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第十一章:感情の迷路

放課後の夕焼けが校舎を染め上げる中、柊木康介は自分の机に座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。周囲のざわめきが次第に静まり、教室には数人の生徒だけが残っている。隣の席を見ると、雪城飛鳥が何やらノートに向かって真剣な表情でペンを走らせている姿があった。


「飛鳥、まだ宿題やってるの?」


康介が声をかけると、飛鳥は顔を上げ、少し驚いたような表情を見せた。


「あ、うん。でももう終わるよ。康介くんは帰らないの?」


「別に急ぐ用事もないし、少しここでのんびりしていこうかな。」


康介の言葉に、飛鳥は微笑んだ。彼女の微笑みは、夕陽に照らされてさらに魅力的に見えた。だがその魅力が、康介の胸をかき乱す。


二人の間に短い沈黙が流れる。窓から差し込む光が、教室の空気に不思議な温もりを与えていた。だが、その穏やかな空間に突然、飛鳥の口から不意の言葉が飛び出した。


「康介くんさ、最近私に何か隠してる?」


康介は一瞬言葉を失った。隠していることなど、いくつもあった。だが、それを飛鳥に悟られたことに動揺を隠せない。


「別に、何も隠してないよ。なんで?」


「なんだろうね。康介くんが私に話したくないことがあるみたいに見えちゃうんだ。」


飛鳥は視線を康介に向ける。その瞳には鋭い洞察力と、どこか心配するような優しさが込められていた。康介はその視線から目をそらすことができなかった。


「本当に何もないよ。ただ…ちょっといろいろ考えてるだけ。」


「そっか。康介くんにも悩みがあるんだね。」


飛鳥の言葉に、康介は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女には何でも話せると思っていた自分が、今や彼女に本当の気持ちを打ち明けられない自分に腹立たしさすら感じていた。


「飛鳥はさ、悩むこととかあるの?」


康介は話題を変えようと質問を投げかけた。飛鳥は一瞬考え込み、そしてぽつりと答えた。


「あるよ。圭一くんのこととか、自分の気持ちとか…わからないことばっかり。」


その言葉に、康介の胸は再び揺れた。彼女もまた、自分と同じように心の中で迷子になっているのかもしれない。だが、その迷子の彼女を導く役割を自分が果たすべきなのか、それとも一歩引くべきなのか、答えは見つからなかった。


「そうだね…答えが出ないことって、いっぱいあるよな。」


「うん。でも康介くんがいると、なんだか安心するんだ。私、康介くんがいてくれてよかった。」


飛鳥のその言葉に、康介の胸は一層締め付けられるようだった。飛鳥のために何かしてあげたい、彼女を支えたいという気持ちは募るばかりだが、それをどう行動に移せばいいのか、康介自身もまだ見えていなかった。


やがて、飛鳥がペンを置き、ノートを閉じた。


「よし、終わった!康介くん、帰ろっか。」


「ああ、そうだな。」


二人は並んで教室を後にした。夕焼けの中、歩く二人の影が校舎の廊下に長く伸びる。その影は、彼らの心の迷いの深さを象徴しているかのようだった。


校門を出ると、飛鳥がふと足を止めた。


「康介くん、少し寄り道していかない?」


「寄り道?どこに?」


「秘密。でも、きっと康介くんも気に入ると思う。」


康介は少し迷ったが、飛鳥の無邪気な笑顔に逆らうことはできなかった。


「わかった。行こう。」


飛鳥に連れられて向かったのは、学校の近くにある小さな公園だった。日が沈みかけた空が赤と紫に染まり、風に揺れる木々の音が心地よい。


「ここ、私が最近見つけたお気に入りの場所なんだ。」


飛鳥はベンチに腰掛け、康介にも座るように促した。


「綺麗な景色だな。」


「うん。康介くんと一緒に見たかったんだ。」


飛鳥の言葉に、康介の胸は再び熱くなった。彼女といる時間が、どれだけ特別なのかを改めて感じさせられる瞬間だった。


だが同時に、彼女の心にはまだ圭一の存在がある。その事実が、康介の中にわずかな影を落としていた。


風が二人の間を優しく吹き抜ける。言葉にならない感情がそこには溢れていた。

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