↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/75

アブラカタブラアブラブーケトス

大抵(たいてい)の乙女(おとめ)にとって、ウェディングドレスとは憧(あこが)れの存在である……あくまでここではそういうことにする。


シエリアも例外(れいがい)ではなく、しばしばドレスのカタログを見てボーッとしていたりもする。


そんな時、血気迫(ききせま)った女性と引(ひ)っ張(ぱ)られるようにして男性がやってきた。


すると突然、女性のほうが頼(たの)み込(こ)んできた。


「ウェディングドレスください!!」


いきなりの注文にシエリアはたじろいだ。


話によると花嫁候補(はなよめこうほ)のリーリスは直前になって衣裳屋(いしょうや)に夜逃(よに)げされてしまったらしい。


当然、そこに依頼(いらい)してあったドレスの予約(よわく)もポシャってしまったという。


他の店でレンタルすればいいのではという話だが、先の衣裳店(いしょうてん)の混乱(こんらん)のせいでどこにも借(か)りられる服がないとのことだった。


こればっかりは厳(きび)しい椅子取(いすと)りゲームだったので、誰(だれ)を責(せ)められるでもなかった。


その結果、なんとかドレスが手に入らないかとシエリアの店にやってきたのだ。


だが、オーダーメイドが基本のウェディングドレスを即日入荷(そくしつにゅうか)するのは無理だ。


どう頑張(がんば)っても3日はかかる。


パラパラとカタログをめくっているとシエリアはあることに気づいた。


ドレスの素材(そざい)は一通(ひととお)り揃(そろ)っている。


つまり、その気になれば1から作ることも不可能(ふかのう)ではないというわけだ。


「結婚式(けっこんしき)はいつですか!?」


「明日(あした)!! お昼までに用意(ようい)できれば!!」


「その依頼(いらい)、お受けします!!」


トントン拍子(びょうし)に話は進み、早速(さっそく)、シエリアはウェディングドレス作(づく)りに取(と)り掛(か)かった。


雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)はなんでもそつなくこなす感はあるが、なんでも出来るかといえばそんなこともない。


ナンデモ出来(でき)る屋(や)では無く、ナンデモ受(う)ける屋(や)なのである。


そこが独(ひと)り歩きしているフシがあるが、ほとんど依頼(いらい)を失敗しないので、傍(はた)から見れば大差(たいさ)はない。


しかし厄介(やっかい)な依頼(いらい)を受けてしまった。


赤鷲(あかわし)の羽(はね)を用意(ようい)してみたが、繋(つな)ぎ目が複雑(ふくざつ)すぎてとてもドレスにならない。


巨人(ジャイアント)ヤギの毛玉(けだま)はモコモコしすぎていて、優雅(ゆうが)さとは程遠(ほどとお)い。


鱗(うろこ)マグロのウロコも試してみたが、これでは服ではないスケイル・メイルである。


ペトペトカエルの皮は上手くいったが、こんなものヌルヌルしたものを晴(は)れ着(ぎ)にしたい者(もの)はいない。


「うわああああ!!!! どおしよ!? ウェディングドレスなんて高度(こうど)なもの、作れるわけないじゃあああん!!!! もう時間が!! 時間が!!」


無意識(むいしき)に彼女は高級氷菓(こうきゅうひょうか)のエリキシーゼを手に取(と)った。


スプーンですくってパクリと食べる。


キーンと心地(ここち)いい頭痛(ずつう)が脳(のう)をリフレッシュさせ、クールダウンさせた。


「う〜ん、これはシンプルなオレンジ・ソルベのフレーバー!!」


この味を食べると決まって今は亡(な)き祖父(そふ)の想(おも)い出(で)が蘇(よみがえ)ってくる。


祖父(そふ)は名をボンモールと言って、雑貨店(ざっかや)の店主(てんしゅ)をやっていた。


シエリアが幼(おさな)い頃から面倒(めんどう)を見てくれてきた恩人(おんじん)である。


また、憧(あこが)れであり、尊敬(そんけい)する人物(じんぶつ)でもある。


若くして亡(な)くなってしまったときは嘆(なげ)くことしかできなかった。


そんな時、跡継(あとつ)ぎ不在(ふざい)で店は閉店(へいてん)することになった。


そこでシエリアは強く思った。


「おじいちゃんに恩返(おんがえ)しするには雑貨店(ざっかてん)を受け継(つ)ぐしか無い」……と。


こうしてボンモール雑貨店(ざっかてん)はシエリアの店と呼(よ)び名(な)を変え、存続(そんぞく)しているのだ。


こういった問題をぶっとばすのはボンモール譲(ゆず)りである。


シエリアはパクリパクリとエリキシーゼを食べながら頭を捻(ひね)った。


すると、ボンモールが口(くち)を酸(す)っぱくして伝(つた)えてきた言葉が浮(う)き上がってきた。


「いいか、ここぞというときはな、自分の得意(とくい)な事を活(い)かせばいいんだ。無理に慣(な)れないことをするもんじゃない。自分にできることをやれ。そうすれば結果はついてくる」


やや説教臭(せっきょうくさ)いところはあったが、祖父(そふ)は多くの教訓(きょうくん)を残してくれた。


「おじいちゃん……。あッ!!」


その時、シエリアに電撃(でんげき)が走った。


ボンモールは時計細工(とけいざいく)が特に得意(とくい)だった。


雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)もそれを受け継(つ)いで、機械(きかい)づくりの工作(こうさく)を長所(ちょうしょ)とする。


「そうだよ、純白(じゅんぱく)でふわふわの、ウェディングドレスの常識(じょうしき)に囚(とら)われることはないんだ!! ゴツいけど、キラキラして華(はな)やかで、思わず着(き)たくなるドレス!! 誰(だれ)もが着たいと思うドレスを!!」


方向性(ほうこうせい)が固(かた)まるとシエリアは店のあちこちから機械(きかい)のパーツを取り出してきた。


ネジをしめたり、歯車(ギア)を噛(か)み合わせたりしてどんどん機械(きかい)づくりの花嫁衣装(はなよめいしょう)を組(く)み上げていく。


得意分野(とくいぶんや)を活(い)かしたシエリアは短時間で神(かみ)がかった仕事(しごと)をやってのけた。


ショルダーオフでロングスカートのメカニカルドレスが出来上がったのだ。


機能性(きのうせい)も高く、可動域(かどういき)も広く、かつ軽量(けいりょう)。


機械油(きかいあぶら)を差(さ)さねばならないのは欠点(けってん)だが、一度差(いちどさ)せばおそらく式(しき)の終了(しゅうりょう)までは持(も)つ。


仕上(しあ)がりは上々(じょうじょう)で金属(きんぞく)の輝(かがや)きが全身(ぜんしん)を覆(おお)っていた。


好(この)みの問題はあるかもしれないが、全力(ぜんりょく)は尽(つ)くした。


翌日(よくじつ)の朝、花嫁候補(はなよめこうほ)と花婿候補(はなむここうほ)がやってきた。


「なにこれ……素敵(すてき)!! こんなキラキラなドレス、見たこと無いわ!!」


どうやら気に入ってもらったようで、シエリアはホッとした。


これが縁(えん)となって、雑貨屋少女(ざっかやしょうじょ)も結婚式(けっこんしき)に招待(しょうたい)してもらえることになった。


シエリアはあまり着飾(きかざ)ることがないのでドレスはほとんど持っていなかったが、できる限(かぎ)りのおしゃれをして出かけた。


機械(きかい)づくりのウェディングドレスはとても好評(こうひょう)で、多くの参加者(さんかしゃ)が見とれた。


見(み)てくれからするとドレスに問題はないようで、苦労(くろう)して作った甲斐(かい)があったというものだ。


結婚式(けっこんしき)は終始(しゅうし)ハッピーな感じで進行(しんこう)した。


参加していた女性たちは揃(そろ)って涙(なみだ)を流した。


きっと自分がウェディングドレスを着て、同じように理想(りそう)の結婚式(けっこんしき)を迎(むか)えることをイメージしているのだろう。


シエリアはやや幼(おさな)いところがあるので、そういった具体的(ぐたいてき)なビジョンは無かった。


そのため感動はしたが、涙(なみだ)があふれるほどではなかった。


こうして無事に式(しき)は終わった。


ドレスに不具合(ふぐあい)が起こらないかとシエリアはハラハラしていたが、問題なかったようである。


新婚夫妻(しんこんふさい)はチャペルの階段を下(お)り始めた。


鮮(あざ)やかなライスシャワーが2人を祝福(しゅくふく)した。


最後に、お待ちかねのブーケトスが行われることになった。


周(まわ)りの女性の必死(ひっし)さに対(たい)し、シエリアはヌルい態度(たいど)で挑(いど)んでいた。


結婚するには早すぎるし、特に予定もないが結婚の御縁(ごえん)があるならば無いよりは良い。


本気でブーケを欲しがる女性にそんなことを漏(も)らそうものなら袋叩(ふくろだた)きにされるのは想像(そうぞう)に難(かた)くなかった。


その時、リーリスはシエリアに向けてウインクしてきた。


こっちに投げてくれるのだろうか。


だが、様子がおかしい。手元(てもと)の花束(はなたば)がギトギトしていたのである。


そう、機械油(きかいあぶら)だ。式が終わるまで持つはずだったのだが、思ったより染(し)み出すのが早かった。


判断(はんだん)が遅れたシエリアは油(あぶら)の滴(したた)るブーケを回避(かいひ)できなかった。


「べちゃあ……」


油(あぶら)でべっとりした花束(はなたば)はシエリアの顔面(がんめん)に直撃(ちょくげき)してしまったのだった。



我(われ)ながらメカニカル・ウェディングドレスは上手(うま)くいったなと思います。


これもおじいちゃんのおかげだと思います。オレンジソルベ南無南無(なむなむ)


……これ以来、″アブラカタブラアブラブーケトス″を受け取ると一生、結婚できなくなってしまうという都市伝説(としでんせつ)が定着(ていちゃく)してしまいまいました。


あのドレスは一品物なので、流石にそれはないと思います。


でも、油まみれの顔だと無理かもしれないですね。


それはそうと、顔の油が落ちないんですよ。


……というお話でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。