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武田晴彦 20歳。アルバイトをしながら暮らす青年。
跡部妖子 20歳。晴彦の幼馴染。
赤松マドカ 四年前に亡くなった少女。資産家の娘。
そこそこ優雅なホテルの一室。
「妖子…、高校を卒業できなくてフリーターの僕を、よく支えてくれる気になってくれたね」
俺、武田晴彦は高校時代、ある事件に巻き込まれて、かけがえないのない女性の死に立ち会った。
その場所というのが彼女の自宅 兼 死亡現場であったため、別れを悲しむ間もなく警察に逮捕される。住居侵入とかそういうのだったと思う。
この事件の後、周りの視線から耐えられなくなった俺は高校を中退、いくつかのアルバイトを経験した。
「晴彦は赤松ちゃんに代わってちゃんと私が守るからね。そのためにバウンティハンターで稼いでいるわ」
頼もしくブランデーを飲み干す筋肉美女は跡部妖子。厚いまな板がガウンの上からでもわかる。
時給九百円の俺と違い、妖子は強靭な腕力と高いIQを駆使して、凶悪な指名手配犯を捕まえることで懸賞金を得ている。
日本では馴染みがないが、こうした職業をバウンティハンターという。彼女にくらくらするのは、酔いのせいではないな。
「下着を奪ってメルカリやブルセラ店に卸す大変な仕事だね」
「パンティハンターじゃないわ」
まるで冴えない僕のボケに冷静に、そして優しく妖子はツッコんでくれる。
妖子は微笑み、僕を抱きしめた。
「わかっているさ。今月も君は三百万円の星を挙げたばかりだからね」
高額な懸賞金の魅力もさながら、バウンティハンターというものはなかなか食い扶持が広いのだ。
YouTubeチャンネルの広告収入や執筆依頼、abemaTVといったメディアへの出演など多岐に渡る。早くアニメ化でもしてくれんかな。
「結婚しよう、妖子」
「うれしい…」
明日はティファニーで指輪を買いに行こう。妖子とそう約束をした。記念すべき一日になる。
俺たちは一本五千円のワインを味わいながら眠りについた。
翌朝。
「おはよう、妖…ぎゃあああああ!?」
俺は思わずベッドからすっころんで頭を強打してしまった。
「うぅん。どうしたの?晴彦」
「どうしたじゃねえよ、誰だお前!」
ベッドで寝ていたのは妖子ではない女だった。
一体どうなってんだ。妖子に殺される。
つづく。
近日、公開…かも。