3話旅の始まりその1
彰達が王都に着いた頃、ウェステリア聖騎士団の面々はブラック・ワイバーンの死骸が散らばる場所まで辿り着いた。
「だ…団長…!これは…!」
「何なんだ、これは…!ここで一体何が起きたのだ!?この漆黒の鱗に覆われた死骸、間違い無くブラック・ワイバーンのもの!それも一体だけではない!少なくとも二体は死んでいる!原形を留めないほどに木端微塵になって死んでいる!!ブラック・ワイバーンは我々が束になってようやく一体相手にできる化け物だぞ!それを特に争った形跡もなく…単独でそれも凄まじい手練れ」
ウェステリア聖騎士団の面々に得体の知れない何かに対する恐怖が拡がっていく。団員の一人が恐る恐る口を開いた。
「まさかあれは本当だったのか…!?魔王が現れる時、魔物が活発化する、最初に魔王が現れた三百年前も同じように魔物が活発になったという記述もあります!最近妙に魔物が活発だったのもきっとそのせいなんだ!このブラック・ワイバーン達は、きっと魔王に殺されたんだ!」
それをきっかけに他の団員達もざわつき始める。
「狼狽えるな!今はこの状況を急ぎ王に報告せねば、総員、これより帰投する!続け!!」
騎士団長は団員達を一喝し、元来た方へ踵を返す。
(三百年前に勇者によって討たれた魔王が再び現れるなどあり得んはずだ!ここに来るまでに見かけた人物、あの荷馬車の二人組、なにか怪しい。特にあの奇妙な格好をした東から来たという男、怪しさしか無い)
無事に王都に到着した彰は、キースと別れて街を見て回ることにした。
「モーリさん、それじゃあこの辺でお別れだな。このまま俺の用心棒として一緒に来てくれるといいけどな。まぁ、その気があったらまた来てくれよ。俺はこの辺でしばらく商いしてっからさ」
「あぁ、ここまで世話になったな」
「あ!悪い悪い、まだ助けてもらった礼をしてなかった!ほらこれ、命の危機を助けてもらっといてこれじゃ少ないかもだけど…」
彰はキースから何かが入った布袋を受け取った。ジャラジャラと音がしてずっしり重い。
「…これは?」
「金だよ金!ホントはもっと払うべきなんだが…そうだ!一緒にこれも持っていってくれよ。ウチの商品の中で一番値の張るローブ!いつまでもその格好じゃ目立って仕方ないだろ?」
この世界と一緒に受け取ったローブは大変手触りが良く、丈の長さの割に軽い。値が張るというのは本当のようだ。
「ありがたい。貰っておくよ。あぁ、それと…」
キースに適当に事情を説明し、この世界の通貨の価値を教えてもらった。まず金貨、銀貨、銅貨、大鉄銭、鉄銭の5種類があり、金貨は一枚で日本円にして大体一万円、銀貨は千円、銅貨が百円、大鉄銭は十円、そして鉄銭が一円くらいの価値のようだ。キースから受け取った布袋の中には金貨二十五枚、銀貨五枚、銅貨三枚が入っていた。
「大して用心棒として役割を果たしていないのにこれは中々多いんじゃないか?」
「何言ってんだよ!モーリさんは用心棒の以前に命の恩人だぜ?一生かかっても返せないくらいの恩を感じてんだよ俺は」
「重いな…まぁいいか、それじゃあ」
彰はローブを羽織り布袋を携えて街に繰り出した。それとすれ違うように聖騎士団が王都へと帰還した。
「お前達は急ぎ王に報告!俺は奇妙な格好をした男を探す。行け!」
「「「はっ!!」」」




