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FCシエリア

シエリアの店は家具を扱うこともままある。

今回は注文を受けて、全身を映す姿見すがたみを仕入れた。


「いい感じの鏡だね。これなら喜んでもらえるかな」


覗き込むと姿見にはシエリアが映っていた。

少女はその家具に覆いをかけるとその日の営業を終えた。

翌日、幕を取って姿見を確認すると鏡はバキバキに割れていた。


「うそ……なんで割れたんだろ? あっれー、おかしいなぁ」


営業時間が来たので、ひとまず彼女は店先に立つことにした。

その日の夕方、常連のおばさんがやってきた。

すると伏し目がちにシエリアに声をかけてきた。


「シエリアちゃんね、流石に河原の草を食べるのはやめときなよ。店にだって食べ物、あるじゃないかい。困ったらおばさんに言うんだよ」


そう言って彼女は眉をひそめて帰っていった。

次の日は爽やかな男性がカウンターにもたれかかってきた。


「やあ。キミ、ボクを逆ナンしたよね? デートしにきたよ」


突然の出来事に雑貨屋はどぎまぎした。


「ででででぇとぉ⁉ ひひひ、人違いじゃありませんかぁ?!」


その反応を見て青年はため息をついた。

 

「ん? なんかキミ、さっきと雰囲気違わなくない? もっとクールでミステリアスな感じだったんだけど」


少女はブンブンと首を左右に振った。


「いい、いえ、そそれは人違いだとおもうます!!」


男性の期待外れと言わんばかりの視線が刺さる。


「ふ〜ん。そっか。それじゃあね」


彼は呆れたようにひらひらと手を振りながら去っていった。

しかし、疑問が残る。

青年がここへやってきたということは、誰かが彼をここへ誘導した事になる。

河原の雑草の件といい、今日の逆ナンの件といい、謎は深まるばかりだ。


まるで自分がもう1人居るような感覚に陥った。

だが、そんなことある訳がない。

はた迷惑な話ではあるが、自分でどうこうできるわけでもないし。


次の日、見過ごすことの出来ない事件が起きた。

昼頃、男女2人組のお巡りさんがやってきた。


「あ、お巡りさん、ご苦労さまです」


だが、なぜだか2人の顔がけわしい。


「シエリアさん。キミ、さっきダンチェの泉で泳いでいただろ?しかもコインなんか拾って。法には触れないけど、迷惑行為なんだよねぇ。ほら立って」


そして女性警官からペタペタとボディチェックをうけた。


「ひゃあ!!うひゃひゃ!! ひゃ、やめてください!! くすぐったいですってば!! は、ははっ……んんッ…」


シエリアはさんざんいじくられて崩れ落ちた。


「おかしいですね。別人です。第一、彼女がそんなことをするとは思えませんし」


なら念入りに触る前に止めてほしかったと少女は思った。

2人組の警官は深々と頭を下げた。


「これはとんだ失礼を。どうかお許しください。しかし、あなたによく似た人物があちこちで騒ぎを起こしているのは事実なのです。心当たりありませんか?」


少女はハッと眉をひそめた。


「あ、あのぉ。もしかして、その人、すごく無口じゃありませんでした?」


警官たちは顔を見合わせた。


「ええ。返事もせず、声一つあげていなかったという報告があります」


次の瞬間、シエリアはポンと手のひらを叩いた。


「本人にそっくりな容姿にいたずら好き、そして何もしゃべらない。これはドッペルゲンガーに違いありません!!」


彼女はなんの衝撃も無いのに、割れた姿見の事を思い出した。

そこからシエリアのニセモノが飛び出したとしか思えない。


「彼女らは私の意思とは関係なく動いてるんです。そんな迷惑なヤツらをこれ以上、放ってはおけません!! 何よりわたしの沽券こけんに関わります!!」


警官達はきょとんとしていたが、事態は急を要する。

そして雑貨屋少女は店の奥から鏡のかけらを取り出してきた。


「ニセモノと繋がって『ドッペルつかま〜えた!!』と唱えれば彼女らは消えるはずです!!」


シエリアは顔を真赤にして腕を上下に振った。


「信じてくださぁい!!話を聞いた以上、協力してくださいよぉ!!」


こうしてセポール警察全面協力でのドッペルゲンガー捕獲作戦が幕をあけた。

本人たちは河原に張り込むことにした。


「シエリアさんが犬にちょっかい出してます!!」


「シエリアさんがガムを吐き捨てました!!」


「シエリアさんが落書きしてます!!」


「シエリアさんが日向ぼっこしてます!!」


自分とそっくりな存在がそんな醜態しゅうたいを晒している。

滅多めった苛立いらだたないシエリアだが、今回ばかりは話が違った。

少女は気が気でなく、神経質に頭をワシャワシャと掻いた。

綺麗な桜色の髪が台無しだった。


そんざん騒動を起こされてからシエリアは思いついた。


「あ!!ドッペルゲンガーは鏡の反射光に寄ってくるって聞いたことがあります。だから、こうやって欠片を陽に当てれば!!」


少女は天に向けて鏡をかざし、光を反射させた。

すぐに反応があった。何者かが草むらからこちらを覗いている。

目を光らせて現れたのは四つん這いで草まみれのシエリアだった。


「⁉」


思わず警官たちは困惑し、どよめいた。


「あなたもここで終わり!! 大人しく消えてもらうよ!!」


すると、川からバシャバシャと何かが上がってきた。

またもやシエリアである。魚をくわえていた。


「⁉」


一同は押し黙ってしまった。


上空から何かが降りてきた。頭上に野鳥をかかえたシエリアである。


「⁉⁉」


あっという間にシエリアが4人になってしまった。

寄ってきた彼女らは一言も喋らない。疑惑は確信へと変わった。

彼女らは黙ったまま、こちらににじり寄ってくる。

その時、四方から声が聞こえた。


「こらー!! 待てぇ!! 待てぇー!!」


他の場所のお巡りさんがニセモノを追い立ててくれたのである。

その結果、シエリアが11人になってしまった。

FCフットボールクラブシエリアの誕生である。


などと一瞬、アホな事を考えた少女だったがすぐに立て直した。

こんなに大人数には触れることができない。

しかし、シエリアは思いついたように叫んだ。


「皆さん、ニセモノの腕をがっしり掴んで!!間接的な繋がりでも消せるかもしれません!!」


分身も多かったが、助っ人の警官も多い。

なんとか全員の腕が一直線にがっちり組まれた。

そしてホンモノの雑貨屋少女は合言葉を叫んだ。


「ドッペルつかま〜えた〜!!」


腕を組んだドッペルゲンガーに消滅のスペルが通った。

するとニセモノたちは煙を上げて跡形もなく消えていった。

店に帰ると姿見は力を失って真っ黒に染まっていた。


それ以降、シエリアのそっくりさんの報告は、ぱたりと止んだ。

こうして騒動は一段落したのだった。

今回は大騒ぎになったが、誰かがもみ消したようだ。


……自分が知らないところで勝手に何かされることの怖さを思い知りました。

噂に聞くには彼女らは本人の深層心理に基づいた行動をするらしいです。


ぎゃっ、逆ナンなんてきょ、興味あるわけないじゃないですかぁ!!……というお話でした。

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