うからだ。別人だとはわかっている。転生者でもない、ライオットと出会ったときはバルスはまだ生きていたからな」


「シンクロニシティ」

 ルイが呟く。

「そう、魂のカタチが似ているものは、蘇生時に凹凸のようにお互いが補い合って、一つの魂となる。と訊いていた。私たち第三次エルフ調査旅団の目的は、バルス・テイトの捕獲だったからな」

「私たち?」

 ライオットが問いかけた時、セイレンは気を失った。ギャザリンが走り、セイレンを受け止めた。アンデッドの身体が軋み、今にもその腕は折れそうだった。

「皮肉だな。ジレン・アシュフォード王の捕獲の命が、死んだはずのバルスを蘇生させることになるとはね」

 ルイが嫌味たっぷりに言った。


ギャザリンはセイレンの耳の付け根に肉眼では見えないほどの小さな呪因が記されているのを見つけた。

「ルイ様、セイレンには呪因が結ばれているようです。しかも、これは、南の国、アシュフォード王国のものではありません。この因字は、東の国・オーギュスター公国の高次魔術によるものかと」

 呪因、なにかのトリガーによって発動する呪いだ。死に至ることはないが一時的に行動不能にするものが主流だ。ギャザリンは、セイレンの脈を確認し大丈夫だと言った。そして、そのまま奥の客間へと運ぶように他の給仕係に命じた。

「南の国じゃなくて、東の国の呪字ということって?」

 ライオットが間の抜けた顔で訊いた。

「つまり南の国からも、東の国からも僕は嫌われてるってこと」

「魔物たちにもね」

 ルイは付け足した。

「魔王って滅ぼしたんですよね?」

 ライオットは気になっていた。バルスたち勇者のパーティーが建前とはいえ勅命として賜った魔王討伐。だが、魔王の実体など誰も知らない。魔王自体が存在するのか、見たことがないのだから、誰も知らない。


「やっぱ、アイツに訊くのが早いか」

「そうだね、世話した恩ぐらいは報いてくれると思うよ」

 ルイはそう言うと、地図を広げ、小石をいくつか並べた。小石は磁石のようにお互いを引きつけ合ったり、反発しあったりして忙しそうに動く。そしてそれはひとつの渦のようになり、ある地点に集まった。

「うわぁ、東の国のはずれじゃない」

 ルイは同情する眼差しでバルスを哀れんだ。

「誰がいるんですか?そこに」

 ライオットは訊いた。

「剣聖」

 ルイはそっけなく答えた。

「私たちもともと四人パーティーなの。バルス、ガル、私と剣聖リヒト」

「剣聖リヒトって、リヒト・スタインウェイ」

 ライオットの問いかけにルイとバルスは頷いた。リヒト・スタインウェイは半ば伝説と化した剣の達人。バルスたちのパーティーに加わっていると噂もされたが、その存在自体が謎に包まれていた。魔王と同様、剣聖リヒトを見たものはいない。目の前に対峙した瞬間に命を落とすからだ。

「魔王討伐はヤツに任せていた。僕たち三人は足手まといになるからね」

「それじゃぁ、魔王討伐したというのは?」

「あぁ、僕のパーティーではあるが、厳密には剣聖リヒトだ。単独でね」

 だが、バルスによると魔王の首はおろか討ちとった証跡自体は存在しない。剣聖リヒトが塵に帰したという話だ。バルスは続けた。

「剣聖リヒトにエイム・リバウムを唱えてもらう。彼は賢者でもあるから」

「どういうことですか?」

「魔王を蘇生させる」

 バルスは力強く言った。

「でも、肉体がありませんよね」

「いや、僕の肉体が残ってるはずだ。東の国の王は僕との契約で、死後十年は肉体を保持するとの取り決めを交わした」


 勇者は死後、ちょうど十年後に後任の勇者が産まれるとされている。それまでの間、世に乱れがあれば、その空白の間蘇生の儀、エイム・リバウムによって再びこの世に魂を引き戻らされる、ライオットは旅の宿で耳にした記憶がある。眉唾ものだと思っていたが、勇者本人が言うのだから間違いはない。

「魔王を蘇生させてどうするんですか?」

「僕を殺した犯人を探し出す。この事件の背景にはなにかどす黒い悪意を感じる」

 これだけ、魔物を殺戮してきたんだし、どこからも狙われても不思議じゃないのだから、とライオットは思ったが口にするのはやめた。腐っても勇者、殺害できるとなれば複数人による緻密な計画が必要だとルイは補足した。


「じゃぁ、セイレンはルイに預けて僕とライオットで剣聖リヒトのもとに向かおう」

 バルスは自身のリザードマンの肉体に慣れてきたのか、機敏な動きで、預けていた装備を身に着けた。


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