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Hy タクシー  作者: 平一
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第3章 タクシードライバー、平岡勉誕生

今日から教習所に通う日々。教習所に着き受付を済ませて椅子に座る。すると、制服を着たスラッと背の高いおじさんが

「おはようございます、平岡さんの担当をさせてもらう東山です。これから、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします、平岡です」

「じゃあ、平岡さん、さっそく運転しますか」

「はい」

そう言われ、教習所の先生の後を付いていき運転を始める。

「平岡さん、運転上手いですね」

と言われる位、運転には自信があった。しかし問題は…そう学科なのです。勉強嫌いで学生の時の成績は体育以外、1と2…机に向き合う事すらしなかった。ただ、そんな自分でも目標を見つければ不思議と机に向き合うことが出来た。勉強、勉強、そしてまた勉強。人生で初めて、こんなに勉強をした。慣れない事をやり続け…頭痛…前頭葉が痛い。そして、学科試験当日、小雨が降る中、南アルプス市にある免許センターにワイパーを動かし安全運転で車を走らせていると、視界に大きくて広い免許センター。到着しその駐車場に車を停め、受付をする為に窓口に向かう。

「すいません。二種免許の学科試験を受けに来た平岡です」

すると受付の人が

「分かりました。じゃあこの番号を持って試験をする教室に行って下さい。そして、その番号が書いてある机に座って下さい。この番号は最後まで使うので必ず持っているようにお願いします」

「分かりました」

38番。紙に書いてある番号を確認してポケットにしまって教室に向い、席に着くと緊張で手汗が出る。手汗をズボンで拭きながら気持ちを落ち着かせる。静かな教室で時間の流れが遅く感じる。すると試験官が1人、2人、3人と教室に入ってきて解答用紙を配り始めた。そして、解答用紙が手元に来て目を通す。

「分かる。完璧だ」

静かな教室で試験官が言う。

「それでは、始めてください」

勉強をやり続けた結果、自信に満ちながら、手応えを感じながら、スラスラと問題を解いていく。全問解いた瞬間大きく息を吐いて安堵した。そして答案用紙を回収した後に試験官の方が

「1時間後に受付の上の電光掲示板に合格者の番号が表示されます。番号が表示された人は、そのまま、椅子に腰掛けてお待ち下さい」

「大丈夫。番号はある」

と自分に言い聞かせ教室を出る。そして、ポケットに入れた番号を取り出したら見事にしわくちゃなっていた。そのシワを取ろうとしても取れない…当たり前である…

「まっ、いっか」

そう、どうでもいい事に気付いて喫煙所に向かう。そして、煙草に火を付け大きく吸う。

「フーー」

すると後ろから

「二種免許の試験を受けに来た人ですよね?」

ビックリして後ろを振り向くと背の低い小太りの人が声を掛けてきた。

「そうです。そちらもですか?」

「そうそう。目の前に座ってて、しかも若い人は、君しかいないからさ、目立ってたよ。どうだった?出来た?」

そう聞かれ、自信に満ちた表情で

「はい、出来ました。手応えバッチリです。どうでした?出来ました?」

「俺は全然、駄目、出来なかったよ…」

「そうなんですね…」

何て返していいのか分からず重い空気になってきたので煙草の火を消してその場から逃走する。まだ時間があったので、外の空気を吸いに行き、椅子に座って携帯ゲームをして待つことに。…1時間後…アナウンスが流れる。

「只今から、合格者発表をします。電光掲示板にて、番号をご確認下さい」

「やっとか」

長い、長い1時間がやっと終わって電光掲示板向かう。目の前にさっき話しかけてくれた人が歩いていたので距離を空けながら付いていき、電光掲示板の前に。そして、自分の番号を確認する。

「38番…38番…38番……無い……まじか…」

頭の中が真っ白になっていく。答え合わせをしたくても、答案用紙は返ってこない。本当にどこが間違えたのか分からない…そして、ふと話しかけてくれた方を見ると、目が合った。哀愁を漂わせながら近づいてきて

「俺は駄目だったけど、どうだった?」

「自分も駄目でしたよ」

「そっか。お互い次頑張ろうね」

「ですね、頑張りましょうね」

お互いを励ましながら免許センターを後にする。勿論、哀愁を漂わせて……そして、1週間後の試験のために翌日からまた猛勉強の日々。頭痛を堪えながらまた1から勉強をやり直す。過去に出た試験問題も解きまくる。そして、1週間後…免許センターに着いて受付を済ませる。今度の番号は…17番。教室に着いて辺りを見回すと、前に話し掛けてくれた人が1番前の席に座っていた。目が合いお互い軽く頷き、自分も席に着く。そして解答用紙が配られ

「始めてください」

またスラスラと問題を解いていく。

「これで駄目ならもう分からん」

と思えるほど手応えがあり見直しも完璧に終えて試験終了。教室を出てまた喫煙所に向かうと話し掛けてくれた人がいて、一緒に煙草を吸うことに。

「今回はどうでした?」

今度は自分から話を振ってみると

「前回より出来けど、そっちはどうだった?」

「おー!それはよかったですね。こちらも出来ましたよ。まあ、前回も出来たって思ってたんですけどね」

今回は重たい空気にはならず、ゆっくりと煙草を吸うことが出来た。…1時間後…アナウンスが流れ電光掲示板の前に向かう。今度は1人ではなく、隣には話し掛けてくれた人。2人で自分達の番号を確認する。

「17番…17番…17番………あった」

嬉しさの余り小さなガッツポーズを決め、その場に倒れそうになるぐらいの安堵感、脱力感。隣を振り向くと話し掛けてくれた人が小声で

「あったよ」

震えながらそう言った。次の瞬間には、無意識で握手を交わしていた。

「本当にお互いよかったですね。もう勉強しなくてすみます」

満面の笑みで言うと、握手をほどいて、免許センターを後にする。健やかな青空の元、結果報告をするために、車で会社に向かうのであった。

「結局、話し掛けてくれた人の名前を最後まで聞かなかったな…まあ、いっか、次は実技試験だ。頑張るぞ」

免許センターから会社までは結構距離が離れていたので着く頃には夕暮れになっていた。会社に車を停め社長に報告をする。

「社長、学科試験合格しました」

「おー!早かったな。この調子だと1ヶ月もかからないな。次は実技試験だろ?寝不足にならないように早く帰って休んで、頑張って」

「はい、頑張ります」

そう言って帰宅し洗面所に向かい手を洗いながら鏡の中の自分を見る。睡眠時間を削りながら勉強をしていたせいで目の下の隈がすごい。よく眠れそうだ。そうよく眠れたのであった…

「チュンチュン」

雀の鳴き声と共に目が覚めた…そして目覚まし時計を見る。

「しまった。遅刻だー」

実技試験が始まってるであろう時間に起きたのである。稀にみる大遅刻、諦めずに急いで教習所に向かう。しかし、そういう時に限って渋滞やら、信号に引っかかる。

「最悪だ、会社に何て言えばいいんだ」

言い訳を考えながら車を走らせる。考えながら車を走らせた結果……諦めた。

「まあ、いっか、しょうがないな、とりあえず教習所には行こう」

教習所に着いてゆっくりと受付の方に向かう。

「すいません、今日実技試験をする予定だった平岡勉です」

「今日ですか?少々お待ちを」

そう言うと受付の人がパソコンを開いて予約の確認をする。

「ん?…平岡さん、明日の9時からになっているんですけど…」

奇跡が起きた…

「神様って本当にいるんだな」

と初めて思いながら安堵した。

「すいません、日を間違えました。また明日来ます」

そして教習所を出て車を走らせて向かった先は

「パチンコ行くか」

翌朝…

「チュンチュン」

雀の鳴き声と共に目覚めの悪い朝を迎える。なんとビックリ財布の中が空っぽになっていました。

「はぁー…負けた」

ため息を1つ入れ重い足で教習所に向かう。無事に遅刻を間逃れて、教習所に着き、受付を済ませて試験車の方に行く。試験車の車の前には最初に誉めてくれた東山先生が立っていた。実技試験の開始である。

「よろしくお願いします」

先生の表情が真剣になる。

「こちらこそ、お手柔らかにお願いします」

そして、自分も緊張して引きつった表情になる。すると先生が

「まず構内を、運転して下さい、その後は路上と言う流れになります」

「分かりました」

まず最初に、車に乗る前に車の前後左右に行き何も無いことを確認して車に乗り込む。次にバックミラーを見て、その後にサイドミラーも確認する。そして、ギアを入れゆっくりと車を走らせる。すると先生が

「縦列駐車をお願いします」

「分かりました」

縦列駐車を難なくこなす。

「じゃあ次は鋭角コースお願いします」

「分かりました」

この鋭角コースが1番難しい…1回では曲がりきれない鋭いカーブ。車幅と車間を見極めて切り返しながら曲がっていく。完璧に曲がりきり

「ふー」

深く深呼吸をする。

「じゃあそのまま路上の試験に移ります。Aコースでお願いします」

「分かりました」

路上試験にはA、B、Cコースがあり、各コースを覚えながら練習していたのであった。そして、Aコースも完璧にこなし、教習所構内に戻り車を停め実技試験が終了した。

「お疲れ様でした。では平岡さん、中に入ってお待ち下さい」

「ありがとうございました」

車を降り、待合室で待つことに。20分後…

「平岡さん、お待ちどうさまです、こちらにどうぞ」

そう言われ、奥のテーブルにお互い腰掛けて、先生が

「運転本当に上手ですね。平岡さんの運転するタクシーに乗ってみたいです。おめでとう、合格です」

「ありがとうございます」

本当に嬉しい時はこの言葉しか出ない。合格したのは勿論嬉しいけどその一言の方が遥かに嬉しかったのである。ここにタクシードライバー平岡勉が誕生したのであった。


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