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流石にそれは無理です!!

シエリアは鉄道に乗って、ピラミッドの更に南にあるパパタ海岸へやってきた。

海の家「なぎ」のオーナーが今回の依頼主だ。

彼の名はザザン。

祖父のボンモールとは知己ちきの仲で、シエリアとも顔なじみである。


「ザザンおじさん。お久しぶりです!!」


日に焼けた老人が振り向く。年齢の割には若く見える男性である。


「おう!! シエリアちゃん久しぶり。全然デカくなってねぇなぁ!!」


その感想に思わず少女はむくれた。


「おう! 今日は頼み通り、ウチの店員兼、キャンペーンガールをやってもらうぞ」


少女は疑問に思っていた事を聞いた。


「で、でもこういうのってもっとスタイルの良い人がやるもんなんじゃないですかね……」


シエリアが弱音を吐くと、オーナーは水着を取り出してきた。

かなりエグい真っ赤なビキニだ。

思わず少女は後ずさった。


「あの……さすがにそれは職権濫用しょっけんらんようでは……」


老人はそれを聞いて豪快に笑った。


「はっは!! ジョークに決まってるでしょ。こんなもん着せたらボンモールに呪い殺されちまうよ!! 嬢ちゃんに似合うのを用意しといたからそっちを着てくれい!」


用意されたのは淡いピンクのフレアビキニだった。

ただ、自分の持っているものより倍近くフリルが多い。

上下ともにひらひらである。

いくらセクシー水着を着る勇気が無いからと言って、これはあまりにも子ども過ぎだ。


幼児体型である事を密かに気にしていた彼女はガックリした。

注目をあびるのも苦手だが、海の家でそんな甘ったれた事は言っていられない。

接客業を生業にしているというプロ根性もある。


すぐに気持ちを切り替えて、彼女はウェーブがかったミドルヘアをポニーテールに結った。

日焼け止めを塗り、透き通るような白い肌を強い日光にさらした。

するといつものシエリアより活発な印象となった。


「いらっしゃいませ〜!! お客様、何名様ですか〜?」


なぎらーめん2つに、ひんやりティー2つ〜〜!!」


「は〜い。お会計が1580シエールになりま〜す!!」


サザンは満足げにあごをさすった。


「う〜ん。見込んだとおりだ。キュートなルックスに屈託のない笑顔!! そして磨かれたプロ意識‼ 男女問わずお客さんの目を惹きつけている‼」


シエリアは休憩に入った。


(はぁ〜疲れた。でもなんかいいな。こういうの。すごく充実感あるなぁ〜)


そんな彼女にオーナーは声をかけた。


「いや〜。シエリアちゃん。ご苦労さま。追加で頼みなんだけど。水着フェスに参加してウチをアピールしてほしいんだ」


彼女はしばらく黙り込んでいたが、すぐに騒ぎ出した。


「うわ〜無理ですぅ!!わたしこんなちんちくりんですし!! セクシーなお姉さんに敵うはずないです!! あんな水着、死ぬほど恥ずかしいですよぉ!! あわわ……」


ザザンはきょとんとしていた。


「あ、まだそれやってんだ……」


すぐに老人は誤解を解いた。


「誰もあんな際どい水着、着ろなんて一言も言ってないって。そのままの水着でいいよ」


とはいえ、フェスなどに出たら余計に目立つ。

シエリアがおどおどしているとザザンはアイスのカップを取り出した。


「じゃーん!! とっておき。エリキシーゼのほろ酔いフレーバーだよ!!」


強めなチューハイくらいの度数がある、レアなフレーバーである。

この国は17歳から飲酒可能なので、シエリアが食べても問題ない。

一度は食べてみたいと思っていたが、思わぬところで出くわした。


「お給料マシマシでレアもん食べられて程々に出来上がってエンジョイする。悪い話じゃないと無うんだがね」


良いように丸め込まれて居るような気もするが、悪くはない提案だ。

フェスに関しては旅の恥は掻き捨てと割り切る事も出来るわけだし。

なにしろここで降りるのは流儀に反する。

体当たりの依頼だが、本人がやる気なうちはセーフである。


「やります!! 私、キャンギャルやります!!」


それを聞いたオーナーは声を上げて笑った。


「はっはッ!! 上出来だ!! その目、ボンモールを思い出すぜ!!」


さっそくシエリアは氷菓ひょうかを食べ始めた。


(グレープフルーツの柑橘系かんきつけいに、ほろ苦いお酒の風味が鼻に抜ける!!上手くお酒をアイスに落とし込んでる!!)


夢中でアイスを食べ終わると少女はいい感じに出来上がってきた。

水着フェスの舞台は空いていて、すぐにエントリーできた。

おびただしい数のオーディエンスが集まっている。


キャンギャルは心臓が爆発しそうになったが、すぐに立て直した。


「は〜い!! "海の家、なぎ"のシエリアで〜す!! み〜んなヨロシクね〜!!」


可愛らしいエントリーに会場は沸いた。

少女は目立つところが苦手な割に、大人数の場には妙に強かった。

すぐに司会がやってきた。


「ではインタビューしてみましょう。好きなものはなんですか?」


「ざっか(やの)……」


うっかり雑貨屋の仕事とでも名乗ろうものなら面倒くさいことになる。

出かかった言葉を飲み込んでから慌てて答えなおした。


「えと、えと…ざっ、ざ、ザリガニがすきです!!」


少女とのあまりのギャップに会場は失笑した。

受け答えがやや怪しい。


「へぇ〜。じゃあ苦手なものは?」


シエリアはヘビを思い浮かべたが、それだけで気絶しそうだった。

そのため、すぐに別の物に気をそらした。そらした先でまた気持ち悪くなる。


「え、えと、ウナ…ギ…ウッぷ‼ う、ウナジューです!!」


珍妙な回答に会場は更に沸いた。酔っているとはバレていないらしい。


「ハイ!! ありがとうございました〜!! 最後に一声!!」


シエリアは手をひらひら振ってアピールした。


「海の家、なぎでお待ちしてまぁす!!」


アピールは大成功で店には客が押し寄せた。

"天然で可愛い娘がいる"

シエリアはその期待に答えて愛嬌あいきょうを振りまいた。

帰り際、ザザンは満足そうに少女をねぎらった。


「よくやってくれた。おかげさまで大繁盛だよ。シエリアちゃんに頼んでホントによかった。来年もまた来てくれよな!!」


そしてオーナーは給料と袋入りのお土産をくれた。

自宅に帰るとシエリアはさっそくお土産を開け始めた。


「わぁ!!黒かにみそケーキに、巨人ホタテの蒸しパン、イカリングドーナツも!!」


ザザンの気を利かせたスイーツ詰め合わせに、少女はニッコリした。

まだ袋の底に箱が残っている。

フタを開けてみると、そこにはエグい真っ赤なビキニが入っていた。


「えぇ……」


シエリアは唖然あぜんとするしかなかった。

こうしてすごく際どい水着はタンスの奥に封印されたのだった。


……キャンギャルはすごく勇気が要りましたが、やり甲斐があって良かったと思います。

酔った勢いじゃないと、とても出来ない気はしますが。

せ、せっかく水着を頂いたので人前じゃなければちょっとくらいは……。


や、やっぱりこんなギリギリビキニ着れないよ!!……というお話でした。


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