第十五章:揺れる絆
昼休みの鐘が鳴り響くと、柊木康介は心の中でそっと息をついた。最近、雪城飛鳥との時間が増え、彼女との距離が縮まっているように感じていた。しかし、同時に須賀野圭一との関係も考えると複雑な感情が胸を締め付ける。
教室を出ようとした瞬間、飛鳥が彼のそばにやってきた。
「康介くん、ちょっと屋上に行かない?」
その提案に、康介は一瞬戸惑ったものの、すぐに頷いた。二人で屋上に向かう途中、飛鳥の横顔を見つめる康介の心は複雑な思いで溢れていた。
屋上に着くと、飛鳥は手すりに寄りかかり、遠くの景色を眺めた。風が彼女の髪をそよがせ、日差しが優しく降り注いでいる。
「康介くん、最近どう?」
「どうって?」
「なんだか元気ないように見えるから。私、心配で…」
飛鳥の優しい言葉に、康介は胸が温かくなるのを感じた。しかし、自分の感情をどう伝えればいいのか分からず、言葉に詰まってしまう。
「飛鳥こそ、どうなんだ?圭一とうまくいってるのか?」
その問いに、飛鳥は少し間を置いて答えた。
「圭一くんは優しいし、いい人だよ。でも…」
飛鳥の声が小さくなり、彼女の視線は足元に落ちた。その姿を見て、康介は胸の痛みを感じた。彼女が抱えている悩みを共有したいと思う反面、親友の圭一に対する後ろめたさもあった。
「康介くん、私はどうしたらいいんだろう?」
その問いかけに、康介は深く考えた。飛鳥の気持ちを尊重したい一方で、自分の気持ちを隠し続けるのは辛い。彼女が何を求めているのかを理解しようと努めながら、慎重に言葉を選んだ。
「飛鳥が本当に幸せだと感じるなら、それが一番だと思う。でも、もし何か悩んでいるなら、俺で良ければ話を聞くよ。」
飛鳥は康介の言葉に安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、康介くん。本当に君と話すと、気持ちが楽になるよ。」
その言葉に、康介の心は温かさで満たされた。しかし同時に、彼女の笑顔の裏に隠された葛藤も感じ取れた。
その日の帰り道、二人はいつものように並んで歩いていた。飛鳥の横顔を見つめながら、康介は心の中で一つの決意を固めた。彼女が本当に幸せになれるよう、自分にできることを見つけようと。
家に帰り着いた康介は、自分の部屋でベッドに横たわり、今日の出来事を思い返した。飛鳥との関係は確かに近づいているように感じるが、それが果たして正しい道なのか、確信が持てない。
翌朝、学校に向かう途中で康介は圭一に出くわした。彼は相変わらず明るい笑顔を見せ、康介に軽く手を振った。
「よう、康介。昨日は飛鳥と一緒にいたんだろ?」
その言葉に、康介は一瞬息を飲んだが、すぐに平静を装った。
「ああ、ちょっと話しただけだよ。」
「そうか。飛鳥も康介と話してるとリラックスできるって言ってたし、ありがたいよ。」
圭一の無邪気な言葉に、康介は胸が痛んだ。親友として、彼を裏切ることだけは避けたいと思っていた。しかし、飛鳥への思いが膨らむたびに、その決意が揺らいでしまう。
教室に着くと、飛鳥が笑顔で康介を迎えてくれた。その笑顔に救われる一方で、彼の心はさらに混乱していった。
飛鳥と圭一、そして自分――揺れる三角関係の中で、康介はこれからどう進むべきか、答えを見つけられずにいた。