第十四章:思いがけない出会い
週末が訪れ、柊木康介は図書館で勉強をするために家を出た。普段なら自室で黙々と勉強する彼だが、この日はなぜか外に出たくなったのだ。春の穏やかな陽気が彼の背中を押したのかもしれない。
図書館に着くと、思いのほか人が少なかった。静寂が支配する空間に足を踏み入れ、康介はほっと息をついた。お気に入りの窓際の席に座り、教科書とノートを広げる。
勉強に集中し始めてしばらくすると、ふと視界の端に見覚えのある姿が映った。顔を上げると、そこには高橋咲希がいた。彼女もまた、教科書に目を落としながら真剣にノートを取っている。
康介は驚きつつも、彼女に声をかけるべきか迷った。しかし、咲希の真剣な表情を見ると、邪魔をするのは気が引けた。しばらく観察していると、彼女がふと顔を上げ、康介と目が合った。
「柊木くん?」
咲希は少し驚いた様子で声をかけてきた。康介は軽く手を挙げて応じる。
「高橋さんも勉強しに来たの?」
「うん、家だとどうしても集中できなくて。」
二人は自然と隣り合って座ることになった。少し緊張した空気が流れるが、やがて咲希が話を切り出した。
「柊木くんも、ここでよく勉強してるの?」
「そうでもないけど、今日はなんとなく外でやりたくなって。」
その言葉に咲希は小さく笑った。
「そういう日もあるよね。私も同じかも。」
二人の会話は勉強の話題から、次第に日常の些細なことへと移っていった。咲希は控えめながらも、話す内容は興味深く、康介はついつい引き込まれていく。
「そういえば、須賀野くんとは仲がいいんだよね?」
ふと、咲希が話題を変えた。康介は一瞬、戸惑ったが、すぐに頷いた。
「うん、昔からの友達だから。」
「そうなんだ。彼、明るくていい人だよね。」
咲希の言葉に、康介は彼女が須賀野圭一に対して特別な感情を抱いていることを感じ取った。だが、そのことに触れるのはまだ早いと感じ、話題を変えた。
「ところで、来週のテスト、何か苦手な科目ある?」
「数学かな。どうも公式が覚えられなくて。」
「じゃあ、今から少し一緒にやってみる?」
「いいの?ありがとう。」
二人は自然と勉強を共にすることになり、互いに問題を解きながら助け合った。咲希の困った顔に対して、康介は丁寧に解説し、彼女が理解できるようになると、二人で喜び合った。
「柊木くん、本当にありがとう。少し自信がついた気がする。」
「それは良かった。俺も復習になったし、助かったよ。」
時計を見ると、思いのほか時間が経っていた。図書館が閉まる時間が近づき、二人は荷物を片付け始めた。
「また、こうやって一緒に勉強できたらいいね。」
「そうだね、また誘ってよ。」
図書館を出ると、夕暮れの空が広がっていた。咲希と一緒に歩きながら、康介はふと彼女の横顔を見た。彼女が須賀野圭一に寄せる想いを知りながらも、こうして一緒に過ごせる時間が心地よく感じられる自分に驚いていた。
「じゃあ、またね。」
「うん、また学校で。」
咲希と別れた後、康介はゆっくりと家路についた。心の中に芽生えた新たな感情を抱えながら、彼は次の週に向けての準備を始める決意を固めるのだった。
頑張って書きます....