12話東へ
「モーリさん、見えてきたぜ。イース帝国だ」
ウェスタリス四聖剣ガルド・ニクスタの手下が乗り捨てていった四輪魔導車を手に入れた彰とキース、セラの三人は東の大国イース帝国を目指して数週間が経っただろうか、途中野宿しながらようやく目の前にまるで要塞のような城壁が見えてきた。
「キース、おなかすいた」
後部座席からはセラが食べ物をねだってくる。この数週間共に旅をして少しずつ打ち解けてきてくれたようで何よりだ。ただ、彼女は見た目よりもよく食べるので、既に自分たちの食事用の食料は底を尽き、売り物の食料にまで手を出していた。
「あーもう、そこの干し肉でも食ってな。それで終わりだからな!ゆっくり食えよ。…はぁ、イースに着いたら食料を多めに買わないとな。最近は商いもまともに出来てないから金もないってのに…」
「それなら、少しだがこの前のブラック・ワイバーンの素材がある。高く売れるんだろう?」
「マジかモーリさん!あの間に集めといてくれたのか。抜け目ねぇなぁ。よし、イースに着いたら早速売って路銀に変えようぜ。っと、忘れるとこだった。セラ、これ着てな。フードをしっかり被って出来るだけ見つからないように隠れてな」
キースはセラにローブを手渡した。頭の角がバレないように用意したものだ。セラは奴隷商に捕まってウェスタリスで売られそうになっていた頃のトラウマがあるのか、大人しくフードをしっかり被った。
更に少し進むと、イース帝国の関所が見えてきた。
「どうもお世話になります。主に魔導具と衣料品の商いに来ました。キースです」
キースは慣れた様子で関所の番兵に通行手形を見せる。行商として各地を回っている彼はこの番兵とも顔馴染みのようだ。
「あぁ、お前か。いつの間に魔導四輪に乗り換えて、随分儲かっているようだな」
番兵は言いながらもう一人の仲間と目配せをすると仲間は詰所に消えて行った。
「そこの男は?」
「用心棒ですよ。ほら最近この辺でも魔物が多くて物騒でしょう?」
「…用心棒ねぇ」
「どうかしました?」
「動くな!お前達は既に包囲されている。抵抗は無駄だ!魔導車のハンドルから手を離して頭の後ろで組め!隣の奴もだ」
詰所から出てきたイース帝国軍の兵士が魔導銃を手にキース達の乗る魔導四輪を取り囲んだ。全員がこちらに銃口を向けている。
「な、何の真似ですこれは!?」
「今からこの車の積み荷を改めさせてもらう。ある男がウェスタリスより魔族の奴隷を連れ出しここイースに向かったとの報告があってな。あろうことかその男は自分はイースから来たと言ったらしい」
「それと俺達に何の関係が?」
「助手席の用心棒の男、どうにも怪しい。魔族を連れ出したという男と特徴が重なる部分が多いんだ。それにこの魔導車、一般の乗用車ではなく、我が軍の部隊で使っている軍用のモデルだよ。…俺だってこれまでの付き合いでキースの人と成りは知っているつもりだし、そんな件に関わってるなんて思いたくないさ。だからこそ抵抗せず、大人しく従ってくれ」
「さっさと車から降りろ!」
「…」
彰は車から降りながら目線だけ動かして後部座席でローブに包まって小さくなっているセラを見た。今回ばかりは厳しいかもしれない。ここに居る兵士全員消し飛ばすのはわけないが、それをしたところで解決にはならないだろう。だが、この状況を打開できる可能性はまだ残されている。
「モーリさん…」
「大丈夫だ、わたし達は普段通りにしていればいい。後は彼女に賭けよう」
彰とキースが小声でやりとりしている間にも兵士達は魔導車の荷台の積み荷を改め始めた。
「積み荷は主に魔導具と衣料品…。それに大量のマナストーンか…」
イース帝国軍の兵士がキースを見る。
「それは、仕事柄長い距離を移動するもんで、この魔導車の動力として必要なんですよ。俺は魔法も使えませんから」
「隊長!後部座席に何やら不審なものが」
荷台を調べていたのとは別の兵士が後部座席を覗いて声を上げた。後部座席のセラに気付いたらしい。
「ま、まずい…!」
「よし、確認しろ。ただしくれぐれも警戒は怠るな」
「了解!」
思わず声に出してしまったキースをチラリと見て隊長が指示を出す。兵士は魔導銃の銃口をローブに引っ掛けるようにしてゆっくりと捲っていく。
また「書けそう!」ってなった時に投稿します。