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無関心であり続けて

作者: 337

 他人なんてどうでもいい、興味も関心もたいしてない。それは偽らざる本心だが、時折目で追いかけてしまう人達がいた。

 不愛想で手首に無数の傷を持つ彼女。

 孤立した彼女を気に掛けている彼。

 死にたがっているかのようにしか見えない彼女は不気味がられて、放っておけばいずれ独りぼっちになっていただろうに、彼だけは彼女に向き合っていた。

 彼は何故あそこまで彼女の事を気に掛けるのだろうと、好奇心に駆られてしまいそうになったが、知った所で私に何かが出来るわけでもない。何かするつもりは毛頭ない。

 ならば興味を持ったところで無意味でしかない、それならば無関心であり続ければいい。

 それを貫き続けていた。今後も貫いていくつもりでいた。だが変わってしまった。

 関わるつもりなんてなかった。きっとそれは偶然としか言いようがない。


 †


 夜の訪れが随分と早くなってきた十二月。

 ちょっとだけと思って立ち寄った図書室に思いの外長居してしまい、急いで帰ろうと思った時に、教室に忘れ物をしたのを思い出して取りに戻っている時の出来事だ。

 階段を上り終え、教室に向かおうとした時に、上の階から降りてきた彼女と目が会ってしまった。

 このまま目を逸らして、見なかったことにしても良かったのに、最上階であるこの階上から降りてきたことへの疑問から、目を逸らすのが遅れてしまった。

 ――屋上に行っていたのか?

 疑問への答えとしてはそれが妥当だった。

「ねえ」

 そんな逡巡をしていたら、彼女から声を掛けられてしまった。

「これを彼のロッカーに入れて貰えないかしら?」

 一方的なお願いと共に差し出されたのは、ノートの切れ端と何処かの鍵だった。

「彼のロッカーの場所なんて把握していないわ」

 一応一年近くはクラスメイトをしている、彼が誰のことを差しているくらいはわかるが、それ以上は知らない。

「ああ、そうね、そうよね」

 彼女自身駄目元のお願いだったのか、断られたこと自体は気にしているようには見えなかった。

「やっぱり最期くらいは自分でやった方がいいよね……」

 独白が零れたかのようなか細い声。

「覚悟を決めたつもりでも、いざとなると緊張するものね」

 目の前にいる私の事など意に介さず、振り返り今しがた降りたばかりの階段を登っていく。

 明らかに不審な行動、普段であればこんなものは直ぐに見なかったことにしてしまうのだが、妙な焦燥感が胸中をよぎった。

 段々と遠ざかっていく背中、今声を掛けなければ何か取り返しのつかないことが起きそうな気がしたが、そんな直感を私の中の無関心が拒む。

「……。」

 結局声を掛けることが出来ず、その背中は屋上へと消えて行った。

 ――追いかければまだ間に合う。なんで追いかけなくてはいけない?

 頭の中で巡る感情、それでも選び取るのはいつも通り。

 彼女が消えて行った屋上に背を向け、見なかったことにして当初の目的通りに教室へと向かう。

 消えぬ焦燥感に無関心を装って。


 †


 翌日、寝不足による倦怠感を抱えながらも、いつものように登校した。

 いつも通りの喧騒に包まれた教室、横目で彼女の机に視線を送るがまだ来ていないみたいだ。ついでに彼の姿を探しておく。彼の方はもう座席についており、授業が始まるのを待つのみと言った感じだ。

 ――考えすぎだろう。

 自分に言い聞かせて、いつも通りの日々を迎えようとしていた。

 だが、朝のホームルームを迎えても彼女は姿を見せることはなく、いつもより遅れて教師が姿を現した。

 普段は明るい先生だと言うのに、神妙な雰囲気から教室内が自然と静まり返っていた。

 嫌な予感がより一層濃くなる。

 そして担任の口から告げられた言葉は、昨夜彼女が自殺をしたという内容だった。

 妙な焦燥感の正体に触れ、ざわめく胸中。

 自然と彼に視線が向いていた。

 そこにあるのは顔面蒼白と言う言葉をそのまま表した容貌があった。

 ――昨夜、私が声を掛けていれば変わっただろうか?

 自身への問答、答えなんて直ぐにわかった。

 ――何も変わらない。

 まともに会話をしたこともない、碌に興味すら示してこなかった相手の言葉一つで、彼女の行動に変化を起こせたとは思えない。

 唯一親身になっていた彼をもってしても変えることのできなかった結末なのだ。私が予兆に気が付いていたとしても何もできなかった。

 自己正当化の言葉だとは認識している。

 私にはできることなんて何もなかった。

 それならば、私が取る行動は決まった。

 いつも通り、無関心であり続けていればいい。

 無関心であり続けて記憶の風化を待てばいい。

 変わらない。

 いつも通りだ。



 ……いつも、通りだ。


 どうも337(みみな)です。

 この度は『無関心であり続けて』を読んで頂きありがとうございます。

 本小説は冬童話2022に向けて書いたものとなっております。

 去年のあとがきで冬童話に参加するのが十回目と書いていたので、今年は11回目になるそうです。二桁に入るとは、長く続けていますね。

 今回は初めての試みとして、冬童話2015の時に投稿した『生きたがりの僕。』(https://ncode.syosetu.com/n9553cl/)のスピンオフ的な内容になっています。


 最後に、過去の冬童話祭で投稿した『さよなら透明人間』『Your time,My time./その表情が見たくて。』『黄色い百合の造花を貴女に』『スノードロップに託した想いは――』『うそつき』『僕が願った勇者の夢は――』『生きたがりの僕。』『死にたがりの僕が見つけた生きる理由。』『ハルジオン』『見えるから。』もよかったらご覧ください。



 では、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しい結末ですね。 避けることはできなかったのでしょうか、と考えてしまいます。
2022/01/19 19:29 退会済み
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