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クイーン・オブ・ジ・エリキシーゼ

シエリアに招待状が届いた。

氷菓、エリキシーゼの社交界へのお誘いである。

少女は狂喜したが、同時に疑問も抱いた。


この集まりはアイスの上流階級しか呼ばれないはずなのだ。

死ぬほどのヘビーユーザーだったとしても、一般人には縁のない話である。

釈然としなかったが、ここは素直に喜ぶことにした。


パーティー当日、少女はおめかしした。

白のブラウスに膝丈の紺色のプリーツスカート。

首には赤いリボンタイを身につけた。

そしてピンクのミディアムヘアを肩から垂らした。


質素だが普段よりは飾り気がある。

滅多にしない化粧もした。

目立つのはアレなので、ナチュラルメイクにとどめたが。


開催場である首都クランドールまでは鉄道で何駅も北上しなければならない。

シエリアは都会に慣れていない120%の、おのぼりさんである。

迷いながらもなんとか会場に着いた。


建物に入るとまっさきにゴージャスなオーラに包まれた。

明らかにセレブのたまり場である。

どうかんがえても場違いだ。なぜこんな集まりに呼ばれたのかわからない。


それもそのはず、この招待状はトラップだったのだ。

人形のような美しい顔立ちで金髪のたてがみロールに、お姫様のようなドレスをした人物がやってきた。

背がかなり高く、雑貨屋が見上げる形となった。


「貴女、シエリアさんですわね?私はティッティと申します」


突然の自己紹介に雑貨屋はおどおどしながら名乗り返した。


「あっあ、シエリアです。よろしくお願いします」


「ところで貴女、"ボンモール"さんを知っていらして?」


祖父の名前が出てきた。自分と繋がりのありそうな話題を出されて、シエリアはほっとした。


「はい!!私の自慢のおじいちゃんです!!」


だが、それはとんだ勘違いだった。


「やはり……。いいですわね? ボンモールさんと私のおじいさま、"ベルゲイノお祖父様"はエリキシーゼの頂点を争ったライバルでしたのよ。何度も対決しましたが、決着はつきませんでしたが」


そしてティッティはうつむいた。


「だいぶ前に私のおじいさまも亡くなってしまいましたの。生前、よくボンモールボンモールとよく語られていましたわ。きっと決着がつかなかった事を、さぞかし未練に思っているに違いありませんわ」


話を聞くに、未練がどうこうのくだりは彼女の想像の域を抜けない。

だが、彼女は一方的に挑戦を挑んできた。


「いいこと? 貴女をこの場に呼んだのはおじいさまのとむらい合戦のためですわ!!それは貴女も同じ!!ボンモールさんの、そして貴女の名誉にかけて私と決闘なさい!!頂上決戦だわ!!」


最初に疑問に思った時に欠席すればよかったと雑貨屋は悔いた。

まくしたてられてボーッとしているとティッティが対決内容を発表した。


「これぞ至高と思われるエリキシーゼのフレーバーを用意しなさい!!アイスのみなら混ぜて良し、濃くしてよし、薄めても良しのなんでもあり!!究極の味を追求しようじゃありませんか!!」


いきなりの対決にシエリアはたじろいだ。

しかし、あそこまで祖父を煽られると、おいそれとは負けられない。

そんな中、見慣れぬ老人が人並みをかき分けて近寄ってきた。

そのまま雑貨屋に耳打ちをする。


(はじめまして。トラブルなんとかさんですな?私、ゼンジと申します。ティッティ様のお付きのものです。どうかお嬢様を打ち負かして彼女の鼻をへし折ってください)


「!?」


いきなり、しかも予想外の頼みがきてビックリした。


(お嬢様の傲慢ごうまんっぷりには家のものが揃って振り回されております。ですからそのプライドをくじければ、お嬢様は改心するかもしれません)


そうは言うものの、あれだけの天狗がボッキリいくとは思えない。

シエリアが頬をふくらまして考え込んでいるとゼンジが彼女の身の上を語った。


(お嬢様には同年代のお友達が1人もおりません。それが余計、こじらせる原因となっておるのです。ですが、貴女がライバルになってくれればあるいは……)


気づくと人混みに紛れた屋敷の者達が頭を下げてきた。


(お嬢様の、ライバル……いえ、良き友達となってくだされ!!)


勝負に勝ってライバルになるのも、良き友達になるのもハードルが高いように思えた。

間違いなく高難易度の依頼である。


この会場にはいくつものフレーパーを完備したクーラーが設置されている。

そこからアイスクリームディッシャーを使って容器に盛ることか出来るのだ。

さっそくティッティはアイスに手を付け始めた。


その手さばきは恐ろしいほど速く、かつ正確に複数の味をチョイスしていく。

自ら頂上を名乗るだけあって、腕前もセンスもぶち抜けている。

参加者たちはその所作しょさに魅了されて思わず歓声をあげた。


それぞれの味を絶妙な配分でブレンドし、濃くしたり、薄めたりしてさらに深みをつけていく。

普通は複数のフレーバーを混ぜるとくすんだ色になってしまうのだが、彼女の一品はキラキラと虹色に光っていた。


「どうですの!!ティッティ特製のクイーンズ・エリキシーゼですわ!!」


一方のシエリアはまっすぐにクーラーに歩み寄ると1つだけ容器に持った。


「それなら私はこれで……」


庶民の娘は容器を差し出した。

すると、お嬢様は顔を真赤にした。


「貴女、バカにしていますの⁉ただのオレンジ一色じゃないですの!!」


そう指摘されてシエリアは言い放った。


「シンプル・イズ・ベスト。おじいちゃんから教わった言葉です」


そして試食会が始まった。上流階級の人々は2人のエリキシーゼを交互に食べていく。

決着は拍手の大きさで決めることになった。

最初にティッティの番だ。かなり大きな音になり、手応えがあった。


次のシエリアの番……。

拍手とともに歓声が上がった。指笛を吹く人もいた。

評論家が判定結果について解説していく。


「確かにお嬢様のアイスは美味な上に美しく、スキもない。一方のシエリアさんは特に工夫はないものの、オリジナルへのリスペクト、それにさっぱりとしたオレンジ・ピール味のチョイスが素晴らしかったのです。よって決闘の勝者はシエリアさんとします!!」


会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

うなだれてしゃがみこんでしまったティッティにシエリアは歩み寄った。


「好敵手と書いて"とも"と呼ぶ。私達、友だ……いや、エリキシーゼを愛する同志……親友じゃないかな?」


ベソをかいていた彼女は差し出された手をとって立ち上がった。


「……私達が……し、しんゆう?」


雑貨屋はにっこり笑い返した。

すると、突然、ティッティはシエリアにキスしてきた。


「ズキュウウゥン」


「⁉」


戸惑う一般人にお嬢様は伝えた。


「わが家では親友の証としてキッスをするのですわ」


ティッティは無邪気な笑顔を浮かべた。


……いきなりの頂上決戦ではありましたが、ここがコールではないです。

私の氷菓を極める道はまだまだ続きます。


にしても、さりげなくファーストキスを奪われてしまいました。

でも相手が女の子だからセーフかなぁ……というお話でした。

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