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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》白馬ファルキリーを巡る争い
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《☆~ バゲット三世の訪問(五) ~》

 四輪車の座席は、背もたれのある肘掛け椅子になっており、大人しく座っているのなら、そこから転落するのを防止できる働きが備わっていると言えよう。

 車体そのものには、前面にだけ腰の高さくらいの柵がついているけれど、周囲には落下防止の用意が、なにも施されていなかった。だから、突如立ち上がって横方向に大きくよろめいた男は、車体の右側へ横向きの悪い体勢で落ちることになった。

 すぐ近い位置で守りの構えをしていた衛兵が、俊敏な動作で飛び出し、落下してくる男の上半身をどうにか受け止めることができた。

 しかしながら、これはあまりに咄嗟の事態だったため、衛兵の身体が均衡バランスを崩し、男と一緒に倒れる。結果として、男は右の足を地面に強打してしまい、大声で「痛い(ハーツ)畜生ダム!」と叫ばざるを得なかった。

 ありのままを見届けたジェラートは、地面に転がって苦悶の表情を浮かべている男の傍へ駆け寄ろうとする。

 けれども、サトニラ氏によって阻止される。


「近寄らないで下さい」

「すぐに医療室へお運びしませんと」

「いいえ。我が帝国王の治癒は、この場にいる部下たちにやらせます」

治癒魔法(ヒーリング‐スペル)を使える魔女族がいるのですね」

「いいえ。医療学者(メディカル‐スコラ)たちです。人族の怪我や病気には、人族の知恵と技術を使って治すのが、最もよい治癒手法なのです」


 サトニラ氏が言い終わるよりも早く、つき従ってきていた数人の医療官が、転落した男の周囲に集まった。彼らは、このような事態に備えて、応急処置ができるような、治療道具や薬剤類などを用意していた。

 ジェラートは、サトニラ氏の言葉を受け入れることにする。


「分かりました」


 人族の中には、魔女族に治癒して貰うことを嫌がる者も多いのは事実である。

 そうだとしても、四人いる王妃の全員が魔女であるはずのパンゲア帝国王が、まさか治癒魔法を嫌っているのだろうかと、ジェラートは不思議に思うのだった。

 少しして、医療官の一人がサトニラ氏の元へ、状況報告にやってきた。


「我が帝国王は、右御御足(おみあし)のおこつを、お折り遊ばしました。全治二ヶ月です」

「それは嘆かわしい限りである。王陛下、お骨のご回復をお祈り申し上げます」

「我が帝国王は、すぐに帰国したいと、お泣き遊ばしました」

「ならば直ちに、帰国の仕度を始めなさい」

「了解しました」


 医療官は()()()の元へ戻り、帰国の途に就く旨を、周囲の者たちに伝えた。


「骨折をなさっておられるのなら、長距離の移動などは数日の間、お控えになるのがよろしいのでは?」

「いいえ。我が帝国王からのお言葉は絶対なのです。従いまして、本日予定のありました、貴国皇帝との会談は取りやめとなります」

「そうですか」


 ジェラートは、最早それ以上、なにもを提言しようとしなかった。今の場合は、いわゆる「馬の耳に(プリーチ・トゥ・ザ)念仏(・ウィンド)」となってしまうのである。

 もしも自分がサトニラ氏の立場だったなら、そして骨折なさった人物がローラシア皇帝陛下であったなら、どうするのかを考える。ご容態を最優先にして、陛下のお言葉に逆らうことになろうとも、患者を安静にするという選択を余儀なくされるに違いない。一等管理官の立場にある者として、そのように判断せざるを得ないジェラートなのだった。

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