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33. 冬の朝


「きゅうっ」


 イスクラが鳴いて注意を惹く。

 顔を上げると、まさに太陽が昇りきるところだった。

 じわじわと露わになる太陽が、山間の風景に光をもたらす。

 朝日が昇り切ると、夜という薄布(うすぬの)が一気に引き剥がされ、光と温もりが私たちを包み込んだ。


「綺麗な朝焼けね……!」

「きゅう」


 イスクラが首をこちらに向け、甘えたような声を出す。

 身を乗り出し、目いっぱい手を伸ばしてその鼻面に触れると、彼女は満足げに目を細めた。


「……そうか。魔法なんて使えなくても、あなたが乗せてくれるものね」


 ドラゴンが人間に騎乗を許す。それだけでも凄いことなのに、更にイスクラは私に自分の思いを伝えてくれるのだ。


(もう十分に、魔法の恩恵を受けていたわね)


「さあ、焔の練習はこのくらいにしましょう。ギムリさんが待ってるわ、朝ごはんの時間よ」


 地上に降りると、早起きのドラゴンたちが既に目を覚まし、ギムリさんの手から肉を貰っていた。


「おはようございます、ギムリさん!」

「おはよう、ミルカ嬢。イスクラはどうだ」

「元気です。焔のコントロールも上手くなってきました。ただやっぱり、観察だけでは分からないこともありますね」

「他の個体と比較しなければ、その性質がイスクラ固有のものなのか、それとも火吹き種に共通するものなのか、分からんからな」


 さすがにギムリさんは鋭い。

 私はギムリさんからバケツを受け取り、鶏の生肉をイスクラに与えた。

 甘えたがりの彼女は、最初の一口は私から貰うのを好む。残りをイスクラ用の餌入れに放り込み、私は次のドラゴンの餌やりに向かう。


 昨日長距離飛行を終えたばかりのヴィトゥス種の体を入念にチェックしながら、ギムリさんが言った。


「冬になれば湖が凍って、普段は行き来しない連中もアンドルゾーヴォにやって来る。そこにドラゴンマニアがいるだろうから、聞いてみたらどうだ」

「ドラゴンマニアさん、ですか」

「気難しい男だが、ドラゴンについての知識は天下一品だ。俺もあいつの知識には一目置いてる」


 そう言ってギムリさんは渋い顔になった。


「黒朱病がなぜ秋の早い段階で発生したのか――。その点についても、あいつには相談できるだろう。あの時の虫は薬品漬けにしてとってあるからな」

「黒朱病……。確かにヴォルテール様も、普段は秋の終わりに発生する病気だと仰っていました」

「寄生虫は暑い盛りでないと成虫にならん。成虫がドラゴンの体内に入り込み、体中に毒をばらまくまでは、二か月半から三か月くらいは必要なのだが、計算が合わない」


 八月に寄生虫に侵されたドラゴンが、十月始めの段階で黒朱病になっているのはおかしい。

 ギムリさんはそう言いたいのだ。なるほど、そう言われると確かに違和感がある。


「ミルカ嬢の意見も参考になるが、ドラゴンマニアの意見も貴重だ」

「ギムリさんがそう仰る方なら、確かに色んなことを知っていらっしゃるんでしょうね! 是非お会いしてみたいです」

「もちろんだ。そいつが来たらミルカ嬢にも声をかけよう」


 ギムリさんはそう言って笑うと、一通り餌を与えたドラゴンを見回し、軽くため息をついた。


「では俺たちも朝食にしよう。昨晩女房がミートパイを作りすぎたんでな、良かったらミルカ嬢にと多めに包んでくれた」

「わあ、ありがとうございます! では私からは、熱々コーヒーを提供致します」


 そうして私たちは、持ち寄ったものを囲んで朝食を共にした。

 カップに注ぐコーヒーが、朝日の中で静かに湯気を立てている。


「冬が来るぞ」


 どこか弾んだギムリさんの声が耳をくすぐった。

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