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59. 真実


「ヴォルテール様、横のドラゴンはもしかして……」

「ああ。カイルだ。ミルカ嬢の背中の傷を見てもらうために、少しばかり体を小さくしてもらった」

「あ、あっさり仰いますが、ドラゴンが体の大きさを変えられるなんて、聞いたことがありません!」

「魔法を使えるドラゴンというのは、人間の想像などやすやすと越えるものだな。とは言え、これは内密に頼む」


 私は頷く。


「助かる。カイルはあの巨大な姿だと思わせておいた方が、色々とやりやすいのだ」

「承知いたしました。このことは決して口外いたしません」


 そう約束し、カイルの姿をまじまじと見つめた。

 小さな、といってもイスクラより一回り程大きな黒いドラゴンは、小首を傾げて私を見た。


「『イスクラの言う通りだ、ミルカ嬢。我々はあなたの意志の強さと愛情深さを評価している』」

「か、カイルの声が直に聞こえてくるのですが……!」

「カイルがそうしたいと思っているからだ。彼の言葉は自在に届く」

「しかも、イスクラに比べて、かなり人間に近い喋り方をするのですね」

「『それは年季の差というやつだろうな。私は既に二百歳を超えているから』」


 新しく判明する事実ばかりで、頭が追いついて行かない。

 わくわくしながら私は、目の前の流暢に話すドラゴンを見つめた。

 するとカイルはふっと笑って、静かに私の方に歩み寄って来た。


「『人間は短命ゆえ、結果ばかりを重視する。結果を出すことを求められるのだろう、とヴォルテールを見ていて思う。――だが、我らドラゴンにとって、結果など砂の上に築いた城のようなものよ。波にさらわれ、すぐに次の城が築き上げられる』」

「時間の感覚が違うのですね」

「『ああ。我らドラゴンは、砂の上に城を築く、その人間の意志と心を見ている。いずれ消える砂の城と知ってなお、善いものを作ろうと励むことができるのか。砂の城だからこそ、我欲を貫いて怠惰に生きるのか。我らドラゴンの興味を惹くのは、どちらかといえば前者だな』」


 老賢者のように呟いたカイルは、思慮深い眼差しで私を見やった。


「『さて、ミルカ嬢。あなたの背中の傷を見せて貰っても?』」

「は、はいっ」


 私は再び背中の傷を晒す。


「『……確かに呪いだな。呪いの対象者が異なることで、魔法は不発に終わっているようだが、残された魔力のせいで、傷の治りが遅いのだろう』」

「呪いの主は分かるか」

「『分かるぞ、主よ。双頭の兎の紋章は、我々が先日目にしたばかりだからな』」

「やはり、紋章が鍵か」

「『紋章は隠せぬものだ。人間のそれは特に、マーキングじみて目立つ。犬と同じよ』」


 嘲笑含みの言葉にヴォルテール様が苦笑しながら、懐に手をやった。

 取り出したのは他愛のないペーパーウェイト。

 銀で出来ていて、花をかたどったシンプルなものだ。


「……あら? 紋章が見えます。魔法の痕跡でしょうか」

「その通り。これは魔法で隠し場所を作った小箱らしくてな。魔法を知るものだけが開けられる小箱だ」

「『ちなみに中には麻薬が入っていた』」

「ま、麻薬ですか……。このペーパーウェイトはどこのものなんですか」

「デザストル商会のものだ。タリが潜入ついでにかっぱらってきた」


 何でも、デザストル商会にスパイしに行ったタリさんは、自分を手癖の悪い駄目メイドに見せかけるため、あえて金目の物を盗んで姿をくらませたのだそうだ。

 その成果の一つが、このペーパーウェイト。

 銀製で、持ち運びがしやすくて、盗むにはおあつらえ向きなのだとタリさんが言っていたらしい。

 あの豪胆なメイドさんらしい口ぶりに、少し笑ってしまう。


「このペーパーウェイトにかけられた魔法の紋章、ミルカ嬢には何に見える?」

「ええと……二つ頭の鳥、でしょうか。翼も足も一対ですが」

「『双頭のモチーフが共通している。全くの同一人物が使った魔法というわけではないが、流派を同じくするものによる魔法であることは疑いようがない』」

「ということは――ハンス皇子に呪いをかけて、ダミアンさんのお父さんを殺した人は同じ魔法を使っているということですよね」

「そして、黒朱病の虫に魔法をかけた奴は、このペーパーウェイトに魔法をかけた人物――恐らくは、デザストル商会と繋がりを持っている人物ということになる」

「『その二つの魔法は、似た流派の人間によってかけられたものであるということもお忘れなく』」


 次々と明かされていく事実に、私は言葉を失う。


(つまり……デザストル商会が怪しいってことかしら。少なくとも黒朱病の原因については、彼らが下手人であると確定したってことよね)


「『ああ、伝え忘れていた。デザストル商会の人間は、どうやら王宮に出入りしているようだ』」

「ど、どういうことですか?」

「『彼らは第二皇子と接触し、魔法の使用を試みたようだ。よりにもよって最も魔法に長けたプラチナドラゴン相手に、な』」

「ブランカに!?」


 イスクラがくっくっと喉を鳴らす。

 私は彼女の鱗を撫でてなだめながら、突然耳に飛び込んできた懐かしい名前に呆然としていた。


 と同時に、ブランカが私に送ってくれた便りのことを思い出す。


「そう言えば……。以前ブランカが魔法で私に王宮の様子を知らせてくれました。そこに、ブランカに魔法を使う初老の男性が見えました。ブランカには効いていないようでしたが……」

「どんな見た目だった?」

「痩せた初老の男性でした。鋭い目をしていて、上着は仕立ての良いものでしたが、勲章がなかったので貴族ではないのだと思います」

「鷲鼻じゃなかったか? 髪はたっぷりあるのに痩せぎすで、少し怖い印象を受ける」

「ああ、はい! そうでした」

「そいつはデザストル商会の商会長。サックスだ」


 繋がった。

 ブランカの周りをうろつくデザストル商会の商会長。

 彼らの魔法の痕跡が、黒朱病の原因である寄生虫に見つかった。

お待たせしました!更新再開いたします。

読んで下さり有難うございます。嬉しいです。

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