第十七章:選び取るべき道
夕日に染まる屋上で、柊木康介は飛鳥の真剣な眼差しを受け止めていた。
「康介くんは、どう思う?」
飛鳥の問いに、康介の心臓は高鳴った。彼女が迷っていることは分かる。しかし、だからといって自分の気持ちを正直に伝えてしまっていいのだろうか?
「俺は……」
康介は言葉を慎重に選ぼうとした。しかし、心の中ではすでに答えが出ているような気がした。
「俺は……飛鳥のことが好きだよ。」
その言葉を口にした瞬間、康介は自分の中で何かが吹っ切れるのを感じた。
飛鳥の目が大きく見開かれる。彼女はしばらく黙ったままだったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「康介くん……」
康介は飛鳥の次の言葉を待った。しかし、彼女は何かを言いかけて、結局言葉にできないまま俯いてしまった。
「驚かせたよな。でも、ずっと言えずにいたんだ。」
康介の声は静かだったが、どこか決意が込められていた。
「俺は飛鳥が笑っているのを見るのが好きだ。でも、最近の飛鳥はずっと悩んでるように見えた。それが辛かったんだ。」
飛鳥は唇をかみしめ、何度か深呼吸をしてから、再び康介を見つめた。
「私……どうすればいいのか分からない。」
彼女の声は震えていた。
「圭一くんのことは好き。でも、それが恋なのか分からなくなって……。そして康介くんがいてくれると、すごく安心するの。」
飛鳥の瞳には迷いが浮かんでいた。
「私、ひどいよね。康介くんの気持ちにちゃんと向き合えていないのに……。」
「そんなことないよ。」
康介は優しく首を振った。
「飛鳥がどう感じているのか、ちゃんと整理するのが大事だと思う。俺の気持ちは伝えた。でも、それをどう受け止めるかは飛鳥が決めることだよ。」
康介の言葉に、飛鳥は少し驚いたような顔をした。
「……康介くんは、優しいね。」
「優しいんじゃなくて、臆病なんだよ。本当は飛鳥に好きって言ってもらいたいけど、無理に答えを出させるのも違うって思ったから。」
飛鳥はそんな康介の言葉をじっと噛み締めるように聞いていた。
「……ありがとう、康介くん。ちゃんと考えるね。」
彼女の声はどこか決意に満ちていた。それを聞いて、康介も少しだけ肩の力を抜いた。
屋上に吹く風が、二人の間の静寂を優しく包み込んでいた――。
翌朝、康介はいつも通り家を出た。待ち合わせ場所には、すでに飛鳥がいた。
「おはよう、康介くん。」
「おはよう、飛鳥。」
いつもと同じやり取り。でも、昨日の出来事を考えると、少しだけぎこちなくなってしまう。
飛鳥は康介の顔をじっと見つめると、小さく笑った。
「……今日も、一緒に行こっか。」
「もちろん。」
二人は並んで歩き出した。
この関係が、これからどう変わっていくのか――それはまだ分からない。ただ、康介の中には確かに希望が灯っていた。