7.冒険者ギルドで【黄金の椋鳥】の悪事を告げた
2日目2
食事を終えた俺達は、再び2階の自分達の部屋へと戻って来た。
とにかく、今日は色々あり過ぎて疲れた。
寝よう……
あ、寝巻きとか着替えとか全部、金庫と一緒に【黄金の椋鳥】のパーティーハウスにある俺の部屋の中だった。
今から取りになんかいけないし、俺を容赦なく追放して囮にする連中だ。
勝手に処分されているかもしれない。
ミルカあたりが、寄生虫の遺物は殺菌消毒だ! と火炎魔法で俺の荷物を焼いている、みたいな嫌な図が頭に浮かんだ。
仕方ない。
今日はこのまま寝て、明日冒険者ギルドに行って、あいつらの悪行を白日の下に晒してやる。
うまくいけば、私物の一部は取り返せるかもしれないし、慰謝料払わせる事が出来るかもしれない。
部屋に備え付けのベッドは、ゴンザレスが気を利かしてくれたのか偶然か分からないけれど、キングサイズ、つまり二人並んで寝る事が可能だ。
ナナはあんまり“女”を感じさせないし、一緒に寝た所で、何も起こらないだろう。
俺は、ベッドの端に潜り込みながら、ナナに声を掛けた。
「ナナも寝たら? 疲れただろ?」
「寝る……?」
ナナが小首を傾げた。
まさか、“寝方”も覚えていないのか?
「ほら、こうやって布団に潜り込んで、目を閉じて朝までじっとしているんだ」
ナナは見よう見真似な感じで布団の中に入って来た。
そしておずおずと俺に身を寄せて来た。
彼女の髪から仄かな香りがたちこめ、知らず鼓動が早くなった。
「お、おい! そんなにくっつかなくても、反対側、空いているだろ?」
俺の言葉に、ナナが不思議そうな顔になった。
「くっついたら……ダメ?」
いや、そんな可愛い顔をしても……っていうか、誰だ? ナナにはあんまり“女”を感じない、なんて嘯いていた奴は?
よく見たらこいつの顔、有り得ない程整っているな。
これは俗にいう絶世の美少女ってやつじゃ……
「と、とにかく寝るぞ!」
俺はナナに背を向け、目を閉じた。
やはり相当疲れが溜まっていたのだろう。
俺は瞬く間に夢の世界へと誘われて行った。
翌朝―――
う~ん、よく寝た。
―――ピロン♪
うわっ!?
窓から明るい日差しが射し込む中、目を覚まして伸びをした俺は、軽快な効果音とともにいきなり立ち上がったポップアップに驚かされた。
【おはようございます】
【今日も【殲滅の力】を使用して、ナナの力を解放して下さい】
残り13時間28分18秒……
現在001/100
なんだ?
【殲滅の力】……?
段々覚醒して来た俺の脳裏に、昨日の出来事が蘇ってきた。
そういや昨日、なぜかせかされて【殲滅の力】とやらを使ってみたら、1000層のフロアマスター、ウロボロスが斃せてしまったんだっけ?
俺はリュックサックの中を探ってみた。
そこには握りこぶし大の大きさの深緑色の魔石――ウロボロスの魔石――が確かに入っていた。
1000層のフロアマスターがドロップした魔石だ。
ギルドに持って行ったら、結構なお金になるんじゃないだろうか?
しかし昨日まで【黄金の椋鳥】で寄生虫扱いされていた俺が、いきなりこんなモノ持ち込んだら騒ぎになるのは目に見えているな……
軽くため息をつきながら、俺はウロボロスの魔石を再びリュックサックの中に放り込んだ。
ポップアップはいつの間にか消え去っていた。
もしかしたら、時間で消えるのかもしれない。
しかし、俺の視界の右隅に、妙な数字が残り続けている。
残り13時間10分35秒……
現在001/100
?
上は……恐らく今が午前10時50分だから、明日へと日付が変わるまでのカウントダウン?
下の001/100……ナンダコレ?
……
うん。
分からない事を一生懸命に考えるのは馬鹿らしい。
とにかく昨夜計画していた通り、メシ食って、冒険者ギルドに向かおう。
ベッドから起き上がろうとして、俺は今更ながらナナの存在を思い出した。
彼女はまだベッドの中で目を瞑っている。
「ナナ」
俺の声を待っていたかのように、彼女はすぐに目を開けた。
もしかしたら既に起きていて、目を開けるタイミングを図っていただけだったのかもしれない。
「そろそろ起きようか?」
ナナは頷くと、ごそごそとベッドから這い出した。
階下に下りて行くと、さすがに昼近いこの時間帯、酒場は閑散としていた。
ゴンザレスは、テーブルや椅子の拭き掃除をしていたが、俺達に気付いたらしく、手を休めると若干下卑た顔になった。
「ゆうべはお楽しみでしたか?」
「なんでそんな喋り方なんだよ。それに何もしてないよ」
「おいおい、照れるなよ。まあ、他の部屋から苦情も入ってないから安心しろ」
諦めた俺は、二人分の朝食を注文した。
遅い朝食を終えた俺達は、ゴンザレスに別れを告げて宿を出た。
俺は冒険者ギルドに向かいながら、ナナにこの街と冒険者について可能な限り、平易な説明を試みた。
話しながらそっと彼女の様子を観察してみたけれど、相変わらず反応が薄い。
本当に、彼女は何者だろうか?
「とにかくギルドでは俺が全部説明するから、もし何か聞かれても、記憶喪失で何も覚えてないって事にしておいて」
実際、何も覚えていないからだろう。
俺の言葉にナナは素直に頷いた。
ゴンザレスの宿『無法者の止まり木』から歩く事10分程度で冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドはダレスの街の中心部、『封魔の大穴』からも程近い、噴水広場に面して建つ3階立ての白亜の建物に入っている。
冒険者向けのクエストの紹介、魔石やアイテムの買い取り、物品の鑑定、『封魔の大穴』の攻略状況からちょっとした豆知識まで。
とにかく、ここに来れば最低限、冒険者として生きていくのに必要な情報を手に入れる事が出来る。
扉を押し開けてすぐの場所は、天井の高い大広間になっていた。
時間帯のせいか、冒険者の姿は殆ど見当たらない。
2~3人が、壁に貼り付けられたクエスト依頼の紙をチェックしている位。
俺は奥のカウンターに近付くと、居眠りをしているエルフ女の頭を小突いた。
「んあっ?」
寝ぼけ眼で顔を上げたのは、冒険者ギルドの受付歴(自称)ウン十年のバーバラだ。
実年齢は、俺よりも遥かに上のはずだけど、見た目だけは俺と同じ位に見える。
背中にかかる長くゆるやかにウェーブのかかった緑色の髪をかき上げながら、彼女が顔を上げた。
「ちょっと! いきなり人の頭叩いて……って、カース!?」
バーバラの声が裏返った。
「あんた……やっぱり成仏できなかったのね。こんな真っ昼間からデて来るなんて……」
「いや、死んで無いから」
多分……
宿屋『無法者の止まり木』でも普通に飲み食いしてきたし。
幽霊とか、アンデッドとかにはなっていないはずだけど。
「でも昨日、【黄金の椋鳥】のマルコ達が、あんたは死んだって……」
俺は自然に顔が強張るのを感じた。
「まあ実際、殺されかかったけどな」
「殺され……?」
俺は【黄金の椋鳥】に昨日40層目で突然追放された事、ドラゴニュートの集団から彼等が逃れ去る時に囮にされた事を細かく説明した。
バーバラの細くて綺麗な眉が、八の字になった。
「酷い……」
「だろ? で、あいつら、俺がどんな風に死んだって話していた?」
「昨日の午後ここへ来て、モンスターハウスでドラゴニュートの大群に襲われた。想定外の変異種や強化種が混じっていたので、全滅しそうになった。で、カースが“ここは俺に任せて先に行け!”と俺達を逃がしてくれた。地上に無事辿り着いた後、パーティーメンバー登録を確認してみたら、カースの名前が消えていた。惜しい奴を亡くしたって」
確かに死亡すれば、自動的にパーティーメンバーから外れるけれど。
それにしても、随分な作り話だ。
何が惜しい奴を亡くした、だ。
俺の右足を斬り飛ばしたマルコ、
見向きもせずに走り去って行ったハンスとミルカ、
囮として最低限役立つように、出血だけ止めて、足の再生はしてくれなかったユハナ……
俺はお前等を絶対に許さない!
噛みしめ過ぎた奥歯がギリギリ音を立てる中、バーバラが問いかけてきた。
「それにしてもあんた、どうやって助かったの? それと、後ろにいるその子は?」