私のハートは土器土器!!
駄菓子カツを食べながらシエリアは店番していた。
そんな時、サングラスに黒いスーツの男性が現れた。
「あなたがシエリアさんですね? お時間よろしいですか?」
コクリと頷くと店主は休憩中の看板をかけた。
男はセポール市街地の音楽ホールへ向かった。
その舞台上ではアイドルたちが歌って踊っている。
どんな頼みが来るのか全く予測できなかった。
「…アイドルをやってもらいます」
「は?」
おもわず変な声が漏れた。
「ですから、アイドルの一員として活動してほしいのです。病欠がでてしまいまして…」
湧いてきた疑問をぶつける。
「3人で足りてるじゃないですか。それになんで私が?」
マネージャーは首を左右に振った。
「休んでいる方はメインボーカルのサポートなのです。ダンスの立ち回りも4人用のものです。今の状況ではすべてが噛み合いません」
男性はこちらを向いた。
「あなたを選んだのはその可愛らしい容姿、何よりそのプロ根性を見込んでのものです」
突如、容姿をほめられてシエリアはデレた。
「そっ、そんなぁ。可愛いだなんて。デュへへへ……」
すぐに少女は我に返った。
「待ってください!! 歌はともかく、ダンスなんて絶対出来ませんよ!? 私、ものすごく運動音痴なんですから!! それに目立つのも苦手で!!」
スーツの男性は黙ったままリハーサルを指さした。
「このままではライブが成立しない。それなのに必死にリハをしてるんです。私としては、なんとしても成功させてやりたくて。ここでしくじったら病欠の子に合わす顔もありませんし!!」
彼の熱い思いが伝わってくる。
なによりプロ根性とまで言われたら、トラブル・ブレイク必至である。
思わずシエリアは座席から立ち上がった。
「わかりました。アイドルの代打、私が引き受けます!!」
感動のあまりか、マネージャーは肩を震わせていた。
雑貨店に帰ったシエリアも肩を震わせた。
「どーーしよーーー!! ダンスなんて天地がひっくり返っても出来っこないよ〜〜!!!! でも、大事なライブを見捨てることもできないし!! ダンスダンス…」
彼女は考え込むと部屋のタンスから箱をとりだしてきた。
中には若草色の靴下が入っていた。
「忘れてた。これ、おじいちゃんが結婚式用にって残してくれたんだった。ダンスが下手でも、これを履けば踊れるって…」
それは妖精の祝福…フェアリー・ブレッシングと呼ばれるダンサーズ・ソックスだった。
誰でも華麗なステップを踏めるという高級品だ。
しかし、劣化が早くて破けると効果がなくなってしまう。
祖父ボンモールが残した大事な大事な品だが、使うのならば今しかないと思えた。
「おじいちゃん、ごめん。結婚式じゃ踊れないみたい!!」
ただ、靴下がいつまで持つかどうかはわからなかだた。
翌日、シエリアは「ハート・ドキドキ120%」というアイドルグループに合流した。
マネージャーから紹介されているからか、スムーズに話は進んだ。
1日アイドルはお辞儀して自己紹介した。
「私、シエリアって言います。みなさんの足を引っ張らないように、歌とダンスを仕上げます!! よろしくお願いします!!」
元気よく、はきはきしていて好印象だ。
ここにいる所属アイドルは3名。
赤い髪で、パッチリおめめの快活そうな少女が声をかけてきた。
「リーダーのリュミエール!! アタシはみんなのまとめ役!! ビシバシ行くから気合入れていきなよ!!」
いかにもスポ根といった感じだ。
「僕はエレルン。振り付けを担当してる。よろしくね」
背が高くてボーイッシュな少女だ。
女性が見ても惚れそうなルックスをしている。
隣のナイスバディな少女も挨拶してきた。
「うふ。私が歌のコーチをしてるシャルルルよ。よろしくね、助っ人さん」
リーダーは腕を組んでなにやら考えていたが、すぐにまとめた。
「あたしは元気っ子、エレルンはクール、シャルルルはお色気。となるとシエリアっちは‥ロリ枠だな!!」
助っ人は声を震わせた。
「っち? えっ…ろ、ロリ枠?」
早速、その日から猛烈な特訓が始まった。
壊滅的に踊れなかったが雑貨屋だったが、妖精の祝福は彼女を助けた。
足取りが軽い。そのステップにつられて上半身の振り付けもバッチリだ。
必死に取り組んでいると、あっという間に本番が来た。
シエリアはロリ枠ということで、ヒラヒラとしたピンクの衣装を着させてもらった。
そして桃色の髪を持ち上げて、高い位置で結った。
俗に言うツインテールというやつだ。
ナチュラルメイクだったが、シエリアは驚きを隠せなかった。
「うっそ…これ私?」
準備が整うとリュミエールが円陣を組んだ。
「う〜し!! いくぞ〜!!」
シエリアは緊張を隠せなかったが、腹をくくった。
「やっほ〜〜!! みんなおまたせ!! ハート・ドキドキ120%で〜す!! 今日は残念ながらポピーナちゃんはお休みです。代打でシエリアちゃんが来てくれました〜〜!! みんなよろしくね〜〜!!」
今日だけアイドルは元気に手を振った。
「は〜〜い!! シエリアだよ〜〜!! みんな〜、よろしくぅ〜〜!!」
彼女は大人数に対しては妙な適応力がある。
こうしてメンバーが名乗ると演奏が始まった。
代打はメインボーカルをサポートするように歌っていく。
「わ〜た〜しは〜土器土器〜〜♪」
「土器土器〜♪」
「い〜つ〜も〜、私のハートは土ッ偶!! 土ッ偶ゥ〜〜♪」
「土偶、土偶ッ♪」
「あなたの〜〜いしの矢じりで〜〜わ〜た〜し〜をつーらぬ〜いて〜〜♪」
「ぬいて〜♪」
全員が絶好調で、歌いながら鮮やかにステップを踏んだ。
そしてサビに入る。メンバー4人は美しくハモった。
「わた〜〜しのハートは土器土器〜〜!!」
「だ〜れに〜も〜と〜められない〜♪」
「さんないま〜る〜や~ま〜センセ〜にもね〜〜♪」
その時、シエリアの靴下が切れて指が飛び出した。
まだラストのステップが残っている。
「ええい、ままよ!!」
シエリアは感覚にまかせてくるりと回転し、あざといポーズをとった。
「バァァァン!!」
床から火花が飛び出して、大歓声のうちにライブは終わった。
グループに入らないかと誘われたが、元の生活が恋しくなって帰ってきた。
思いっきり目立ってしまった彼女だったが、いつのまにか揉み消されていた。
その夜、記念にもらった衣装を着て少女はニヤニヤした。
「わた〜〜しのハートは土器土器〜〜!!」
いまなら靴下なしでもステップできる。
根拠のない自身で彼女が踊ると足がもつれた。
そして、足の小指がタンスの角にクリーンヒットした。
「あッづうううッ!!」
…すっごく不安だったんですけど、靴下のおかげでなんとかなりました。
でも、やっぱりダンスは上手くなってなかったです。
死ぬほど痛い思いをしました。もうステップは二度と踏みません。
ところで、あの歌詞はどういうセンスなんですかね?というお話でした。