↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/75

E・ショック

シエリアはクランドール王国(おうこく)の首都(しゅと)、クランドールに居(い)た。


セポールから汽車(きしゃ)で北上してきたのである。


雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)は完全(かんぜん)にアウェーで120%おのぼりさんなのだった。


彼女がクランドールに来た目的(もくてき)、それは″エリキシーゼ″の社交界(しゃこうかい)である″サバト″に参加するためである。


エリキシーゼとはクランドール産の高級(こうきゃう)アイスクリー厶の名前だ。


いろんなタイプがあるが、一番(いちばん)メジャーなのは小さめのカップごとに様々なフレーバーが入っているものだ。


その評価(ひょうか)は極(きわ)めて高く、様々(さまざま)なフレーバーのおかけで、万人(ばんにん)にウケている。


アイスなので溶(と)けてしまうのと、かなりお高(たか)いのがネックだが。


サバトの招待状(しょうたいじょう)はアイスの裏(うら)ブタについているポイントをハガキで送ることによって受け取ることが出来(でき)る。


かなり高額(こうがく)を注ぎ込(こ)まないと参加資格(さんかしかく)は得(え)られないが。


シエリアは特別(とくべつ)リッチなわけではない。


ただ、エリキシーゼにかけてはカネに糸目(いとめ)をつけなかったので招待状(しょうたいじょう)をゲットできたというわけだ。


この社交界(しゃこうかい)にはドレスコードがあり、ラフな服装(ふくそう)では入れない。


シエリアは着ていく服に悩(なや)んだが、馴染(なじ)みの服屋で仕立(した)ててもらった。


その結果、グレーのワンピースに白のフリルスカート、赤いリボンタイという出(い)で立(た)ちになった。


これではまるでデパートのレストランに行くお子様(こさま)のようなものである。


一応(いちおう)、化粧(けしょう)もしたがナチュラルメイクだったので誰(だれ)にも気づかれない。


ホールの入口にはジェントルメンが数人(すうにん)たむろしていた。


少女がその脇(わき)を通ってホールに入ろうとすると紳士(しんし)に呼(よ)び止められた。


「嬢(じょう)ちゃ……ああ、いや、レディ。サバトに参加するのはお勧(すすめ)めしないよ。ダァニエルって御曹司(おんぞうし)が会(かい)を牛耳(ぎゅうじ)ってんだよ。誰かヤツの鼻(はな)をへし折(お)ってくんないかな。″依頼(いらい)″したいくらいだよ」


シエリアはピクピクっと耳を動かした。


「ご忠告(ちゅうこく)、ありがとうございます。お言葉ですが、私、サバトを楽しみに来ていますので。失礼しますわ」


少女はペコリとお辞儀(じぎ)をするとホールに入った。


内部はあちこちにアイスを出すマシンが置いてあり、豊富(ほうふ)なフレーバーの中から自由に食べられるようになっていた。


ラグジュアリー極(きわ)まる空間(くうかん)である。


そうこうしているとリッチそうなマダムが声をかけてきた。


「レディ。最近、復刻(ふっこく)したパンプキンのフレーバー、いかがでしたかしら?」


普段(ふだん)、エリキシーゼ談義(だんぎ)が出来る人は殆(ほとんど)どいなかったので、シエリアは目を輝(かがや)かせた。


「はあぁぁ………!! ええ!! とってもおいしかったです!! カボチャをくり抜(ぬ)いた形の容器(ようき)が可愛(かわい)くって!!」


更に、少女を可愛(かわい)がるように周りに多くのアイスフリークが集まった。


「ミセス。知ってるかい? 新発売(しんはつばい)のコーラミント、お肉を浸(ひた)すと風味良(ふうみよ)く、柔(やわ)らかくなるんだ」


「まぁ!! 私より年下なのに博識(はくしき)なのね。いえ、それも数々(あまた)の味見(あじみ)に裏打(うらう)ちされたもの。素晴らしい……」


小(こ)っ恥(ぱず)ずかしくなってシエリアが頭を掻(か)いていると人並(ひとな)みをかきわけて背の高く、アゴの割(わ)れた男がやってきた。


同時に周囲(しゅうい)の人がはけていく。


一目(ひとめ)で彼が例の御曹司(おんぞうし)とわかった。


おそらく新人や気に食わない会員潰(かいいんつぶ)しをしているのだろう。


「ルルェディ、お近づきの印(しるし)にE(エリキシーゼ)・ショック、やりませんか?」


E(エリキシーゼ)・ショックとはエリキシーゼ愛好家(あいこうか)の間で行われる″決闘(けっとう)″である。


いきなりふっかけてきた。潰(つぶ)す気マンマンである。


通常(つうじょう)、このアイスは早食(はやぐ)いしようとするとキーンという激しい頭痛(ずつう)に襲(おそ)われる。


ただ、実のところ遊び心が仕込(しこ)んである。。


このアイスのフレーバーにはナンバーが振(ふ)ってあるのだ。


これを偶数(ぐうすう)、奇数(きすう)、偶数(ぐうすう)……の順で食べていくと頭痛(ずつう)を回避して連続(れんぞく)で食べられるというものだ。


言わずもがな、フレーバーに対しての高度な知識(ちしき)が必要になる。


シエリアが前に出ようとした時、大人(おとな)たちは彼女を止めた。


「お嬢(じょう)さん、いいんだ、私たちが我慢(がまん)すれば!!」


「貴女(あなた)が傷つくことはないのよ」


「ああ、ダァニエルを打ち破(やぶ)ってくれる人がいれば″頼(たの)みたい″のに」


入口の紳士(しんし)と先程(さきほど)の一言でシエリアの中でゴーサインが出た。


「ええ、やりましょう」


会場は驚(おどろ)きと悲鳴(ひめい)じみた歓声(かんせい)に包まれた。


ダァニエルはニタリと笑いながら言った。


「ルールは単純(たんじゅん)。先にE(エリキシーゼ)・ショックを起こしたほうが負けでぇす。フレーバー名を宣言(せんげん)するとマシンからアイスが出まぁす。それを食べきったら次を宣言(せんげん)してくださぁい。同時に被(かぶ)ったばぁいは引き分けでぇす!!」


ダァニエルはしきりに腕時計(うでどけい)をいじっている。


周囲(しゅうい)のオーディエンスの反応(はんのう)からして、十中八九(じゅっちゅうはっく)、相手(あいて)はズルをしてきそうだった。


雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)は目を瞑(つむ)り、精神統一(せいしんとういつ)した。


会場の雑音(ざつおん)は消え、時間がゆっくり流れるように感じる。


彼女はエリキシーゼの″ゾーン″に入ったのである。


「カン、カン」


開始の鐘(かね)がなった。


「No102……カエルの太もものカレー味」


ダァニエルはちらりと時計を見るとオーダーをかけた。


番号はコールしない。自分で覚えていない証拠(しょうこ)だ。


「鯖(サバ)レモン味!!」


「No43……墓石(はかいし)のコケ味!!」


「足軽(あしがる)ソードの鉄分味(てつぶんあじ)!!」


「No76……渚(なぎさ)の甘(あま)メロディー味!!」


「火山爆発(かざんばくはつ)マグマ温玉(おんたま)!!」


あまりのハイレベルな応酬(おうしゅう)に観客は黙(だま)り込んでしまった。


相変(あいかわ)わらず御曹司(おんぞうし)はチラチラ時計を見ている。


その時だった。あまりの展開(てんかい)の速(はや)さについていけなくなった腕時計(うでどけい)から煙(けむり)が上がりはじめたのだ。


「う、うわあああ!!」


ダァニエルは混乱(こんらん)しだした。


おおかた、あれでカンペしていたのだろう。


卑怯(ひきょう)なやつであるが、シエリアにはもはやどうでも良かった。


「No344……ほうれん草のあんこ煮味(にあじ)」


「うわあああ!! ぽたぽた赤汁味(あかじるあじ)!!」


「No43……ジュラ紀風(きふう)フレーバー」


「うっ、うっうっ……うぐっ!! うわああああ!!」


E(エリキシーゼ)・ショックをモロに受けたダァニエルは頭を抱(かか)えてしゃがみこんだ。


そして、負けゼリフを吐(は)いて逃げていった。


「マッザに言いつけてやるからなぁ!!」


止まった時間が動き出すように歓声(かんせい)と拍手(はくしゅ)が会場を包(つつ)んだ。


シエリアはリボンタイを荒(あら)っぽく緩(ゆる)めると腕(うで)を突(つ)き上げた。


そして、何を言うでもなく足早(あしばや)にサバトを後にした。


仕事の都合上(つごうじょう)、不用意(ふようい)に目立(めだ)つわけには行かない。


とはいえ、楽しく談義(だんぎ)が出来る貴重(きちょう)な機会(きかい)を失(うしな)ってしまった。


しょんぼりしながら帰り道を歩いていると目に入った物があった。


「あっ!! 復刻版(ふっこくばん)、No-57の″どすこい黒潮(くろしお)の味″だ!!」


シエリアは店先で買い食いして、ニコニコしながらそのフレーバーを口に頬張(ほおば)った。


(キイイイィィィィーーーン!!)


次の瞬間(しゅんかん)、彼女に激しい頭痛(ずつう)が走った。


「し、しまった。サバトで最後に食べたのはNo-113、怒りのプリン・プリンだったよ!! ふ、不覚(ふかく)……」


シエリアは数分間、店先で頭を抱えて立ち尽(つ)くしたのだった。



今回は半分は依頼でしたが、半分は個人的(こじんてき)な決闘(けっとう)でした。


エリキシーゼに水を差(さ)す無粋(ぶすい)な行為(こうい)は絶対に許(ゆる)せなかったので。


え? フレーバーがゲテモノやキワモノばかり?


それがいいんじゃないですか!! 私は特に青(ブルー)クジラの目玉入(めだまい)りが好きでして!!


あ、いや、普通(ふつう)のもありますよ!? 信じてくださいよぉ!!


……というお話でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。