第十八章:揺れ動く距離
朝の光が差し込む中、柊木康介と雪城飛鳥はいつものように並んで歩いていた。しかし、これまでとは違う何かが、二人の間に流れている気がした。
昨日、康介は飛鳥に想いを伝えた。そして、飛鳥はまだ答えを出せていない。それでも、彼女は変わらず康介と登校してくれる。それが康介にとってどんなに嬉しいことか。
「ねえ、康介くん。」
飛鳥が不意に口を開いた。
「ん?」
「昨日のことなんだけど……。」
康介の心臓が跳ねる。飛鳥の口から、どんな言葉が紡がれるのか。
「……ちゃんと考えるね。」
彼女はそう言って、少し微笑んだ。
「ありがとう、飛鳥。」
康介はそれ以上、何も言わなかった。焦らせたくない。飛鳥が納得するまで考える時間を与えたかった。
そして二人は、そのまま静かに学校へと向かった。
午前の授業が終わり、昼休みになった。
「康介、今日も屋上行くか?」
親友の須賀野圭一が、いつものように明るく誘ってくる。
「いや、今日は――」
康介が言いかけたその時、飛鳥が横から声をかけた。
「康介くん、一緒に行ってもいい?」
それを聞いた圭一は、少し驚いたような表情をしたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「いいじゃん! たまには三人で行こうぜ!」
こうして、三人は屋上へと向かった。
春の風が心地よく吹く屋上で、三人は並んで弁当を広げた。
「やっぱりここ、落ち着くよな。」
圭一が空を見上げながら呟く。
「うん、風が気持ちいい。」
飛鳥も静かに答えた。
康介はそんな二人を見ながら、自分の胸の奥が少し締めつけられるのを感じていた。
圭一は何も知らない。飛鳥が悩んでいることも、康介が彼女に告白したことも。
「そういえばさ、最近飛鳥、ちょっと元気ない気がするけど、大丈夫か?」
圭一の何気ない問いに、康介と飛鳥は同時に息をのんだ。
「えっ、そんなことないよ?」
飛鳥は慌てて笑って誤魔化そうとするが、康介は分かっていた。それが無理をしている笑顔であることを。
「なんかさ、康介と一緒にいるとき、いっつも真剣な顔してるしさ。俺、ちょっと心配になっちゃってさ。」
圭一の言葉に、康介も飛鳥も返す言葉が見つからなかった。
「まあ、あんまり無理すんなよ。お前らが元気ないと、俺までテンション下がるからさ!」
圭一は屈託なく笑う。その姿を見て、康介は強く思った。
(圭一は、本当に良いやつだ。だからこそ――。)
康介は、飛鳥の答えを待つしかなかった。
そして、飛鳥もまた、心の中で答えを探していた。
この三人の関係が、どう変わるのか。
それは、もうすぐ決断の時を迎えようとしていた――。