第八章:新しい風
翌朝、柊木康介はいつものように自宅を出て、待ち合わせ場所に向かっていた。昨日の飛鳥との時間を思い返すと、胸が締め付けられるような気持ちになる。彼女の寂しげな表情が頭から離れなかった。
「おはよう、康介くん!」
待ち合わせ場所に着くと、雪城飛鳥がいつも通りの明るい笑顔で立っていた。康介はその笑顔に安堵しつつも、何かを隠しているように感じ取っていた。
「おはよう、飛鳥。今日も早いな。」
「康介くんが遅いだけだよ。」
軽口を叩き合いながら、二人は学校に向かって歩き出す。途中、飛鳥がふと立ち止まった。
「ねえ、康介くん。今日、放課後空いてる?」
「ん?まあ、特に予定はないけど……どうした?」
「ちょっと付き合ってほしい場所があるんだ。」
その言葉に、康介は少し戸惑いつつも頷いた。飛鳥の頼みを断る理由はなかった。
放課後、飛鳥に連れられて向かったのは、駅前のショッピングモールだった。平日の夕方にもかかわらず、多くの人々で賑わっている。
「ここで何するの?」
「ちょっと洋服を見たくて。康介くんの意見を聞きたいんだ。」
「俺の意見?そんなセンスないぞ。」
「いいのいいの!男子目線の意見が聞きたいの。」
飛鳥は笑いながら先を歩き出した。康介はその背中を追いながら、ふと考えた。彼女の行動にはどこか特別な理由があるのではないか、と。
店内に入り、飛鳥は真剣な顔つきで服を選び始めた。康介はそれを見守りながら、彼女の無邪気な様子に癒される。
「これ、どう思う?」
飛鳥が持ってきたのは、淡いピンクのブラウスだった。康介は少し照れながら答える。
「似合うと思うけど、ちょっと甘すぎる気もする。」
「そう?じゃあ、これとかは?」
今度は少しシックなデザインのワンピースを見せる。康介は驚きながらもうなずいた。
「大人っぽい感じでいいと思う。」
飛鳥は満足げに笑い、服を抱えてレジに向かった。会計を済ませると、二人はモール内のカフェに寄ることにした。
「今日、康介くんを連れてきたのには理由があるの。」
コーヒーを前に、飛鳥が急に真剣な表情を見せた。その様子に、康介は少し身構える。
「どうしたんだ?」
「最近、自分がどうしたいのか分からなくなってて……。圭一くんのこともそうだけど、自分の気持ちに素直になれないのが嫌なんだ。」
飛鳥の告白に、康介はどう返事をすればいいのか分からなかった。彼女の気持ちを尊重したい一方で、自分の心の中でくすぶる感情を抑えるのは難しかった。
「飛鳥が悩んでるなら、俺でよければ話を聞くよ。」
その言葉に、飛鳥は少しだけ微笑む。
「ありがとう、康介くん。本当に、君がいてくれてよかった。」
その一言が、康介の胸に深く突き刺さる。彼の心は、ますます彼女への想いで満たされていくのだった。
帰り道、二人は沈黙を保ちながら並んで歩いた。飛鳥がどんな答えを見つけるのか、康介には分からない。しかし、彼女の隣にいることで支えになりたいと強く願う。
夜空に浮かぶ星を見上げながら、康介は小さくつぶやいた。
「俺は、どうすればいいんだろうな……。」
その声は飛鳥には届かず、静かな夜の中に溶けていった。