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蛇口テイスティング

雑貨屋少女はよく気分転換で近所の公園に散歩に行く。

今日はなんだか暖かく、喉が乾いた彼女は蛇口を見つけて近づいた。

しかし、水が出ない。よく見ると蛇口に看板がかけてあった。


「水の使いすぎにて断水中。水を大事にね! ジャン!!」


シエリアは首をかしげた。

セポールで断水なんて滅多にないからだ。

家に変える途中で、誰かのうめき声が聞こえた。

シエリアが振り返ると、そこには腰の曲がりきった坊主頭のお爺さんが居た。


「おお、'例"のか。頼みを聞いてくださらんか」


彼はスピッツォと名乗った。


「わしの趣味は公園などの蛇口を巡って、その水を片っ端から飲んで、テイスティングすることなんじゃ。公園だけで8箇所、飲んでも怒られないスポットを含めると125の蛇口が存在するッ!!」


変わったお客さんだなぁと懐の深い店主はそれで済ませた。


「お主も見たじゃろう!!街中が断水してもうたんじゃ!!」


だが、シエリアは専門家ではないので断水の原因が思いつかない。

思わず首をかしげてしまった。


「あのぉ……なんで断水してしまったんでしょうね?」


老人は青筋をたててピョコピョコ跳ねた。


「バッカモン!!断水と言えば精霊ウンディーネの仕業じゃろうが!!あのクソ虫共めが!!」


ウンディーネと言えば水源を荒らすことで有名な精霊だ。

虫ではないが厄介者であることには違いない。

1匹ウンディーネがいたら50匹いると思えと言われるほどに増殖が早い。

百害あって一利なし。まさにゴキブリのような連中だ。


人間の生命に関わる水に影響を与えるという点では、ゴキブリより遥かに悪質である。

スピッツォの見立てによれば水は浄水場で止まっているらしい。

早速、シエリアはシュレイン湖に面した施設へと向かった。


入り口には2人の局員が見張りをしていた。

少女は彼らに歩み寄って店の名を出した。

すると事情を汲んでくれたのか、浄水場内に入れてくれた。


おそらく彼らも手が出せなくて困っていたのだろう。

中に入ると大小様々なタンクが並んでいた。

しらみつぶしに調べていけばいだろうと、シエリアははしごを登った。

そして、大きいバルブを開けてタンクをのぞきこんだ。


すると中から数え切れないほどのウンディーネが飛び出してきた。

水中にもうごめいており、不自然な方向に水の流れを撹拌かくはんしている。

雑貨屋は顔にとりつかれてしまった。


思わずハシゴから手を離してしまい、硬い床に尻もちをついた。

それを見て水の精霊達は彼女を嘲笑あざわらった。

更に水槽の水をパシャパシャかけてきた。完全にバカにされている。


「う、うう……ぐすん……」


彼女は泣かされながら帰ってきた。

いじめられっ子の苦しみを痛感したのだった。

自室に帰るとシャワーを浴び、身体を温めて気合を入れ直した。


1匹も残さずウンディーネをジェノサイドする必要がある。

そのために使えそうなアイテムを探してはバックにいれていく。

リュックを背負い、肩掛けカバンを左右にかける。

シエリアは完全武装した。


「ウンディーネ許すまじ!!殲滅せんめつしてやるぞ!!」


物騒なワードが飛び交う。それだけ彼女はさきほどの仕打ちを根に持っていた。

浄水場に戻ると、露出した水槽の表面に"害虫"がパシャパシャ跳ねていた。


「こんのおッ!! 温泉の元爆弾・大浴場用!!」


彼女が小さなブロックを水槽に投げ込むと、ジュワジュワと激しく泡立った。

そして水面がグツグツと沸騰するように波打った。

この刺激によって水の精霊は弾けとんだ。


まだあちこちの槽にウンディーネが潜んでいる。

するとシエリアは口紅を塗ってタンクに口づけした。

赤いキスマークが輝くと、騒がしかったタンクの中身は沈黙した。


封印乙女メイデンズ・シール……乙女のみが使えるというアイテムである。

いたずら精霊くらいならば消滅させる事が可能だ。

ただし、形がないものにはキスすることが出来ないので、直接ウンディーネを潰せない箇所もある。


当然、シエリアが進入できない場所もある。

だが、雑貨屋はしっかりその対策もしてきた。


「電撃まりも!!」


少女はこぶし大の藻の球体を投げこんだ。

これは一定時間、水に浸かると放電する特性を持つ。

そしてマリモはバリバリと強烈な電撃を放った。

水槽全体のウンディーネが感電した。


連中は電気に弱い。パシンパシンという音を立てて消滅していく。

水で満たされたエリアやタンクなどにも届いたようで、激しく水泡が上がった。

これで進入不可のエリアも狙える。


シエリアは手応えをつかむと3つのアイテムを使って、片っ端から害虫達を抹殺し始めた。

彼女に憐憫れんびんの心はなく、まったく容赦がない。

もっとも、先にケンカをふっかけたほうが悪いのだが。


こうして、一晩のうちにウンディーネは全滅させられた。

すっきりしたシエリアは、また穏やかな雰囲気を取り戻した。

水道を妨害する者が取り払われて、無事に蛇口からも水が出るようになった。


断水は夜中のうちに直ったので、セポールに大きな混乱はなかったようだ。

さっそくスピッツォが店にやってきた。


「はぁ〜〜。ホントに退治してしまうとは。おかげさまで全部の水場が飲めるようになったわい。ありがとうなぁ。これで日課の蛇口125箇所巡りが出来るわい!!」


相変わらず変わったお爺さんだが、ありがちなお客さんだったので店主は寛大だった。

家の水は出るが、せっかくなので少女は公園の蛇口を確認しに行った。

かけてあった看板が撤去されている。


シエリアは髪をかきあげながら蛇口をひねった。

次の瞬間、飲み口が吹っ飛んだ。そして彼女は大量の水をかぶった。


「きゃああ!!なにこれぇ⁉」


水道から吹き出した水はケラケラと笑っていた。

生き残りのウンディーネの逆襲である。


「あ〜、うわぁ〜。びっしょびしょだよ〜。へっぐし!!」


こうして全身に冷水を浴びてしまった彼女はカゼを引いた。

しかも長引いてしまい、4日ほど寝込む羽目になってしまった。


少しすると町外れでお化けが出るようになったと怪談になった。

なんでも夜な夜な現れ、はちまきにロウソク2本をくくりつけているらしい。

そしてリュックと肩掛けカバンを両肩にかけて両手には包丁という出で立ちだという。


殺戮さつりくス」「根絶ねだヤシニス」とつぶやきながらあたりを徘徊はいかいしているとのことだ。


実のところ、この人物は夜中にパトロールしていたシエリアの姿に、尾ひれがついただけであった。

その証拠にウンディーネが街から消えると、目撃情報はパタリと止んだ。


……苦労しましたがなんとか街からウンディーネを消し去ることが出来ました。

結局、水の味の違いはよくわかりませんでしたが。


そういえば、街の外れにお化けが出たようです。

私もあの辺りにはよく行くので遭遇してしまいそうです。


あんまり会いたくないなぁ……というお話でした。

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