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ツイン・ブレイカーズ

暮(く)れる夕日(ゆうひ)が真(ま)っ赤(か)な血(ち)のようになったある日のこと。


カツカツと皮靴(かわぐつ)の音を立てて、ある女性が店先(みせさき)にやってきた。


「よぉ。シエリアの旦那(だんな)。今年も来たぜ」


彼女は女性にしてはかなり背が高く、他には肩(かた)まで伸(の)びる真紅(しんく)のストレートヘアが特徴的(とくちょうてき)だ。


それに反して目立たないダークグレーのマントを身にまとっていた。


髪(かみ)はともかくとして、他は闇(やみ)に溶(と)けている。


「んも〜、ニャンニャンさん、旦那(だんな)はやめてくださいよ。女性ですよ。私」


ニャンニャンと呼ばれた女性は豪快(ごうかい)に笑った。


「そりゃお互い様だ。ニャンニャンは恥ずかしいからコードネームのヴァンと呼べとあれほどなぁ」


他愛(たあい)ない話をしばらくすると、2人ともなにやら準備を始めた。


夕日は沈(しず)み、夜(よる)の帳(とばり)が下りた。


2人が向かったのはセポール市の郊外(こうがい)の霊園(れいえん)だ。


ここはかなり広く、市内の人々だけでなく近隣(きんりん)の市町村の人々の墓も多くある。


とにかくおびただしいほどの西洋風の墓石が建っているのだ。


シエリアとニャンニャン以外の人影(ひとかげ)はない。


血(ち)のように赤い夕日の日は霊園(れいえん)に近づいてはいけない。


セポールに伝わる民間伝承(みんかんでんしょう)だが、それには理由があるのだ。


「生ける屍(しかばね)に食べられてしまうから。こんな日は外に出ず、家族で食卓(しょくたく)を囲(かこ)もう」


高身長(こうしんちょう)の女性はマントをバサリと脱いだ。


その下からリボルバーの二丁拳銃(にちょうけんじゅう)が現れた。


肩と腰にはベルトが巻かれており、弾がセットされていた。


ガンベルトというやつである。


「オートマチックは趣(おもむき)がないからねェ……」


彼女は器用(きよう)にトリガーに指をかけた。


そして両手の銃(じゅう)を縦、横とクルクルと回し、回転させたまま2丁(ちょう)投げるとそれをキャッチした。


お得意(とくい)のガンアクションだ。


まるでリボルバーが手の一部のように馴染(なじ)んでいるのがわかる。


一方のシエリアは大きなリュックを背負(せおい)い直(なお)した。


「相変(あいかわ)わらず華麗(かれい)な銃(じゅう)さばきだなぁ。憧(あこが)れちゃうよ」


小柄(こがら)な雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)をニャンニャンは肘(ひじ)でつっついた。


「何言ってんだよ。頼(たよ)りにしてるぜ旦那(ダンナ)!!」


一年に一度、セポール霊園(れいえん)にはゾンビが現れる。


皮肉(ひにく)にも食卓(しょくたく)を囲(かこう)人々を羨(うらや)んで姿を表すという。


人々はそれを「リビングデッド・ヘイヴン」と呼ぶ。


皆(みな)が知っていることだが、皆(みな)が知らないふりをする。


禁忌(タブー)にはうかつに触れることなかれというわけだ。


ゾンビたちは″生(せい)″を求めて一斉(いっせい)に街へめがけて歩き出す。


しらばっくれていれば街(まち)は生ける屍(しかばね)だらけになってしまうが、それを片付ける専門家(せんもんか)がいる。


アンデッド・ブレイカーであるニャンニャンと、トラブル・ブレイカーであるシエリアの2人組である。


ニャンニャンは教会の隠密部隊(おんみつぶたい)に所属し、こういった不穏(ふおん)なケースに対処する。


シエリアは彼女のサポートに回る。戦闘能力のない彼女にとってニャンニャンは生命線(せいめいせん)だ。


逆もまた然(しか)りで、シエリアの援護(えんご)なくしては多数のゾンビをさばけない。


そう。彼女らは年に一回、ゾンビを浄化する依頼をこなしている。


2人のブレイカー……ツイン・ブレイカーズが結成される珍(めずら)しい日でもある。


彼女らが墓場(ぼち)に入ると早速、ゾンビが湧(わ)き始めた。


50体は軽く超(こ)えるだろう。


ここのゾンビは腐(くさった)った死体というよりは霊的(れいてき)なものに近い。


そのため、墓場(はかば)を荒らしたりはしないのだがそれでも見た目は醜悪(しゅうあく)であるし、臭(にお)いも酷(ひど)い。


肌は青や紫(むらさき)、頭はハゲ散(ち)らかしていて、目玉が飛び出たり、歯茎(はぐき)が露出していたりする。


服装はひどくボロボロ。ボロ布(ぬの)の隙間(すきま)からは″″中身″が見える。


動きは遅(おそ)く、緩慢(かんまん)な動きで足を引きずりながらやってくる。


ただ、非常に打たれ弱く、弾丸(だんがん)がヒットするとゾンビはかき消えていく。


シエリアはカバンから前に買いすぎた塩(しお)をばら撒(ま)いた。


わずかにだが、これがリビングデッドの進行を鈍(にぶ)らせた。


続けて雑貨屋少女は地面にチョークで紋様(もんよう)を描(か)き始めた。


するとニャンニャンのリボルバーが光りだした。


対アンデッド用の祝福である。


アンデッド・ブレイカーが連射できるのは12発。


百発百中なので瞬時(しゅんじ)に12体を倒せるのだが、リロードを上回るペースでゾンビが現れる。


「う〜、うあ〜〜」


「お〜お〜」


「げぼげぼ〜〜」


そのたびにトラブル・ブレイカーは閃光弾を打ち上げて、ゾンビの動きを鈍(にぶ)くするのだ。


1匹でも霊園(れいえん)から逃がすとアウト、1匹でもこちらに触(ふ)られるとアウト。


殲滅速度(せんめつそくど)も早いのだが、数が数だけにかなりシビアな戦いとなる。


「ほら行ったぞ!!」


ゾンビ数体がふらふらと霊園(れいえん)の門をくぐろうとした。


シエリアは素早(すばや)くダークブルーの瓶(びん)をうちまけた。


それはねっとりと地面に散らばり、激しい悪臭(あくしゅう)を放った。


「ゾンビ蜜(みつ)!! 塩の効果は切れちゃうけど、これで引きつけるよ!! ラストスパート!!」


それを聞いたアンデッド・ブレイカーは鮮(あざ)やかに弾(とま)をリロードした。


「おう!! 了解だ旦那(ダンナ)!!」


ゾンビたちは2人めがけてじわじわとにじりよってくる。


その数、未だ50体はいるだろう。


シエリアは群(むら)がるゾンビめがけて網(あみ)を投げた。


腐(くさ)り投網(とあみ)である。


広範囲(こうはんい)のアンデッドを捕(と)らえて一網打尽(いちもうだじん)にするアイテムだ。


ただし、至近距離(しきんきょり)にしか届(とど)かないので、扱(あつか)いが極(きわ)めて難(むずか)しい。


そのため、ここぞというときにしか使えない。


網(あみ)で身体(からだ)を分断(ぶんだん)されたゾンビは土に還(かえ)っていった。


「いいぞ!! あと2ウェーブ!!」


トラブル・ブレイカーは再度、塩を撒(ま)いてニャンニャンを守った。


そして、リボルバーから最後の一発が放たれた。


それはゾンビの額(ひたい)に直撃し、墓荒(はかあ)らし達(たち)は全滅(ぜんめつ)した。


こうして、今年の″リビングデッド・ヘイヴン″も無事に終わった。


彼女らは毎年、こんなことをやっているのである。


ニャンニャンは荒(あら)っぽく髪(かみ)をかきあげた。


「ま、今回もラクショーってとこだな。ちょっと手間取(てまど)ったとこもあるが、結果オーライだろ」


シエリアはドロドロになったローブを拭(ぬぐ)った。


「ふぅ。まぁね。でも、やっぱりニャンニャンのおかけだよ」


赤髪(あかがみ)の女性は桜色(さくらいろ)の髪(かみ)の少女を肘(ひじ)でつついた。


「なぁに言ってんだよダ・ン・ナ。あたしら2人1組でのツイン・ブレイカーズだろ? 頼むぜ。相棒!!」


それにしても激しい戦いで体中ドロドロだ。


酷(ひど)い悪臭(あくしゅう)もこびりついてしまっている。


「なぁ、風呂、貸(か)してくんねーか?」


「うん。いいよ」


こうして2人は雑貨屋に帰った。


そして、それぞれ体を清(きよ)めた後、朝まで打ち上げをして盛り上がった。


近況報告、仕事、愚痴(ぐち)、恋愛……。


そして翌朝(よくあさ)にシエリアはニャンニャンを送り出した。


この2人のブレイカーが揃(そろ)うのは年に一度のみ。


正反対(せいはんたい)な2人だが、不思議(ふしぎ)とウマが合う。


だからたとえ会うのが一日であっても彼女らは親友(しんゆう)である。


時に寂(さび)しいこともあるが、必ずしも近くにいることが相棒の条件ではないのだ。


それをこの2人は証明(しょうめい)していた。


「ニャンニャンちゃ〜〜ん!! また、来年も会えるよね〜〜?」


「あたぼうよ!! あとその呼び名はやめろって。コードネームのヴァンっつってるだろ? 元気でやってろよ旦那(ダンナ)!!」


こうしてシエリアはニャンニャンが姿を消すまで手を大きく振り続けたのだった。



今年も無事にリビングデッド・ヘイヴンが終わってよかったです。


ニャンニャンちゃんも元気そうだったし。


さて、お風呂(ふろ)の片付(かたづ)けをしますかね……。


「うわッ!? 汚(きたな)ッ!! 排水口(はいすいこう)が腐(くさ)った汁(しる)で詰(つま)まっちゃってるよ〜〜。ゾンビ臭(くさ)〜〜。おえ〜〜。最悪だぁ……」


こうしてシエリアはバスルームをまるまる交換(こうかん)せざるを得(え)なくなってしまったのだった。


今回の件は教会から報酬金がでるが、そこまで多額が支給されるわけではない。


風呂場(ふろば)なんて交換(こうかん)したら大赤字に決まっている。


「バスルームの交換っていくらくらいかかるんですかね……。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃ……。ごぼぼ……」


トラブル・ブレイカーは皮肉にも自分のトラブルにやられ、泡を吹いて倒れてしまったのだった。


……というお話でした。

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