都市伝説さんの都市伝説
セポールの市街地を川沿いに抜けると"カップァの沼"という名所がある。
なんでも、未確認生物の目撃情報があるらしい。
それは人と同じ身体をしているが、皮膚はウロコに覆われている。
背中には亀のような甲羅を背負っていて、手と脚には大きな水かきがついている。
そして唇はくちばしのようにとんがり、頭には水を蓄える皿を持っているという。
小柄だが怪力で、馬や牛を引きずり込む。
そして"キュウリ"が好物らしい。
物珍しさから釣りに来る人は後を絶たない。
その存在に懐疑的なシエリアだったが、都市伝説は嫌いではない。
そういうわけで、たまに沼に来ては冷やかしでキュウリを垂らしている。
眠気に襲われてうとうとをしている時だった。
「おぬしじゃな? 探したぞい」
「きゃっ⁉」
逆さに覗きこまれて、驚いたシエリアは思わず跳ね起きた。
「これ。そんなに驚くでない。わしはノッペンと言うもんじゃ。早速、頼みがあるんじゃが…」
たまにだが、こうやって外出中でも依頼を受けることがある。
「実はわし、奇跡的にカップァのおなごを見かけたことがあってのう。ありゃあこの世のものとは思えん。わしはすっかり魅了されてしまったわい」
素直なシエリアは疑うこと無くそれを信じた。
「へぇ!! すごいですね!! 何か出会うコツとかあるんですか?」
ノッペンは少し考えると思い当たるフシを答えた。
「ケツの穴を締めると出会いやすいぞ」
素直に遭遇報告に感動したシエリアだったが、それを聞いて手のひらを返した。
「ええ、あ、あはは…」
「冗談に決まってるじゃろ…」
いたいけな少女をだまくらかして、老人は続けた。
「たまたま会っただけで、それ以来は手がかりがなくてのぁ。そんな中、とっておきの情報を買ったんじゃ」
依頼人は複雑な顔をしている。
「詳しくはわからんが、なんでも"シリコダマ"というものがあるらしい。それがカップァの好物らしいんじゃ。じゃから、もしそれを用意できれば、またおなごに会えるかもしれん!!」
そして、ノッペンは仏前のように両手をあわせると、それを擦り合わせた。
そんな拝み方をされても困る。
「ここからが本題じゃ‼ "シリコダマ"が何なのかを調べてくれい!! わしには逆立ちしても見つけることが出来んかった。お主を頼っての事じゃ!! 頼む!!」
彼はまた仏前のように拝み始めた。
シエリアもカップァについてちょっと興味があったので、この依頼を受けた。
「はい。それがなんなのか調べればいいんですね? わかりました。やってみます!!」
それを聞いたノッペンはニッコリと笑って沼を去っていった。
雑貨屋の仕事を終えた後、シエリアは百科事典を漁った。
しかし。かなり専門的な本を読んでもそれらしいものは出てこない。
振り出しに戻ったかと思った時だった。ある本が目に入った。
「幻の河童伝説!!」
スペルの違いで見逃していたが、おそらくこれもカップァの本のようだ。
シエリアはそれを食い入るように読み始めた。
特徴は老人の発言と一致している。問題は"シリコダマ"に関する記述である。
一体、それは何なのか。探求心で少女は読み進めた
「なになに…尻子玉とは、人間の肛門にあるとされる臓器で、河童の好物である。連中にそれを抜かれると殺されてしまう…」
少女は思わず赤面してお尻を押さえた。
「――ッ!!」
彼女は二重でショックを受けた。
玉の位置が恥ずかしすぎるのである。
花も恥じらう乙女にとってはこれくらいでも衝撃だった。
もう一つは抜かれると殺されてしまうということだ。
こちらの方にショックを受けるべきなのだが、シエリアは未だに尻を押さえていた。
その姿勢のまま少女はバタバタしはじめた。
「肛門に近い…? うわあぁ〜!! そんなのどう伝えたらいいかわかんないよぉ〜!! しかも引き抜くって…お爺さんのもまずいし、私の? え、えぇぇ〜〜…」
おもわずシエリアは頭を抱え、安請け合いをした事を悔いた。
だが、このままでは何も解決しない。
とりあえず情報を調べるという依頼は達成した。
その上で老人がどうするかを見て、次の行動を決めようと思った。
沼の土手でノッペンはニタニタと笑っていた。
「して、お嬢さん。シリコダマとは何なのか、わかったのかね?」
シエリアはかいつまんで話したが、玉がどこにあるかを中々いいだす事ができない。
彼女がボソボソ喋っているので、老人は耳をそばだてて尋ね直した。
「あぁ⁉ 聞こえんでの⁉」
雑貨屋少女は真っ赤になったが、ここで答えねばプロ根性が廃る。
とにかく無心になり、恥を捨てねばならない。
「尻の穴、尻の穴にあるぞォッ!!」
思わず武士の名乗りのような口調になってしまった。
そして彼女は羞恥心に顔を真赤にして崩れ落ちた。
それを聞いた爺さんはシリアスな顔をしている。
「し、シリコダマがそんなもんじゃとは…。じゃが、うまくいけばカップァをおびき寄せられるかもしれん。ワシは再びおなごに会うんじゃ!!」
まさに恋は盲目と言った様子で、ノッペンは沼に飛び込んだ。
その音を聞いてシエリアは我に帰った。
「あっ!! 玉を抜かれると死んじゃいますって‼」
順調に沼の真ん中まで泳いだ老人だったが、急にバチャバチャともがき始めた。
きっとカップァである、と少女は思った。
助けに行きたい所だが、彼女はカナヅチでどうしょもない。
運悪く沼には自分と老人しかいない。
「ノッペンさーーーん!!」
とうとう彼は沼の底に沈んでいってしまった。
絶望したシエリアは放心状態になった。
しかし、少しすると何かが浮き上がってきた。
「あ…あなたは!!」
現れたのは女性のカップァ…らしき者だった。
本に載っていた特徴には合致する。
その肩にはノッペンが担がれていた。
「あのさ〜。もうチョーありえないんですけど〜。いまどきシリコダマなんてきたねぇし、はやらねーんだよな。第一、そんなん都市伝説にきまってんジャン。あとキュウリもいらねーっよォ!!」
そう言いながら彼女は怪力で老人を放り投げてきた。
土手の上の方に老体は転げた。
「くっせぇジジイが沈んでくるし。環境汚染も大概なんよね。次はねーぞ。今度こそシリコダマ抜いてやるからな。ま、ジョーダンだけどよ!!」
そう言いながら彼女は沼に潜っていった。
すぐにノッペンは沼を指さしながら狂喜した。
「確かに見た!! 確かにおなごに会えたわい!! それどころか密着までしてもうて!! うひゃひゃ!! お嬢さんありがとうな~!!」
今後も彼は沼にハマるだが、ひとまずこの事件は一段落したのだった。
…シリコダマの正体については驚きましたが、都市伝説さんに都市伝説って言われたらどうしょもないと思います。
…ということはお尻に玉は存在しないことになりますよね?
私は一体、何のために恥ずかしい思いをしたんでしょう…というお話でした。




