第2章 本当の始まり
それから半年後…
「チュンチュン」
雀の鳴き声と共に朝を迎える。今回は寝坊しなくてすんだのである。
「腹減って全然寝れなかった。今日、今から会社に行かなくちゃ行けないのに…」
この半年間何があったとかと言うと、パチンコに負けに敗けを重ね、電気、ガス、水道が止まっていたのである。もちろん携帯も…食べ物は、カップ麺をそのまま、バリバリ噛ると言った生活の日々を過ごしていたのである。そう、平岡勉はクズである。低血圧になり、フラフラになりながら会社に向かう。会社に着く頃には息切れし、今にも倒れそうになる。目の前の扉も半年前には感じなかった重さを感じ扉を開く。そして、そこには誰もいない…
「携帯が止まって、連絡出来なくていきなりならしょうがないよな、外で待とう」
と思いながら外に置いてある椅子に腰掛けて待つことに。するとそこに1台のタクシーが帰って来た。
「お客様?」
ウィンドガラスを開けて優しそうな運転手さんがそう聞いてきたので
「違います。半年前に面接来たんですけど、社長さんいますか?」
「社長いるよ、ちょっと待ってて」
そう言ってタクシーを停め、会社の中に入っていったので、また椅子に腰掛けて待つことに。
「おー!本当に来るとは思わなかったよ。」
社長がビックリした顔で優しく声を掛けてきた。
「連絡手段がなくて、いきなりですいません。よろしくお願いします」
深々と頭を下げて謝罪すると
「じゃあ付いてきて」
社長の後を付いていき面接した時と同じ部屋、応接室に着き腰掛けた。すると
「コンコン」
扉をノックする音が聞こえ
「失礼します、こちらをどうぞ」
なんと、事務員さんが熱い珈琲とお茶菓子を持ってきてくれたのである。
「ありがとうございます。頂きます」
「ゴクリ」
最近公園の水道水しか飲んでなかった自分の胃袋にコーヒーの味と熱さが染み渡り、涙が滲む。
「それじゃ平岡さん、説明させてもらいます」
真剣な社長の言葉に耳を傾ける。
「お願いします」
「まず始めに、平岡さんには指定した教習所に通って二種免許を取りに行ってもらいます。費用はこちらで用意するけど、2年は働いてもらいます。2年以内に退職してしまうと費用は全額払う事になってしまいます。2年働けば払わなくて大丈夫って話。そして二種免許は約1ヶ月で取れるので頑張って下さい。それで、いつ頃から取りに行けますか?」
憧れの職業、そして無一文の自分には愚問なんです。
「明日から行けます!!」
被せるように即答すると社長が落ち着いた表情で
「わかった。今から教習所に連絡して予約をしてみるけど、明日は急すぎて駄目かもしれないよ。ちょっと待ってて、聞いてみる」
そう言って社長が電話を掛けに応接室から出ていったのだ。時計の秒針だけが聴こえる静かな応接室、少し冷めた珈琲を一気に飲み干し待っていると
「ガチャ」
扉を開ける音と共に社長が戻ってきて、静かに椅子に腰掛ける。
「3日後の朝9時から教習所に行けますか?」
そしてまた、被せるように
「行けます」
社長の顔から笑みがこぼれる。本当に嬉しそうな表情で
「よっしゃー。じゃあ3日後の朝9時から予約入れとく。本当に助かるよ。今この業界若い人少ないからさ、よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。3日後の朝9時に教習所に行きます。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って、面接を終えテーブルの上にある、お茶菓子を少しポケットに入れて会社を後にする。
「よっしゃー、頑張るぞー」
この時、22歳、平岡勉、無事に無職から脱却、本当の始まりはここからである。