ex ありがとうシュウマイ
今日もシエリアは真面目に依頼を解決しようとしていた。
ライターを着けて、真っ白な紙を炙る。
すると文字が浮かび上がってきた。
「う〜ん、あぶりだしの暗号かぁ。すごく初歩的だなぁ」
依頼を完了すると同時に誰かが声をかけてきた。
「おおい。シエリアちゃん」
突然の声かけにびっくりして少女は飛び上がった。
そこにはバリーと言う名のおじいさんがいた。
いつも彼はキューという名の犬を散歩している。
キューは真っ白な体毛に、ぬぼーっとした性格、そしてなにより身体がデカい。
こんな巨大な犬はめったに居ないだろう。間違いなくワールドレコードクラスである。
ただ、バリーじいさんはキューに冷たい。
「まったく。こいついっつもだらだらしてるし、何考えてるかわかんねぇし、やたら大飯喰らいいじゃし、なんだかのぉ」
かなり煙たがっているが口調から伝わってくる。
「ぶぁ〜〜あ〜〜」
キューはのんびりと呑気に欠伸をした。
「カミさんはなんでこんなんチヤホヤすんのかわかんないよ。大して愛嬌もないのにのぉ」
雑貨屋少女はそんな巨犬の首輪が新しくなっているのに気付いた。
おしゃれなタルがついている。大柄な犬なのでこれくらいなら軽々持つ。
シエリアはパラパラとペット用品のカタログを眺めた。
(ふ〜ん。雪山の救助犬の装備なんだ。中にはお酒が入ってて、凍えた人を暖める。あとは救難信号機能があるのかぁ。音を出しながら発光する……と。昔は一人前の大型犬に贈る風習があったみたい)
ここいらに雪は降らないが、救命弾はなにかの役に立つかもしれない。
少なくともおじいさん以外には愛されているのだろうとわかって、思わずシエリアは微笑んだ。
「ほいじゃ。今日も頼むな」
そう言うとバリーはキューを預けてふらふらと消えてしまった。
なんでも「カミさんは足が悪いので嫌々(いやいや)に散歩している」という
なので、彼は散歩の依頼を時々(ときどき)、シエリアに丸投げするのだった。
キューは歩くとき無理に引っ張ったりはせず、大人しく横を歩く。
吠える犬にも大きく構え、喧嘩する素振りも見せない。
子どもたちが寄ってきてペタペタ触っても嫌な顔一つしない。
非常に賢く、温厚な犬と断言できた。
シエリアが思うにバリーの評価に反してかなり良い犬だと思えた。
ただ、バリーの気持ちも少しはわかる。
とてもマイペースで、どんくさいところがある。
食べ物にも貪欲で、食料品店の前で動かなくなったりもする。
そんなキューとシエリアが街のはずれを散歩していると若い女性が叫ん(さけ)でいた。
「ポルムちゃん!! ポルムちゃん!! どこへ行ったの!! 返事をしてぇ!!」
鬼気迫る叫びにシエリアは驚いた。
「ねぇ!! ウチの……ウチの娘は? どこにいるのか知りませんか!?」
なんでもこの母親の娘が行方不明になってしまったらしい。
すると、取り乱す女性の匂いをキューがクンクンと嗅ぎ出した。
「んむ〜〜〜」
よく見ると母親の手に握られた髪飾りに集中している。
「ばうっ、だうッ、だうッ!!」
何かを察知したのか、キューはヒモを振り切って普段からは想像できないほどの速さで駆け出した。
「ちょっ、ちょっと!! キュー!! キュー!!!!」
必死にシエリアは追いかけるが、さすがに犬には敵わない。
足跡をたどりに後を追うと工事現場に着いた。
シエリアはお世辞にも運動神経が良いとは言えないので息を切らした。
「ハァッ、ハァッ!! キュー〜〜〜!! キュー〜〜!!」
気づくと犬は土管に首を突っ込んでいた。
そして何かを咥えるとそれを引きずり出した。
「あ〜あ。見つかっちゃったぁ。かくれんぼ、だれにもみつからないと思ったんだけどな〜〜」
どうやら行方不明だったのはこの娘だったようだ。
匂いから追跡したキューのお手柄だった。
だが、突然に立てかけてあったパイプが倒れ込んできた。
さかさずキューは幼女を突き飛ばして、身代わりになった。
ガランガラン!! ガシャンガシャン!!
巨犬は重い鉄棒の下敷きになってしまった。
「きゅ〜〜ん。きゅ〜〜ん……」
キューは苦しげにうめいた。このままでは押しつぶされてしまう。
「ワンちゃん!!」
「キュー!!」
シエリアはすぐにもがく犬の元に駆け寄った。
カタログで見た首輪の情報が鮮明に蘇る。
「えっと、確かこのヒモを引けば!! えいっ!!」
少女は救命弾を使用したが、それはウンともスンとも言わなかった。
「うそ!? 不発!? ど〜しよぉ〜〜〜!!」
シエリアはいつものようにパニックを起こしかけた。
「落ち着け、落ち着くんだ私!! あッ!!」
だが、すぐに閃いて冷静になった。
「あったかくなるお弁当はヒモを引っ張ると発熱した!! だからきっとこのヒモも同じ効果がある!! つまるところ、別の方法で救命弾を温めれば発射される!!……はず」
何の確証もない推理だったが、今はそれに縋るしかない。
しかし、今になってシエリアは気付いた。
「うわぁぁぁ〜〜〜!! 発熱するものが無いよぉぉ〜〜。取りに戻ったら間に合わない!! 周りに使えるものもない!! うわぁぁぁ!!」
雑貨屋がジタバタすると地面に何か落ちた。
そしてそれはキラリと光った。
「ら、ライター……?」
朝、あぶり出しをやっている時にびっくりして、無意識にポケットに突っ込んでいたのだ。
「は、早くしなきゃ!!」
シエリアは首輪のタルを外すと発射方向を上にして下からライターの火であぶった。
「ピエーーーーーン!!!! ドカン!! ドカドカン!!」
街中に響くような警戒音、そして眩い閃光。
それを聞いてすぐに街人たちが集まってきた。
「おい!! 女の子とデカい犬が!!」
すぐにキューの上に覆いかぶさったパイプがどけられた。
その後、動物病院に運び込まれたキューは打ち身を負ったものの、すぐに元気になった。
騒ぎを聞きつけた新聞社は名巨犬の大活躍としてこれを取り上げた。
その影響でキューの飼い主とシエリアがセポール市長から表彰されることになった。
しかし、トラブル・ブレイカーはこういったものを避ける。
過度に目立ってしまうと仕事がやりにくくなるからだ。
地味で、誰にも気づかれないくらいがちょうどいい。
それにしては最近、やけに仕事が多い気もするが。
あれ以降、バリーじいさんはキューを大事に扱うようになった。
「ほんとに今まですまんかったのぉ。手のひら返しと言われても良い。それでも今まで邪険にしてすまなかったなぁ。なぁ、キューや……」
そういいながら老人は名巨犬をなでた。
「ばうばう!!」
キューは嬉しそうに尻尾を振った。
それからというもの、バリーじいさんはサボらず散歩にいくようになったとさ。
危機一髪だったけど、みんな無事で本当によかったです。
ヒモを引くと発熱するという発想は最近、食べた駅弁のシュウマイのお弁当からです。
でも、列車内で食べるとすごい匂いなんですよね……。
美味しかったけど、すごく恥ずかしかったなぁ……というお話でした。




