4話旅の始まりその2
キースが店を広げて商いを始めようとしていたところ、何やらやけに街が騒がしい事に気づいた。ここ王都はウェステリア王国の中でも一番の都会なので騒がしいのは当たり前なのだが、いつもと様子が違う。いつもならこのあたりはキースのような行商人や露店がズラリと並んで活気があるものだが、いつものように店は並んでおらず、キースよりも早く来て店を広げていた者たちも店を畳み始めている。街中を厳つい見た目のいかにもゴロツキといった男達がが慌ただしく駆け回ってもいる。
「なぁ、なんかあったのか?」
「お前知らないのか?何でも奴隷市の魔族が逃げ出してまだ捕まってないらしいぜ。まだガキらしいが油断は出来ねぇ。ほとぼりが冷めるまでこの街で商いはやめといたほうがいい。危険だからな」
「マジかよ、魔族って…。てことはあのゴロツキ共は奴隷商の私兵ってとこか?モーリさん大丈夫かなぁ?」
一方彰はそんな事は露知らず、街を散策していた。
「きれいな街だ。実際に行ったことはないが、バチカン市国のような雰囲気だな」
彰が街の風景を眺めながら大通りを歩いていると、突然大通りの脇の路地から飛び出してきたなにかとぶつかった。
「うわっ!!」
その何かはみすぼらしい汚れた服を着て、首に鋼鉄製の首輪をつけた十歳前後の少女だった。よく見ると頭には小さな角のようなものが生えていた。
「おっと、なんだ子供か。余所見していてすまなかったな。怪我はないかい?」
「やっと見つけたぜ〜、このガキ!その魔道具の首輪着けたまんまで逃げられるとでも思ってんのかよぉ~!その首輪がある限り俺達にテメーの位置が把握されてるって忘れたのか?」
少女が飛び出してきた路地から見るからにゴロツキといった男四人となんだか高そうな服にアクセサリーをジャラジャラつけた成金風の男が現れた。
「勝手に出ていかれては困るよ君ィ〜。さぁ無意味な鬼ごっこはやめて一緒に帰ろう」
少女は咄嗟に彰の後に隠れた。
(このガキにどういう事情があるか知らんし助けてやる義理もないが、こいつらのように自分自身は大したことがないくせに自分よりも絶対に弱いものに対して偉そうにする奴等はどうしようもなく腹が立つ。周りに人は居ないな、よし)
「どういう事情があるか知らんが、こんな子供に大の大人がよってたかって恥ずかしくはないのか?」
「あぁん?何だてめぇは?」
「あなた、見てわかりませんか?そのガキは奴隷ですよ奴隷。首輪がついてるでしょう?もしやあなたがそのガキを買うって言うんですか?」
「奴隷、だと…?」
その単語を聞いた瞬間、彰の頭の中で何かが弾けた。




