10話ならず者と魔物と殺人鬼
「お、終わった…!チクショー、俺が何したっていうんだよ!」
彰がウェスタリア王国四聖剣の一人ガルド・ニクスタを消し飛ばす少し前、キースはガルドの直属の部下達に取り囲まれていた。異能力『キラーズ』を持っている彰と違い、戦う術を持たないキースは武装した彼等を前に震える手足で地べたを這いずりながら後退り、距離を取ろうともがく事しか出来ない。それでも何もせずにはいられない。そうして後退っていると、手に何かが触れた感触があった。
「え…!?な、なんだよぉ!?」
手が触れた方を見ると、それは小さな人の手だった。その手の主を見ると、彰が連れてきた魔族の少女セラと目があった。彼女の目は恐怖に怯えていた。きっとキースも今は彼女と同じような目をしているのだろう。
(でも、俺にどうしろって言うんだよ!)
その間にもガルドの部下はニヤニヤ笑いを浮かべながらこちらへと迫って来る。
「ヒヒヒ…よし決めたぜ。行商の男は今すぐ殺す!そっちの魔族のガキは…ちょっとばかし楽しませてもらってから殺す。最近はろくに戦もねぇから俺達色々と溜まっててよぉ、ガルド様にもその辺は何にも言われてねぇし、構わねぇよなぁ!?」
ガルドの部下達がキースの命を刈り取ろうと得物を振り上げたその時、近くで何かが爆発したような音が響いた。
「な、何だ!?」
「お、おい、ガルド様がいねぇよ!エアリアルが転がってるだけで、どこにもいねぇ!」
部下達の内一人が騒ぎ始めると、その混乱は徐々に全体に広がっていく。
「ば、馬鹿な…!あのイースから来たとかいう男、たった一人でガルド様を倒したってのか!?ドラゴン種の魔物ですら一人で狩っちまうガルド様を!?」
爆発音がした場所、そのすぐ近くにその男は立っていた。そしてやはりガルドの姿はどこにも見当たらない。
「…倒した?少し違うよ。彼はわたしが始末したんだ。もうこの世には影も形も無い。文字通り消し飛ばした。そしてこれから君達のことも同じように消し飛ばす。わたしの平穏を乱す者には消えてもらう。君達が悪いのだ」
「ギャアアアス!!」
彰が『キラーズ』の戦闘機を出現させるのと同時、辺りに竜の咆哮が響き渡った。
「な、何だ…!?う、うわああ!!!」
突如現れたのはドラゴン種の魔物ブラック・ワイバーン。滑空しながらガルドの部下を一人その一本一本が剣のような鋭い牙が並んだ顎で咥えて丸呑みにし、地面に降り立った。突然のドラゴン種の出現にガルドの部下達は更に混乱し、やがて我先にと逃げ出す。ブラック・ワイバーンは次の獲物を彰に定め、彰の方に振り返る。
「…またこいつか。キース、セラ、死にたくなければできるだけ離れるんだ。『キラーズ』」
『キラーズ』の戦闘機はブラック・ワイバーンにミサイルを撃ち込み、一瞬にして肉塊に変えた。
「や!やった…!でもまずいぞモーリさん、俺達すっかりお尋ね者になっちまってるよ!」
「問題ない。『キラーズ』は一度標的にしたものはどこまででも追い続け必ず消し飛ばす。奴等が仲間のところへ行って何かを喋る前にね。それより、奴等が乗り捨てていった魔導車、だったかな?これを荷馬車の代わりに使えないか?二輪よりもたくさん荷物が乗りそうな四輪にしよう」
そう言うと彰は四輪魔導車に次々と荷物を積み込んでいく。
「お、おいモーリさん、…そうだな、お尋ね者になってしまったものはもうどうしようもないし、今は少しでも前向きに考えよう。セラをヤマトまで無事に連れて帰ることが出来れば、俺達も保護してもらえるかも知れないし」
ガルドの部下達は魔法が使えなかったようで、魔導車にはマナストーンがセットされていた。3人は乗り捨てられた魔導車からマナストーンを集め、魔導四輪に荷物を積み込んでキースの運転で再びヤマトを目指す。その道中、キースは後部座席に座るセラをちらっと見ながら小声で助手席に座る彰に話しかける。
「なぁ、モーリさん」
「ん?」
「あんた、魔族ってのがどういう種族なのか知ってて彼女を連れてきたのかい?」
「角が生えた人間だろ?その他に何があると言うんだ?」
「…やっぱり知らないか。まぁいいや、ちょうどいい機会だし、魔族ってのがどういう種族なのか教えとくよ。この話をするなら、三百年前の魔王との戦争から話さなくちゃならないんだが…」
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