第二章:秘密の告白
入学式が無事に終わり、新入生たちは新しい教室へと移動した。まだ見慣れないクラスメートたちの中に混じりながら、柊木康介は自分の席に着く。教室は緊張と期待が入り混じる空気に包まれていた。
「康介くん、ここだね。」
後ろから声をかけてきたのは雪城飛鳥だった。同じクラスになることは事前に知っていたが、やはり彼女の存在は康介にとって特別だった。飛鳥も自分の席に座りながら、軽く手を振る。
「一緒のクラスで良かったよ。」
飛鳥のその言葉に、康介の心は少しだけ暖かくなった。だが、どこか不安げな表情が飛鳥の顔に浮かんでいることに気づく。
自己紹介が始まり、それぞれが簡単に自分の名前と趣味などを話していく時間が続いた。康介が自分の順番を終えると、飛鳥の番が来た。
「雪城飛鳥です。よろしくお願いします。」
短く簡潔な自己紹介だったが、飛鳥の柔らかい声に教室の空気が少し和らいだようだった。そんな彼女の姿を、康介はぼんやりと眺めていた。
放課後、二人は校門まで一緒に歩いた。他の生徒たちが三々五々帰路につく中で、飛鳥がふと立ち止まる。
「康介くん、ちょっと話したいことがあるの。」
その言葉に、康介は戸惑いながらも頷いた。近くのベンチに腰掛け、飛鳥は小さく息を吸う。
「私ね、中学の卒業式のときに告白されたの。相手は… 須賀野圭一くん。」
その名前を聞いた瞬間、康介の脳裏に圭一の笑顔が浮かんだ。明るく元気で、みんなから好かれる友人。だが、その圭一が飛鳥に告白したと聞いて、康介の心は急激にざわめいた。
「それで… 私、圭一くんと付き合ってるの。」
飛鳥が少し恥ずかしそうに微笑む。だが、その言葉は康介の胸に深く突き刺さった。心臓がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
「そっか… そうなんだ。」
どう答えるべきか分からないまま、康介はその言葉だけを口にした。自分の感情を悟られないよう、精一杯平静を装う。
「ごめんね、なんだか急にこんな話しちゃって。でも、康介くんにはちゃんと伝えておきたかったの。」
飛鳥の瞳には、どこか申し訳なさそうな光が宿っていた。その気持ちは康介にも伝わったが、今はどう受け止めればいいのか分からなかった。
「気にしないで。むしろ教えてくれてありがとう。」
精一杯の笑顔を作り、そう答えた康介。だがその胸の内は、ぐちゃぐちゃにかき乱されていた。
校門を出て、一緒に帰る道中も、二人の間には少しだけ沈黙が流れた。それでも、飛鳥は時折話題を振り、普段通りの明るさを保とうとしているようだった。
康介はそんな彼女の姿を見て、複雑な感情を抱えながらも、ただ頷いて会話を続けた。
だが、その夜、康介の頭には飛鳥の言葉が何度も浮かび、眠れぬ時間が過ぎていくのだった。