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第十二章:すれ違う視線

教室の窓から差し込む柔らかな光が、机の上に広がるノートを照らしている。柊木康介はその光をぼんやりと見つめながら、頭の中で巡る思考を整理しようとしていた。飛鳥との距離は確実に縮まっているように思えたが、それは同時に、圭一との友情に微妙な亀裂を生む可能性を含んでいた。


「康介、どうしたの?またぼーっとしてる。」


声の主は雪城飛鳥だった。昼休みの騒がしい教室の中でも、彼女の声はどこか穏やかで康介の耳に心地よく響いた。飛鳥が康介の机に手をついて、彼を覗き込む。


「あ、いや、大丈夫だよ。ただ、ちょっと考え事をしてただけ。」


康介は軽く頭を振って気を取り直す。それでも、飛鳥の目は彼の顔をじっと見つめたままだ。


「もしかして、何か悩んでる?私で良ければ相談に乗るよ。」


その言葉に一瞬、康介の心が揺れた。飛鳥に話すべきか、それともこのまま心に秘めておくべきか。彼は深いため息をつき、言葉を選びながら答えた。


「いや、本当に大したことじゃないんだ。ただ、最近いろいろと考えることが多くて。」


飛鳥は納得したような、していないような表情で小さく頷いた。


「そっか。でも、無理はしないでね。康介くんが元気ないと、私もなんだか寂しいから。」


その言葉に、康介は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。しかし、同時に彼の中にある罪悪感もまた膨らんでいく。彼は飛鳥に微笑みを返しながら、心の中で自分を責めた。


午後の授業が終わり、帰り道に飛鳥と並んで歩く康介の足取りは重かった。飛鳥はいつものように明るく話しかけてくるが、康介の返事はどこかそっけないものだった。


「康介くん、明日って時間ある?ちょっと付き合ってほしい場所があるんだけど。」


その言葉に、康介は立ち止まった。飛鳥が振り返り、不思議そうに彼を見つめる。


「明日…?まあ、別に予定はないけど、どこに行くの?」


「それはまだ秘密。でも、絶対楽しいと思うよ。」


飛鳥の言葉にはどこか含みがあった。康介は少し考えた後、頷いた。


「分かった。じゃあ、明日付き合うよ。」


飛鳥は嬉しそうに笑い、再び歩き始める。康介はその後ろ姿を見つめながら、自分の中にある複雑な感情を整理しようとした。


翌日、待ち合わせ場所に現れた飛鳥は、いつも以上に楽しげな表情を浮かべていた。康介は少し驚きながらも、彼女に声をかける。


「おはよう、飛鳥。なんか、すごく嬉しそうだね。」


「うん!今日は特別な日だからね。」


その言葉の意味を尋ねる間もなく、飛鳥は康介の腕を引っ張り、歩き出した。彼女が向かったのは、町の中心部にあるカフェだった。店内は落ち着いた雰囲気で、テーブルに並べられたケーキや飲み物が美味しそうに見える。


「ここ、私のお気に入りなんだ。一度康介くんと来たかったの。」


飛鳥の言葉に、康介は少し戸惑いながらも椅子に座る。彼女が選んだ席は窓際で、外の景色を一望できる場所だった。


「なんで急にこんなところに?」


康介が尋ねると、飛鳥は少し恥ずかしそうに笑った。


「なんとなく、康介くんとこうやって過ごす時間が大切だなって思ったの。」


その言葉に、康介は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。飛鳥の隣にいることが幸せである一方で、圭一への裏切りになるのではないかという不安が頭をよぎる。


「ありがとう、飛鳥。こうやって誘ってくれるの、すごく嬉しいよ。」


康介の言葉に、飛鳥は安心したように微笑んだ。その笑顔を見て、康介は自分の中で何が正しいのか、ますます分からなくなっていく。


夕方、帰り道での会話も終わり、家に戻った康介は自室で深く考え込んだ。飛鳥との時間は確かに楽しい。しかし、その楽しさの裏に潜む罪悪感や葛藤が、彼を苦しめ続けていた。


「俺は、このままでいいのか…?」


康介の問いかけに答えるものはなく、部屋の中には静寂だけが広がっていた。

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