少しだけのダンジョン探検
とことこと三人で歩いていると当初反対していた先輩も諦めたようで解説してくれた。
「あそこにある、薬草は本来満月の夜にしか採取出来ないのだけど、ここでは魔力の影響でいつでもとれるんだ」
「あそこの穴から降りると一つ下の階に行ける、今日は危ないから行かないけどね」
先輩の解説を聞きながら歩くと、なんだか遠足をしている気分になる。
「魔物とか出たりしないのですか?」
スリルを味わいたくなって質問してみる。
「ここは入口に近い場所だからね、魔物避けの結界が働いているんだ。その代わりさらに希少な薬草や生物もここには生えないけどね。」
目を凝らしてあたりを見てみるとうっすらと結界が見える。勉強すればどの形の結界か分かるそうだが、私にはまだ分からない。
「魔物のいる階は危険だから、防御魔法を使えるようになったら案内するよ。まぁ、勝手に入れている時点で駄目だけどね」
横目でもう一人の先輩を睨みつける。
「まぁまぁ、部員を少しでも増やしたいだろ」
立ち止まり顔色を伺っている。険悪な雰囲気な二人を置いてあたりを見回す。
ダンジョンといえども学校の地下、かなり暗いが先輩が魔道具を使って照らしてくれる。
近くに空いた穴から下を見ると土の地面が見える。
耳を澄ますと水の流れる音と、足音が聞こえる。
先輩達を見ても睨みつけられているだけで、どちらも歩いていない。
上から聞こえる音でなく、反響した音が聞こえる。
「どうした?」
音に気づいたのか静になる。
『他の方もここにいるのですか?』
小声で尋ねてみる。
『今日は誰もいないはずだよ』
薄っすらと汗が浮かんでいるのが見える。
小さかった足音はだんだん大きくなっていく。
『結界はあるけど魔物がいる可能性もある、帰ろう』
『でも、何がいるのか気にならな…イッ」
思いっきり足を踏みつけられて痛そうだ。
『戻るよ』
足音を立てないように、忍び足で帰った。
「なんで、勝手に新入生をダンジョンに入れているんですか!!」
こっそり逃げ帰ったものの、扉を開いた先には顔を真赤にした少女がいた。
「だって、説明だけして帰すのはつまらないだろ」
「そういう問題じゃないでしょう、今年も宣伝権を失ってしまいますよ」
赤髪の少女とまだ名前の知らない先輩が言い争いを始めた。
「ごめんね、茜。僕がちゃんと止めなかったのも悪いから。」
「い、いえ。どうせ星野先輩が悪いので。」
さっきよりも更に顔を赤くし始めた。
春を感じる。
暗い地下の中、足音が響く。
「本日はだれも入らないと思ったが、失敗だったか」
男の低い声がそっと漏れる。
「早く、見つけてやらねば」
男は闇の中を歩いていった。