15. ドラゴン日和
そこは、小高い丘の上だった。
日当たりの良い場所で、二十頭を優に超えるドラゴンたちが、のんびりと日向ぼっこをしている。
ヴォルテールさんのドラゴン、カイルほどではないにしろ、王宮では見たこともない程大きなドラゴンもちらほらいた。
「すごい……! あの大きなドラゴンはサーペンティン種でしょうか? 蛇みたいな模様が入っていてすごく綺麗……! あっ、あっちのお腹を見せているのは、もしかしてザルデル種!? 背骨のところにルビー状の突起があるというのは本当だったんですね……! 父さんのスケッチで見た通りだわ」
ついついはしゃいでしまう。でも、どうか許して欲しい。
だって今まで見たことのないドラゴンが、あちこちに普通に生きているんだから!
「ミルカ嬢は随分お詳しくていらっしゃる! 見たこともないのによく分かりましたね」
「私は友人もいませんでしたから、父が描き残したスケッチや、ごくわずかなドラゴンに関する本ばかり読んで育ったんです。だから、本に載っている種族の特徴は全部頭に入っていますよ」
私たちは慎重にドラゴンたちに近づく。
犬や馬ではないのだ、接近するにもこちらの存在を向こうにアピールする必要がある。
彼らはあまり警戒していなかった。私をちらりと見ると、興味が無さそうにそっぽを向く。
興奮しているのはむしろブランカの方だった。きょろきょろと辺りを見回し、ドラゴンに近づこうとしては警告音を発して後ずさっている。
相手のドラゴンは、気怠そうにブランカを見やるだけで、若いドラゴンの仔に構ってやる気は無さそうだ。
(こんなにたくさんの、しかも巨大なドラゴンを見る機会なんて、王宮ではなかったものね)
「ブランカ、落ち着いて。大丈夫よ、私がいるでしょう」
「グルル……」
ブランカは私の後ろに隠れると、そうっと顔を突き出して辺りを伺い始めた。子供のような仕草に、思わず笑ってしまう。
ケネスさんもにやりと笑って、
「プラチナドラゴンの仔でも人見知り……いや、ドラゴン見知り? するんですねえ」
「王宮のドラゴンは、他のドラゴンと交流する機会があまりないですから。それでケネスさん、私は彼らの世話をしたら良いのでしょうか」
「はい、そちらをお願いしたいのです。今の飼育員たちもそれなりに頑張ってくれているのですが、ドラゴンについての体系だった知識があまりなくて。特にちょっとした病気や不調に対して弱いんです」
「なるほど。ドラゴンに近づいても良いですか」
「ドラゴンが許せばいくらでも」
私はまず、丘の一番高くて日当たりのいい場所に横たわっているドラゴンに目をつけた。
ドラゴンは明確に順位をつける生き物だ。一番強い、あるいは美しいものが、一番大きな餌をとる。
ザルデル種のそのドラゴンは、美しい赤い体色を持ち、長い尾を優雅にくねらせて私を見つめていた。
さすがに、出会ってすぐは触らせてくれないだろう。遠くから観察するだけに留めておく。
「……色艶は良い。目も濁っていないし、鱗に剥がれもない。爪は――」
黒いかぎ爪は、表面が剥がれてボロボロになっていた。炎症を起こしているのだ。
あれでは獲物に爪を立てられないだろう。飛び立つ時に踏ん張りもきかないし、何より他のドラゴンと戦った時に負ける可能性が高くなる。
別のドラゴンの様子もじっくりと見てみるが、爪に炎症を起こしているドラゴンは他にもちらほらいた。
「爪に炎症が起こっている個体が多い、と思うだろうな?」
「ひゃあっ!?」
後ろから話しかけられて飛び上がる。ついでに足元のブランカも、背中の膜をばっと広げて、警告音を上げた。
振り向くとそこには、一人の老爺が立っていた。




