第一章:新たな始まり
春の柔らかな陽光が校門の向こう側を照らしていた。桜並木の下を歩きながら、柊木康介は新しい制服の襟をそっと直す。中学校の卒業式からまだ一ヶ月も経っていないのに、あの頃の生活が遥か昔のように感じられる。新しい高校生活への期待と不安が入り混じり、康介の胸は少しだけ高鳴っていた。
「康介くん、緊張してる?」
横からふわりとした声が聞こえた。振り返ると、雪城飛鳥が微笑んで立っていた。彼女もまた、新しい制服に身を包み、輝くような笑顔を見せている。飛鳥は中学校時代の同級生であり、康介にとっては特別な存在だった。
「まあ、少しだけね。でも飛鳥が一緒だから安心かな。」
康介は照れ隠しのように笑いながら答えた。飛鳥と同じ高校に進学したのは、偶然でもあり、必然でもあった。中学校時代、共に受験勉強を乗り越えた彼女との日々は、康介にとってかけがえのない思い出だ。
「私も、康介くんがいてくれて心強いよ。知り合いがいない新しい環境って、ちょっと怖いもんね。」
飛鳥はそう言って、軽く髪をかき上げた。その仕草に、一瞬だけ康介の視線が吸い寄せられる。だが、すぐに自分を戒めるように顔を逸らした。
二人は並んで校門をくぐり、広々とした校庭を見渡す。新しい校舎の白い壁が朝日に映え、どこか希望に満ちた雰囲気を醸し出していた。他の新入生たちもちらほらと見え、皆がこれから始まる高校生活に胸を膨らませているようだった。
「じゃあ、行こうか。」
飛鳥が小さく呟き、先に歩き出す。その背中を見つめながら、康介は静かに頷いた。
新しい学校、新しい環境、そして新しい日常。
だが、康介はまだ知らなかった。この先に待ち受ける様々な出来事が、彼の日常を大きく変えていくことを。
※この話の個人名や団体名などはフィクションですが、一部ノンフィクションを含みます。