1回転目
今日は、ただの日曜日。
東京都墨田区にあるホール、今週末も彼女達の姿はそこにあった。
禅王の強攻撃でコウタロウは倒れてしまった、次のマックスベットで復活演出が来てくれれば、私の長かった戦いが報われる。
ドドン ドン ドドン ドン
(太鼓? もうすぐ八月だし近くでお祭りでもやってるのかな?)
真七海は違和感を感じて辺りを見渡すが、ホールにいて外の音など聞こえるはずがない。
(私の心臓の音だ)
真七海は慌てて台から手を離した、緊張している事が悟られたかも知れない。
オカルト打流派の真七海は、スロットマシンを生き物だと考え日々対峙している。
(だめだ 引神様を呼ぼう)
別島のノーマルタイプを打ってる仲間の所へ向かった。
「監督 チャク見ました? さっきまで私の裏にいたのに、気付いたら消えちゃってた」
「さっき私がトイレから戻る時、『アイスアイス』言いながら歩いてるの見かけたわよ」
「えぇー!それどれぐらい前ですか!?」
「5分ぐらいじゃない?」
(このホールにもアイスの自販機があるけどパチンコ側の入り口の横、そっちは普段私達はあまり使わないからチャクがその存在を知らない可能性の方が高い、一番近くのコンビニは歩いてだいたい2分、そんなに悩むタイプじゃないから、もう戻ってきて休憩室で食べてるかも。)
そう考え休憩室に向かおうとしたが瞬時に踏みとどまった。
(まって、もし棒タイプのアイスを選んでたら溶ける前にコンビニの外で食べる事も考えられる、それとも食べながら歩いて帰ってくる?離席ボタンを押してから体感2分、ホール内にチャクいると思ってたから押した時の正確な時間を確認しなかったのは痛い、一度自分の台に戻って経過時間を確認するのは悪手だよね)
残された時間は約8分、一番現実的でないと序盤に諦めた案が繰り上げ当選した。
「監督 原チャリ借ります!」
何のためらいもなく人のポケットに手を突っ込む。
「あっちょっと アンタ」
一瞬の隙に鍵を抜き取り去った。
「ったく、どこに行く気よ」
数分後 監督は休憩室に常設されているマンガを読んでいるチャクを発見する。
「ねぇ、間中にあった?」
「カンちゃん? 見てないよ、コウ打ってるんじゃないの?」
「それが私のバイク、パクってどっか行ったのよね 、やはいのよ、あの娘の台そろそろ開放されるかも」
二人で真七海の台の近くに様子を見に行くが、まだそこに真七海の姿はない。
19連で終了のリザルト画面のまま、上のデータカウンターに離席中8分経過の表示。
「ここ復活させれば特別演出が見れるからチャクに打って貰おうとしてたのね」
「ワタシ座った方がいい?」
「今は間中のカードを入れてからじゃないと駄目ね、それと何人かハイエナがウロウロしてるから、もし開放されたらチャクは間違いなく弾き出されるわよ」
離席中9分経過
「さすがにざわつき出したわね、店員さんがあの台の残クレを吐かせたら開放の合図よ、ちょっと私も構えとくわ」
「あっ来た!」
チャクが二列奥の島から早歩きで向かってくる真七海を発見すると同時に違和感に驚く。
「なに、あのおっきい手!」
着席すると同時にマックスベット押し込んだ。
復活演出発生、液晶の中のコウタロウと真七海が同時に叫ぶ。
「うぉぉーーーーーーぉ」
その後1セットだけ継続させ、見事念願の特別演出を拝み、うっすらと涙を浮かばせる真七海。
「アンタまた泣いたの? おおげさね」
「いやぁ動画では何回も見てたけど自分の台だと別格でした」
「カンちゃん、そのグローブもしかして夢宇さん?」
夢宇さんとは、真七海がフォローしている占いS N S アカウント夢宇の窓、フォロワーが666人に達した際に鍵アカになった事により真七海が勝手にスロットとの縁深さを感じ崇拝している。
「そうなの、今日のラッキーアイテムは流石に無理だと思ってたけど、土壇場で手に入れました、効果はご存知の通り、さすが夢宇さん」
「まったく、それ買った分はマイナス計上するわ」
「あっこれ買ってないの、いつもここのホールに電車で来るときに荒川通るでしょ? 日曜日は少年野球やってるを思い出したんです」
「アンタじゃあその子達から奪ってきたわけ?
「人聞きが悪いです、ちゃんと借りてきましたよ、でもキャッチャーミットで良かったぁ外野手だったら道路から一番遠いから間に合ってなかったかも」
「なに馬鹿言ってんの! それって絶賛使用中じゃない、さっさと返して来なさい、あとアンタの持メダル何枚かお菓子と交換して、その恩人達に差し上げなさい」
「はーい、監督また原チャリ借ります」
今日は日曜日。