【第十一話】徹破
ルイの居城には至る所にアンデッドたちが平然と闊歩していた。不思議と腐臭などはせず、ローブを着ている限りは普通の人間と何ら変わらず見えた。セイレンは言った。
「あの、ギャザリンさん、バルスさんのこと憎んでいるんですか?」
「そりゃぁ、もちろん。でも、笑えるじゃない。リザードマンに転生しただなんて」
ギャザリンは脇腹を抑えて、笑い始めた。エルフの笑い方は独特だ。
「リザードマンに転生したんじゃなくて、生まれたてのリザードマンの身体を間借りしてるというか」
ライオットが割って入った。そのまま、通された客室のベンチに腰掛けた。
「リザードマンとは皮肉だな。バルスはリザードマンの生態系を変えるぐらい滅ぼしただろう」
「はい、そうらしいですね」
ギャザリンのローブから出た腕はか細い。実態は死肉と腐った骨で構成されているものの、ローブの魔力が生前の姿を保たせている。
ライオットはセイレンの言葉に耳を傾けた。
「あの男は、手段を選ばん。私たちエルフのパーティーが全滅することすら厭わん。魔王を倒すという目的のためだったのかは、怪しいがな」
ギャザリンは吐き捨てるように言った。
「それは、バルスの旅の目的は、魔王討伐ではなかったということですか?」
ライオットが我慢できずに前のめりで訊いた。
「飲み込みが早いな」
「どういうこと?」
セイレンがライオットに視線を合わせた。
「バルス・テイトは勇者だが、魔物の側からしたらただの殺戮者だ」
「それは…」
ライオットは続けた。
「魔物にも知性のあるヤツラがいるだろ?」
「たとえばあのリザードマンたちのように?」
「そう。知性は理性で作られている。理性とは、論理的思考力・自己制御力・判断力・価値観・客観視点・経験から成るものだ。そしてそれらが積み重なる要因は、恐怖心だ」
「恐怖心?」
「あぁ、魔物にも恐怖心があるってことだ」
ギャザリンが客室の窓を開けて言った。随分使われていなかったせいか、窓から差し込む日差しで埃が舞うのがわかる。
「魔物に恐怖心があると、いち早く知ったのはバルスだ。奴はその恐怖心を利用して、魔物たちの猜疑心や懐疑心を高めて、仲間割れを誘った。つまり、共食い」
ギャザリンの中の憎しみが伝わってくる。バルスに向けられたものだと思えばシンプルだが、そこにはバルスを庇うルイへの複雑な気持ちが見て取れた。
「バルスはいくつもの種族を滅ぼしたと聞きましたが」
ライオットがギャザリンに詰め寄った。
「あぁ、私たちが調査した以上だった」
「やっぱり」
セイレンは何かを確信した顔をした、とライオットはその変化に気づいた。いつもと様子が違う。いつもと言っても、それほど長い付き合いとも言えないが。
「ギャザリンさんたちは、第四次エルフ調査旅団ですよね?」
セイレンがギャザリンの手を掴んだ。思いがけずだった。冷たく脈のない手でセイレンを握り返した。
「ああ、私たちは南の国ジレン・アシュフォード王の命を受けて、バルスたち勇者一行の調査を行っていた」
「それは、ルイさんもご存じのことなの?」
「もちろん。話したのは最近だが」
ドアが開いた。バルスがルイに連れられこちらの客間にやってきた。
「バルスさん」
ライオットが驚いたように呼び掛けた。
「みんな、聞いたのか?そいつから」
「はい」
ライオットとセイレンは示し合わしたように同時に返事した。ギャザリンはバルスに目を合わせようとしない。
「なら、いい。そいつの言ってることは事実だ。だが、事実と真実は同じじゃないってことわかっておいて欲しい」
バルスがそう言うと、ギャザリンが食ってかかった。
「黙れ、この殺戮者め」
部屋の空気が凍り付いた。物理的に凍り付いたように感じたのは、ルイから怒りのような強い殺気が涌き出ていたからだ。
「言葉を慎め、ギャザ」
ルイのその一言でギャザリンは我に返った。そのまま黙礼して部屋をあとにした。
「悪い子じゃないんですがね」
ルイの言葉にライオットは違和感を感じた。
子?エルフに対して。相手はどうみても二百歳クラスのエルフ。アンデッド化したとはいえ、ルイより年上。年上というには憚られるほどだ。
「何を話してきたの?」
セイレンがバルスに問うた。
「いや、ただの昔話さ」
バルスは言葉を濁し、出発の準備を始めた。




